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その3 伯爵令嬢と公爵令嬢。(3)

「で、君は一体何をやっているんだ」


 ベルが来てから何度目になるか分からない同様のセリフを口にして、ルキは上機嫌なベルに問う。


「見て分かりません? 紅茶の出涸らし干してます」


 はぁーいっぱい貰っちゃったぁ、何しよ〜っと手慣れた様子で鼻歌まじりに紅茶の出涸らしを干すベルを見ながら、


「また、シルか」


 聞くまでもなくこの状況をもたらした張本人の名前を口にしてルキはため息をついた。


 連日嫌がらせを続けているにも関わらず全くへこたれる様子のないベルを先程呼びつけたシルヴィアは、


「アンタなんかに我が家の紅茶など勿体無いわ。出涸らしでも飲んでればいいのよ」


 と大量の紅茶の出涸らしを押し付けて来た。


「わぁーこんなにいっぱいありがとうございます」


 満面の笑顔でシルヴィアからそれを受け取ったベルは部屋にもどって早速それを干し始めたところで、ルキが部屋に訪ねてきたので説明し、今に至る。


「この出涸らし、こんな大量に干してどうする気なんだ?」


「クッキーでも作ろうかと。使用人の皆様にもお世話になってますし。あとはポプリかな。美容にも使いたいし、迷いますね」


 ふふふっと嬉しそうな笑みを浮かべたベルはまたシルヴィアお嬢様くれないかなーとつぶやく。ちなみにベルが紅茶の出涸らしをもらったのは公爵家に来てから本日で2度目である。


「……何で、君はシルに怒らないんだ?」


 どう考えてもシルヴィアに非があるのに、ベルは怒る事も反抗する事もやり返す事もしない。

 ずっとにこにこしているベルのその様が異様なものに映ると同時に、ルキは妹の行動にやり場ない怒りを感じる。


「いや、むしろなんで次期公爵様が苛立ってらっしゃるのです?」


 そんなルキを見たベルは、首を傾げながらとても不思議そうに尋ねる。


「見ていて不快だ。こんな、あからさまな嫌がらせを」


「ふふっ、この程度で嫌がらせ? 次期公爵様の考える嫌がらせって随分と可愛らしいものなのですね」


 おかしそうに笑うベルは、ルキをまっすぐ見据えてそう言葉を紡ぐ。


「嫌がらせっていうのは、人を害するものです。少なくとも私は嫌がらせだなんて思ってませんね」


 ふふっとここに来てからのシルヴィアの行動を思い出しながら、


「って、いうよりも私、ここに来てからシルヴィアお嬢様に施ししか受けてませんよ?」


 いやーお嬢様の絡み方が上品過ぎて、育ちの良さを感じますね〜とベルは微笑ましそうにそう言った。

 

 解せないという表情のルキに、勝手に持ち込んだ小さな冷蔵庫から先日シルヴィアにもらった紅茶の出涸らしで作ったお茶を取り出してガラスのコップに注いだベルは、


「飲みます?」


 そう言って、ルキに差し出す。


「なんだ、これは?」


 見慣れない液体に警戒心を滲ませるルキに、


「紅茶の出涸らしで作った水出し茶」

 

 ベルは完結に答えを明かす。


「こんなもの、飲めるわけが」


「ないですよね。あなたみたいな人には」


 別に強要はしません。そう言ってベルはコップに注いだお茶を綺麗に飲み干す。


「はぁ、美味しい。いいお茶だわ」


 さすが、お義姉様セレクト。

 ベロニカの選ぶものにハズレはないので、ベルは公爵家で使用されるお茶が大好きだった。

 お茶を飲み終えたベルは、アクアマリンの瞳をルキに向けると、


「私、次期公爵様には男性として魅力を感じないどころか、人としても好きになれそうにありません」


 と淡々と感想を述べる。

 良かったですね、少なくとも今まであなたの側にいた女性みたいに私がストーカーと化すことはないので、心穏やかに1年過ごせますよとベルはにこやかに付け足す。

 そんな暴言を女性から吐かれた事がないルキは少なからずショックを受けながら、ベルの事を見返す。

 伝わらないか、と少々残念に思いながらベルはシルヴィアとルキのために助言をする事にした。


「あなた、シルヴィアお嬢様の事批判できるほどお嬢様と向き合ったんですか?」


 少々厳しめの物言いだが、きっとこれくらい言わなければ伝わらない。問題を解決すると宣言した以上、行き過ぎたお節介は許して欲しいとベルはルキが寛大である事を願いつつ、言葉を紡ぐ。


「このお茶だって、出涸らしの紅茶クッキーだってそう。あなた食べたことないでしょ? 知りもしないのに、何故食べられるわけがないだなんて言い切れるんです?」


 笑顔を崩す事のなかったベルの厳しい視線を真っ向から受けて、ルキは息を呑む。


「少なくとも、知ろうともしない次期公爵様より、何度打ち負かされても向かってくるシルヴィアお嬢様の方が、私はよっぽど好感が持てますね〜」


 初日にかけられた紅茶は冷め切っていて火傷する事はなかった。

 その上着替えの服まで用意していたのだ。

 嫌がらせなら、自ら手を下さずとも使用人を使う事だってできるし、公爵家の力を以てすればもっと直接的にダメージを与える事だって可能だ。

 そうしないシルヴィアは、けして根っからの悪人ではない。

 理由があるのだ。シルヴィアには、シルヴィアに行動を起こさせるだけの明確な理由が。


「気になるならかじってみればいいんです。とりあえず、一口だけでもね」


 できればそれにルキ自身で気づいて欲しい。そう思ってしまうのは、きっと自分も"妹"だからだ。

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