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その17、伯爵令嬢と策略。(1)

 ナジェリー王国第2王女、エステルはとても可愛く華やかで綺麗に輝く銀細工を手に取り、ニヤケそうになるのを堪えて眺めていた。


「……ホントに素敵」


 美しい銀細工をさらに華やかに仕上げている石達が、宝石になれなかった小さなカケラだと一体誰が思うだろう。


『売り込み方法を変えてみませんか?』


 ルキにそう提案されたのは、歓迎の宴の次の日の事だった。

 姉のアネッサとこの国の王弟殿下とのお見合いは継続中なので、視察も兼ねて王都の様々な場所を巡ることになっていた。

 いくらぼっちが辛いからといって、さすがに姉のお見合いデートについて行くのはなぁとはじめはエステルはひとりで城内にいる予定だった。

 だがアネッサから、


『お見合いといっても非公式だし、護衛も側近も沢山いるのよ。滅多に海外の公務につかないのだからいらっしゃい』


 と言われ渋々エステルは了承した。

 だが、その数時間後には、エステルは姉に心から感謝していた。


 沢山の側近の中でもルキの存在はすぐ目に止まった。まぁルキ以外知っている人がいないというのもあるのだが、沢山の視線が彼に注がれているのが遠目でも分かった。

 とても忙しそうにしているし、今日は鉱物や宝石の話はできないかなとしゅんとしているとそれに気づいたらしいアネッサが王弟殿下に耳打ちし、その後すぐルキが来てくれた。

 それからずっとエステルのエスコートはルキが担当してくれている。


『こういうのもお好きかと思いまして』


 そんな視察の最中、若干精神的にまいりかけていたエステルを心配したルキが予定を変えてわざわざ連れて行ってくれたのが銀細工の工房だった。

 職人達の手で造られる繊細で細やかな細工達。エステルは疲れなど忘れて夢中になって見物していた。

 クスクスと笑うルキを見てエステルは我に返る。そんなエステルに楽しんで頂けているようで嬉しいと言ったルキが提案してくれたのだ。

 この銀細工にエステル王女殿下が持ったきたとっておきの石のカケラを散りばめてアクセサリーを作ってみませんか? と。


「あら、エステル。またそれを見ていたの?」


 姉のアネッサが揶揄うようにエステルの手元にある銀細工をさしてそう言った。


 繊細な銀細工に青系の宝石のカケラがキラキラと輝きとても美しいそれをエステルが髪につけたなら、女の子なら誰しも目に止めるだろう。


「ルキ様が廃石活用の認知度を広めたいなら、まず発信力のある上流階級の女の子達の関心を引いた方がいいって言ってくださって」


 長過ぎるエステルの話を聞いても嫌な顔ひとつしなかったルキは、伝えたい要点を絞ったアピールの仕方も考えてくれ、練習にも付き合ってくれた。


「あと、この万華鏡もルキ様がプレゼントしてくださったんです。これなら眺めててもおかしくないからって」


 色とりどりの石のカケラを入れた万華鏡は飽きる事なく見続けられるエステルのお気に入りで、小瓶に入れたカケラよりさらに素敵だと思った。


「私、廃石になってしまう石を活用して少しでもみなさんに鉱物を身近に感じて楽しんでもらえるように頑張ります。……ルキ様のためにも」


 今日はこの国の淑女の皆様とのお茶会ですから頑張りますと気合いを入れているエステルを見てアネッサは驚き、そして微笑ましそうに妹の髪を撫でる。

 あんなに内気でこの外交も嫌々参加していたエステルがこんなにも積極的にやる気に満ちている。

 氷の貴公子と呼ばれていたはずのルキが何故かエステルには優しいし、エステルもまんざらでもなさそうだ。

 歳の差は7つも開きがあるが、エステルの性格を思えばむしろリードして甘やかしてくれる頼れる大人の男の方がきっといい。


「……ブルーノ秘書官って確か独身だったわよね」


「えーと、そうですね。婚約者がいらっしゃるそうですが」


「そこは大した問題ではないのよ」


 アネッサは首を傾げるエステルにニコッと微笑む。こちらは王族だし、ルキは公爵家の嫡男で次期公爵だ。釣り合いとしても問題ない。

 正直王弟殿下とはビジネスパートナー以外にはなれそうにないと思っていたから、エステルがこの国に嫁いでくれるならアネッサとしては渡りに船だ。


「今日のお茶会、確かブルーノ秘書官の妹も来るのよね。エステル、仲良くなさいね」


 将来義妹になる子かもしれないし、と内心で付け足したアネッサはエステルにそう言い聞かせる。


「そうですね! お話しできるのがとても楽しみです」


 姉がそんな事を考えているなんて全く思っていないエステルは無邪気に笑ってそう返答した。

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