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その4、伯爵令嬢とお仕事。(1)

 契約婚約の試用期間2ヶ月目。

 この公爵邸の主人である次期公爵のルキは一枚の招待状をベルに差し出した。


「次期公爵様の職場のパーティー……ですか?」


 中身を確認したベルは、ルキの方をじっと見ながら復唱する。


「ベルはあまり夜会に出た経験がないと言っていただろ? 練習にちょうどいいかと思ってね」


 ベルはデビュタント後、ほとんどと言っていいほど夜会に出席していない。貴族として出席必須のものは全て兄夫婦が出席しているため、参加する必要もない。


「婚約者として振る舞ってもらうには社交界への顔出しが必須だし、君の目的もそこだろう?」


 ルキに聞かれたベルは素直に頷く。

 今のところベル個人としては上流階級の貴族との繋がりもほぼなく、ベルの野望『上流階級のお嬢様方と仲良くなって、衣装部屋に(クローゼットの)眠るお宝(不要なドレス)をごっそり買い取るぜ計画』のためには、今後社交会進出は避けて通れない。


「そうですねぇ、試用期間3ヶ月も来月末で無事終了ですし、次期公爵様が私と本契約するかどうかの最終チェックにもいいかもですね。お気遣い頂きありがとうございます。来月の夜は空けておきますね」


 ベルは承知しましたと恭しく礼をする。


「次期公爵様は確か、外交省にお勤めでしたよね。しかも若くして役職に就かれてますし、出世コースまっしぐらですねぇ」


「知っていたのか」


 驚いたような顔をしたルキに、流石にお見合い相手の勤め先くらい知ってます、というか聞くまでもなく有名な話ですよとベルは笑い飛ばす。

 社交界に顔を出していなくても氷の貴公子の噂はあっという間に下々の者まで駆け巡る。

 有名人って大変だなぁとベルは物凄く他人事として、婚約者(仮)に同情の視線を送った。


「外交省のパーティーは基本的に貴族しかいないが、そう身構えなくていい。今回は立食形式だし」


 普段のベルの所作を見る限り、基本的なマナーも礼儀もしっかり身についているし、食事会であっても問題はないと思うが、社交経験の少ないベルが参加するなら、まずは気楽なものがいいだろうとルキなりの配慮のつもりだった。

 だが、ベルは外交省ねぇ、と意味深につぶやく。


「どうかしたか?」


「いえ、縁があるなぁっと」


「縁?」


 疑問符を浮かべるルキに、


「外交省……と言えば私が内定蹴ったとこですね〜。ふふ、あのまま就職してたら今頃次期公爵様の部下だったかも、しれませんね」


 ベルは茶化すようにそう言った。


「君でもそんな冗談言うんだな。実家の家事手伝いが何言ってるんだか」


 外交省といえば、国家公務員の中でも採用試験は最高峰の難しさを誇る。

 故に外交省勤務は一種のステータスであり、倍率もかなり高い。

 そんな外交省からの内定辞退など普通はありえない。


「……こう、残念なイケメンって本当に次期公爵様のためにあるような言葉ですよね」


 そんなことも知らないのかと鼻で笑ったルキに、ベルは物凄く残念な子でも見るかのような視線を送り、


「なんで次期公爵様がモテるのか、私的に今年イチの謎です。みんなの目は節穴なのかしら?」


 そう言った。


「別に、モテたくてモテているわけではない。むしろ付き纏われて迷惑だ」


 ベルの物言いにイラッとして言い返すルキに対して、


「そもそも氷の貴公子(笑)って、ネーミングから拗らせてますよね。ああ、でも残念な拗らせ人間にはぴったりかも」


 ベルはキラキラした笑顔を浮かべて応戦する。


「それ、自分で名乗った覚えはないからなっ!!」


 別に自分で名乗った覚えはないが、そう呼ばれていることは知っている。

 そして自分でも結構恥ずかしいと思っているだけに(笑)に腹が立つ。


「ふふ、氷の貴公子なのに沸点低いですねぇ。改名したらいかがです?」


「……本契約前にこの話白紙に戻すぞ」


 ベルの物言いに対し、そろそろ本気で伯爵家に苦情を申し入れたい。

 だが。


「んー私はシル様という伝手もできましたし、別に白紙にしてくださっても一向に構いませんけど。次期公爵様、無事爵位継げるといいですね? 察するに準備2割程度といったところではないかと思っているのですが」


