その17、伯爵令嬢と策略。(4)
「ベルーー!!」
ぎゅっと抱きついてきたシルヴィアの髪を撫でながら、
「いやぁーシル様の行動力に私感服いたしました」
お嬢様の家出とベルは肩を震わせながら爆笑する。
「ベルお前なぁ。公爵令嬢が黙って屋敷飛び出して来てるんだから、大人として叱れよ。ていうか、絶対ベルの悪影響だろ」
ベルの隣で呆れたような声でそう言ったベルの兄であるストラル伯爵はため息を漏らす。
「で、ベロニカその脅迫文は何?」
伯爵は『シルヴィアお嬢様は我々が預かった』と切り抜きで作った犯行声明文を指してややこしくなるからやめなさいとストップをかける。
「えーだって初めての家出ですよ? 自作自演の誘拐劇はマストでしょ」
そんなわけで急いで作ってみましたとドヤ顔で見せるベロニカは、
「誘拐といえば脅迫文! これはもう様式美ですよ」
とワクワクした顔で伯爵に感想を求める。
無愛想な顔のままそれを受け取った伯爵は、
「んーここネコいる? コレだとふざけてる感出すぎて取り合ってもらえないだろ。あと広告の裏は流石にない」
設定からこだわるべきだと伯爵は真面目に主張する。
「なるほど! やるなら徹底的に、ですね。身代金は公爵家破産する額でいいですか?」
「リアリティに欠けるな。請求相手は外交省のエースだろ。自作自演なら請求したいものはお嬢様に聞かないと」
「本人の希望は大事ですよねー。シルさん、何要求します?」
突然話を振られたシルヴィアは、
「えーっと、私今家出の上に自作自演で誘拐されているのですか?」
なんでこうなった、とついていけない状況に目をパチパチさせながらベルの服を引っ張る。
「ふふ、どうやらそういう設定みたいですね。お義姉様、匿う方向でいいんですか?」
ベルはそう言ってシルヴィアをここまで連れて来たベロニカに尋ねる。
「お嬢様の初めての家出。何やらワクワクしかない響き!」
人間1回や2回や3回くらいは家出したくなりますよね、分かりますと頷くベロニカは、
「匿ってあげましょう、全力で」
ぐっと親指を立ててと楽しげに笑った。
嫌がる御者を金貨で買収してシルヴィアが向かったのはストラル伯爵家だった。アポ無しの突撃訪問。
怒られたらその時は潔く謝ろうそう思っていたシルヴィアを出迎えてくれたのは銀色の髪に金の目をしたお腹の膨らみの目立つ綺麗な女性だった。
「あなたがシルヴィアお嬢様ですね」
ベルさんがお世話になっていますと微笑んだ伯爵夫人はにこやかに笑ってミルクティーを出してくれた。
なんと言えばいいのかわからず黙ってしまったシルヴィアのことを猫のような金色の目でじっと見たベロニカは、何かを察したように大丈夫ですよと微笑んでくれた。
ベロニカの雰囲気とベルが似ている気がして、気が緩んだシルヴィアはミルクティーを飲みながら泣いてしまった。
大丈夫、大丈夫と泣き止むまで背をさすってくれたベロニカはシルヴィアが落ち着いたタイミングで、じゃあ行きましょうか? とシルヴィアの手を引いた。
そのまま連れて来られたのはベルが働くストラル社の建物で、連絡を受けていたらしいベルが出迎えてくれて今に至る。
「私ったらご挨拶もせずに申し訳ありません。ストラル伯爵夫妻に初めてお目にかかります。私、ブルーノ公爵家長女のシルヴィア・ブルーノと申し上げます」
我に返ったシルヴィアはそう言って流れるような綺麗な所作でカ-テシーをしてみせる。
「君の事はベルから聞いて知っている。こちらこそ挨拶が遅れてすまない」
ベルとは全然似ていない伯爵はシルヴィアとベロニカに視線を流したあと、ふむと頷いて、
「ベル、お前今日午後休にするから、まず屋敷に連絡。お嬢様とお屋敷に必ず一緒に帰る事」
