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15 水の小部屋

 隠された小部屋は正方形で、やはり太陽の小部屋と同じ大きさだ。収納が何も置かれていない分、こちらの方が一回り広く見えた。

 床には水色や紺色や白色のモザイクタイルで、水の渦が描かれていた。概ね円形をしている。

 そして太陽の小部屋との大きな相違として、正面の壁いっぱいに、謎の模様が彫刻されていた。

 部屋の中央から四方を確認したのち、ルークは仲間を呼び寄せる。


「こっちは床も壁も綺麗なもんだ」

「長らく使われた形跡がありませんね。オルド村長も、存在を知らなかったようですし」


 村長は祭りに使われる広間の奥に、部屋が一つあるだけだと言っていた。隠し扉の存在を、村人は知らないとみていいだろう。


「なんだよなんだよ! いよいよお宝の匂いがしてきたんじゃねえ?」


 ザッシュが両手を摺り合わせて嬉しそうにいう。キルリーフは足音を立てずに歩き、奥寄りの床の一点を凝視した。太陽の小部屋では、謎の切れ込みがあった位置だ。そこには彼の目を持ってしても、何の切れ込みもそれ以外の違和感も認められない。

 キルリーフの隣に立ち、ダークは壁を見上げた。

 壁画の模様は意味不明だ。数多くの曲線が浮き彫りにされているが、どれ一つとして意味のある絵にはなっていない。その上、剥がれてしまったのか右下は正方形の何もない窪みになっている。

 窪みを見つめるうちに、ダークの脳裏にひらめきが走った。彼はこれを、”よく知っている”。視線を壁の中央に戻した。


「十五枚」


 彼は確信的に呟く。


「これパズルだよ、みんな!」


 弾んだ声で、彼は仲間達を振り返った。それぞれの場所を探索していた瞳が、一斉に最年少の魔術師に集まる。


「十五パズル。知ってるでしょ?」


 反応はまちまちだ。ルークとヴィンセントは頷いたが、ザッシュは首を振り、キルリーフは無表情だった。


「随分とまた、懐かしいものですね」

「ダークはあれ、好きだったよな。孤児院にあった木製のパズルでずっと遊んでたっけ」

「遊んでたんじゃないよ。定理を考えていたんだ」


 ダークは頬を赤らめ、ぷくっと膨れた。


「ていり?」


 ルークとザッシュが同じ角度で首を傾げる。ダークは説明する気がないらしく、彼は壁に向き直った。


「まあパネルの正解位置が分からない以上、解けるかどうかは動かしてみるしかない。ヴィンス、手伝ってくれる?」

「勿論ですよ、ダーク」


 ヴィンセントが頷いて、隣に進み出た。


「ザッシュと兄さんは、僕たちの指示通りにパネルを動かして」

「分かった」

「任せろ!」


 キルリーフもダークの傍にやってくる。


「自分は?」

「ああ、ええと……。じゃあ何か気づいたら教えて」


 ダークの言葉に、キルリーフは無言で頷く。


「これ、何の絵だろうね?」

「この時点ではさっぱり分かりませんね。線が込み入っていますし」

「ともかく、切れた線と線が繋がりそうなところが隣り合うようにやってみよう」


 これを耳にしたキルリーフは、懐から羊皮紙と木炭を取り出し、何かをメモし始めた。

 ダークは気にせず、まずは空白タイルの真上のタイルを下げるよう、壁の前の二人に指示する。指示を受けた二人は、タイルに手を添えて下に動かそうとした。軽い力で動く。

 空白の場所が、下から二行目、一番右の列に移動した。


 この操作が、幾度も繰り返されることになる。

 一番上のタイルは多少動かしづらかったが、大柄なザッシュには手が届いた。

 しかし半分くらいは形が出来てきたように思ったところで、途中で絵柄を読み違えたことに気づいてやり直すなど、苦戦をする。

 タイルを動かしていた二人にも疲労が見えてきた矢先。

 ダークの肩を、キルリーフがちょいちょいとつついた。


「どうかした? キルリーフ」


 森エルフは無言で羊皮紙を差し出してきた。上半分には一枚一枚のタイルの、端で途切れた線の数が数字で示されて分析されている。例えば一枚目のタイルが、上5右3下6左2、と言った具合に。さらにタイル番号が割り振られていた。

 そしてそれを元に、下に収まるべきタイル番号が順に並んでいた。

 ダークは息をのんで、彼を見上げた。


「すごい! 完成図が分かったの!?」


 キルリーフは頷く。

 さらに彼は、パズルの傍に座り込んで一休みしているルークとザッシュの間に歩を進め、赤いチョークを取り出すと一枚ずつに大きく番号を振り始めた。

 全てに番号を振り終えると、彼は振り返る。

 ダークは興奮で頬を紅潮させた。


「キルリーフ、君って天才だよ!」

「なるほど。こうして番号に置き換えると、非常に分かり易いですね。複雑な彫刻に惑わされず抽象的に考えられる」


 隣から羊皮紙を覗き込んだヴィンセントも感心している。

 二人から称賛を受け、キルリーフはニコリともせずに顔を逸らした。

 傍で見上げていたルークにだけは、彼の耳の先端が赤く染まっているのが見えていた。


「それにこの右下に書かれたうさぎ? すごく可愛いですね」


 ヴィンセントの指摘に、ダークが視線を羊皮紙に戻す。


「ほんとだ」


 言われるまで見落としていたが、図の右下に何故か非常に可愛らしいデフォルメされたうさぎらしきイラストが添えられていた。

 耳が長いという共通点から、もしかしたらキルリーフの代理なのかもしれない。


「キルくんにこんな特技があったとは。実は私も、絵は昔囓ったことがあるんですよ」

「へえー! そうなんだ」


 やや疲れて煮詰まっていた彼らは、解決の糸口が見えたことで和やかな雰囲気になった。休憩を挟んだ後で、一気にパズルを仕上げようと言うことになり、水のモザイクの上に車座になる。

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