 にこにこにこにこと効果音がつきそうな程いい笑顔でそう言うベルに、その通りだよ!っとルキは内心で舌打ちする。

 それに、ベルに負けっぱなしで公爵家から追い出すのは何となく癪だ。


「そこで実際に舌打ちしないあたりに育ちの良さを感じますねぇ。では、次期公爵様の風除けしつつ、素敵なお嬢様とお近づきになるためにも、パーティーに向けて少しお勉強でもしておきますね」


 ルキの沈黙を肯定と捉えたベルは、招待状をヒラヒラさせて楽しそうにそう言った。


「ところでベル、物凄く気になることを聞いてもいいだろうか?」


「なんでしょう?」


「君は、なんでそんな格好をしているのかな!?」


「え? 今更ですか? ツッコミ遅っ」


 何にも言わないからスルーの方向か心がきれいな人にしか見えない服なのかと思いましたと、微笑んだベルは額を押さえるルキに見て見てとばかりにポーズをとって見せる。


「この衣装、めちゃくちゃ可愛くないですか? バニーには夢とときめきが詰まってますね。はぁ、もうバニーしか勝たん」


 今度の感謝祭の大人向け衣装として売り出す予定なんです、と頬に手をあてうっとりと衣装について語るベルは、


「次期公爵様、どう思います?」


 と楽しそうに尋ねる。


「どう、って」


 仮にも貴族の子女がなんて格好してるんだ、とか。

 これは需要あるのか? とか。

 用途方法がわからない、とか。

 言いたい事はいっぱいあったのだが。


「はぁ、素敵過ぎる。作り直しさせた甲斐がありました。やっぱり尻尾のモコモコは大きめの方がいいですよね。私個人的に網タイツ推しなんですけど、社内で黒の着圧効果のあるタイツと揉めに揉めていて……。シルクハットにウサ耳とカチューシャウサ耳、どっちが売れますかね? ここも派閥が分かれちゃうんですよねぇ。次期公爵様、どっち派ですか?」


「いや、どっちって」


「ああ、私とした事がっ。サンプルないと語りづらいですよね!!」


 部外秘なんですけど特別ですと検討中のバニー衣装を着用したモデルの写真が載った企画書を見せてくる。


「次期公爵様はどのバニーが好きですか?」


「待て。なんで俺がバニー好きなの前提なんだよ」


「え!? バニーですよ、バニー! むしろ嫌いな人間っているんですか?」


 いないですよね? と言い切るベルを前にルキは、世間的には感謝祭にバニーは常識なのか? とか、俺の感覚がおかしいのか? とか本気で思いそうになる。


「ああ、全部採用で選択してもらって売るのも有りかも」


 ベルは期待に満ちたキラキラした笑顔で、


「次期公爵様、感想お伺いしてもよろしいですか?」


 と、楽しそうに話す。


「……とにかく、服を着ろ」


「着てますけど? あ、次期公爵様も着たいんですか? サイズあるかなぁ」


「…………セクハラで訴えてもいいだろうか?」


「えーそんなに似合ってないです?」


 可愛いと思うんだけどなぁとつぶやきつつ、企画書を真剣に見つめるベルを前に、似合ってるかいないかの2択なら似合っているけれども、とにかく目のやり場に困る。

 なんで見せられている自分の方が恥じらわなくちゃならないんだと思いつつ、確かにバニー可愛いとか、嫌いじゃないとか、思ってしまったなんて口がさけても言えないとルキは墓穴を掘る前に早々に退散した。

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