そう業務命令を出すと、このあと会議だからと足早に去って行った。
「やったー社長命令の午後休! シル様何して遊びます?」
ガッツポーズでそう叫ぶベルに、
「えーずるいです、ベルさん! 私もシルさんと遊びたい」
可愛い可愛いとシルヴィアを愛でるベロニカは、ハイハイっと両手を上げて全力で主張する。
「……ベル、怒ってないの?」
「何か怒られるような事をしたのですか?」
「私、勝手にお屋敷を抜け出したわ。それにベルのお仕事の邪魔もして、お屋敷のみんなにもたくさん、当たって……迷惑かけて……」
しゅんと話すシルヴィアの髪を優しく撫でたベルは、
「んーなるほど。じゃ、後で一緒に叱られましょう。でも今帰ったら叱られ損です。どうせ怒られるなら目一杯遊んでから叱られましょう」
と提案する。
「ベルさんの言う通りです。というわけでシルさん、お腹空いてませんか? とりあえずうどんを作りましょう!」
お腹が空くとイライラするんですよとベロニカはどこからか取り出した小麦粉を見せる。
「さすがお義姉様! うどんいい!! 私調理室借りて来ます」
パチンと手を叩いたベルは、お腹空いたーと叫ぶと鼻歌交じりに楽しげに駆けて行った。
連絡を受けたルキが仕事を中抜けしてストラル社にやってくるとそこにはソファに丸まって眠る妹の姿があった。
「ごめん、さすがに12歳児は抱え上げられなかったわ」
屋敷で着るようなドレスではなく簡素なエプロンドレスを纏ったシルヴィアは満足気な表情を浮かべてあどけなく寝息を立てる。
「ハルに頼もうかとも思ったんだけど、公爵令嬢に万が一でもいらない噂がついたら事でしょ。責任持ってお兄ちゃんがベッドまで運んであげてください」
「いやまぁ、それはいいんだけど」
一緒に送られて来た脅迫文を見ながらルキはため息をつく。
「シルが迷惑をかけたね。ストラル伯爵夫妻にご挨拶……は難しい?」
「あー2人とも帰っちゃった。お義姉様ちょっとはしゃぎすぎちゃって、お腹張ったらしくて」
お兄様にめっちゃ怒られたとさすがのベルも反省したようにしゅんとなっていた。
「……何やったの?」
「うどん作ったり、クッキー作ったりして、大量にできたそれを持って、会社見学と称して色んな部署に襲撃しかけただけよ?」
「何やってるの!?」
この会社自由かと声が大きくなったルキに静かにとベルは慌てて嗜めるが、疲れ切って電池切れのシルヴィアは起きる様子がない。
「あんまり叱らないでやって。私も共犯だから」
ベルはルキにそう頼む。
「なんでこんな事に?」
「分からないけど、お茶会で嫌な事でもあったんじゃない?」
「だからって、ベルのところに会いに行かなくても」
「お兄ちゃんが忙しいの分かってるからじゃない? ふふ、それよりその脅迫どうする? ルキ一生結婚できないね」
クスクスと笑うベルはルキの手にある脅迫と要求をさして揶揄うように笑う。
『結婚するなら帰らない』
シルヴィアが出した内容はシンプルな要求だった。
「お兄ちゃん愛されてるねぇ」
ベルは可愛いっと微笑ましそうに笑う。
結婚して欲しくないのに何故兄の婚約者の職場に家出すると謎でしかない妹の行動に首を傾げつつ、ルキはシルヴィアを抱き抱える。
「……シルを蔑ろにするような結婚はしないよ」
そう言ったルキの後ろを荷物を持ったベルがついて行く。
「そっか、なら良かった」
どこか他人事のように嬉しそうに笑う契約婚約者に苦笑して、
「けど、一生は困るなぁ」
ぽそっとつぶやくルキの声はベルには届かず静かに消えた。
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