エピローグ 運命の分かれ道
こうして”宝石の湧き出す村”での騒動は一段落する。
特産品を提示するために、アルミナはゲマ豆を持って王都へと向かうこととなり、冒険者たちに道中の護衛を依頼した。
準備期間として、彼らは数日間、村に滞在することになったが――
「どのみち、俺たちも王都へ向かうところだったんだ」
いつの間にか、アルミナに対するルークの語尾から、丁寧語が抜けていた。仲間と喋りながらだと、彼女に対してだけ丁寧に話すのが難しいらしい。アルミナも特に気にしていない。
出発までにはルークとザッシュの怪我も完治した。二人はすぐに激しい鍛練を開始して、ダークに「体力お化け」とドン引かれた。
村にいる間、キルリーフは姿を見せたり見せなかったりしていた。これはいつものことだ。
姿を現したとき、待ち構えていたヴィンセントは彼をつかまえて『宝石』を食べさせ、反応を窺った。
後から「どうだった?」と問うダークに、「口に入れた瞬間、瞳孔が心なしか大きくなりました」と報告する。
「それだけ?」
「それだけ。いつかキルくんから満面の笑顔や、しかめ面や泣き顔を引き出してみたいですねぇ」
「死んだ表情筋を回復する薬は作れないの?」
「君はナチュラルに毒舌ですよね」
ヴィンセントは、魔術師の容赦ない描写に笑うのだった。
◇
やがて冒険者たちは、空を天蓋に、風を供とする旅路へ戻る。
神殿騎士には選択が。
魔術師には闇が。
癒やし手には記憶が。
混じり者には内なる獣が。
森エルフには使命が。
折りにつけ彼らを試し、彼らを襲い、彼らを苦しめ、その行動を縛ることだろう。
だがそれらの物語も今はまだ、時紡ぐ三女神の薄暗いヴェールの下に。
いずれ語られる夜を待っている――
――『宝石の湧き出す村』<完>――
◇
語りを終えた吟遊詩人は、最後の和音を爪弾く。音は空間に反響し、余韻と共に地面へ落ちていった。
詩人はゆっくりと目蓋を開く。一瞬、自分がどこにいるのか分からない顔をした。
それもそのはず。
彼は語りながら、常に五人の冒険者の傍にいたのだ。彼らの語りを聞き、彼らの動きを見て、彼らの心を探り、それを必死に歌にしていた。その間、詩人は自分が筒になった気がしていた。
一つの場所から映像をくみ上げ、別の場所へと流す筒に。
前方からため息が聞こえ、彼は顔を上げた。
見れば巫女をはじめ、女官たちも夢から覚めた表情をしていた。少なくとも、彼女たちを話に引き込むことには成功したらしい。
さあ、審判の時は来た。
吟遊詩人は居住まいを正し、一礼した。
「以上が即興歌、”宝石の湧き出す村”の全てであります」
巫女は頬に片手を添え、小首を傾げる。
「なるほどねぇ。遺跡の中に宝石が見つからなかったときにはがっかりしましたけれども、思いもよらぬ形で登場して驚きましたわ」
この言葉に、吟遊詩人は口元をほころばせた。
『宝石』の材料となった豆については、全くの虚構ではない。名前こそあえて変えたが、実在するのだ。不思議なことに宝石とも関わりがあり、宝石の重さを表す単位は豆の真の名に由来する。
旅の中でたまたま耳にしたこの豆の話が、今回の物語の小道具として結実したのは面白いことだと彼は思った。
だから吟遊詩人は、旅することを求められる。見聞を広めることを求められる。
しかし今回、彼が最も力を入れたのは、巫女の注文の方だった。
五人の男性冒険者。それぞれに訳ありで、駄目なところがある。”宝石の村”に関する物語は語り尽くしたが、彼らの全てを開示はしていない。当然だ。
これは吟遊詩人の命を贖う物語。
巫女が欲しがるものを、一度に渡しては駆け引きにならない。
けれども見せなすぎても興味を引けない。その匙加減が難しかった。
「いかがです巫女様? 私を泥棒ではなく、吟遊詩人とお認めいただけますか」
「そうね。どうやらあなたが吟遊詩人というのは本当のようだわ」
巫女はクッションに座ったまま、すらりと細い足をこれ見よがしに組み替える。
吟遊詩人が安堵の表情を浮かべた次の瞬間、彼女は「ただし」と厳しい声で付け加えた。
「泥棒でないとまでは認められないわね。今のところ」
「それは……」
「あなたは神聖にして侵されざるこの島に無断で入り込んだのよ。どうやったのか、皆目見当もつきませんけれど、ともかくね? わたくしは、あなたの罪を許したわけではありませんの」
吟遊詩人は明らかに落胆した。胸の前に構えていた愛用のリュートから両手を離す。
「では。私の命もここまでということでしょうか?」
「あら? わたくしも、そこまで鬼ではなくてよ」
巫女は手の甲を口元に添え、コロコロと笑った。そうしていると、無邪気な少女にしか見えない。
話が見えず、吟遊詩人は黙って続きを待つ。
巫女は笑いを収めると、女官たちを振り返った。
「ねえ、あなたたち。どう思いますこと? 彼は死ぬべき? それとも歌うべき?」
吟遊詩人も驚いたが、話を振られた女官たちはもっと驚いたのだろう。お互いに顔を見合わせ、困惑している。
巫女は微笑んだ。そして右手の人差し指を立てる。
「難しい話ではございませんわ。彼の話はもう結構。今すぐ処刑すべきと思うか、或いは――」
巫女は右手の中指を加える。
「明日の夜、もう一度ここに来させて話の続きを歌わせるか」
女官たちは納得した顔になった。巫女は彼女たちを手で差し招く。近くにいた者も、離れていた者も、巫女の指図に従って集まった。
彼女らはひそひそと話を始める。
この後、二種類のエンディングが提示されます(エピローグ終とエピローグ続)。
お好きな結末をお選び下さい。それが、読者様それぞれにとってのエンディングです。
どちらの反響(いいね数や感想など)が多かったかで、シリーズ2を書くか、このまま(1のみで)終了するか決定します。
実験的な手法ですが、おつきあいいただければ幸いです。




