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その3 伯爵令嬢と公爵令嬢。(1)

 次期公爵であるルキは仕事を終え、重い足取りでブルーノ公爵邸の門をくぐる。

 正式に婚約を交わす前の試用期間3ヶ月を公爵家で暮らすという取り決めに従い、本日からベルが公爵家にいるはずだ。

 ベルのあの失礼な物言いも気に食わないが、正直自宅に家族や使用人以外の女がいるというのが嫌でしかない。

 祖父と父に強制的に組まれた見合いの日はベルのペースにすっかり呑まれてしまったが、ルキとしては試用期間3ヶ月のうちに相手に瑕疵があれば直ぐに叩き出すつもりだった。


「「おかえりなさいませ、旦那様」」


 ドアを開ければいつも通り使用人達に出迎えられる。ルキにとっては見慣れた光景。

 だが、その中にいつもと違うモノを見つける。


「……ベル。君は一体、何でそんな格好を」


 深々と頭を下げた使用人の中に彼女はいた。


「似合います? シルヴィアお嬢様にいただいたんです」


 勝ち気なアクアマリンの瞳が楽しそうにそう問いかける。

 チョコレートブラウンの髪を綺麗にまとめ上げ、公爵家の仕着せを着こなす今のベルはどこからどう見ても、ブルーノ公爵家のメイドの姿だった。


 時は1時間程前に遡る。

 本日から約束通り公爵家で暮らすため、必要最低限の荷物を持って公爵家の敷居を跨いだベルを待ち受けていたのはルキの妹であるブルーノ公爵令嬢、シルヴィアだった。


「あなたみたいな成金貴族の卑しい女、お兄様の婚約者だなんて認めませんわ」


 ベルを視界に入れたシルヴィアは開口一番にそういうと、ベルに向かって手に持っていた紅茶を勢いよく浴びせた。


「ふふ、いい気味。濡れ鼠には使用人の仕着せが似合いよ」


 シルヴィアは綺麗な笑みを浮かべてそういうとベルに向かってメイド服を投げつける。


「この公爵家にあなたの居場所があると思わない事ね。成金貴族がお兄様の婚約者など、勘違いも甚だしい」


 ベルに侮蔑の視線をながしながらそう言うとパチンと扇子を閉じて、くるりと背を向けてシルヴィアは去っていった。


「ってなわけで、このメイド服を頂いて今にいたります」


 経緯説明を終えたベルは、表情を曇らせるルキをよそに、


「はぁ、さすが名門の公爵家。仕着せひとつとっても一級品」


 このメイド服可愛過ぎる。良い生地使ってますね! すごく動きやすいですと大絶賛を述べる。


「……シルのいつもの癇癪か。すまない、すぐ別の着替えを用意させる」


 ルキは深いため息をついて、ベルに詫びる。今までもそうだった。ルキに結婚といった話が上がり女性がこの家に来るたびにシルヴィアはこんな態度を取っていた。

 大概の女性は1回で音を上げ、結婚の話はあっという間に立ち消える。

 まぁ、ルキとしては今までこの公爵家に来た女性と結婚をしたいと思った事はないので、深く追求するつもりもなかった。

 が、今回は祖父と父からの命令での見合いと婚約だ。一応はベルに配慮しなくてはならないだろう。

 そう考えていたルキに、


「え! 着てちゃダメなんですか!?」


 ベルは抗議の声を上げる。


「……なんで心底残念そうなんだ」


「だって、これはシルヴィアお嬢様が私にくださったものですよ?」


 いや。

 いや、いや、いや、いや、いや。

 どう考えてもただの嫌がらせだろうが。

 それとも、成金令嬢はそれすら分からない程鈍くできているのか? そんな表情を浮かべたルキを見ながら、ベルは楽しそうに笑いメイド服を見せつけるようにその場でくるりと一周して見せる。


「このままで結構です。それに言ったでしょ? あなたの抱える問題事解決してあげます、と」


 アクアマリンのように透き通った瞳に見つめられ、ルキは息を呑む。


「恋人ごっこの試用期間は始まったばかりです。どうぞ、高みの見物でもなさっててください。口出しは無用です」


 ベルはメイド服のまま淑女らしく礼をする。

 ああ、彼女は鈍くなんかない。本当にこの状況を楽しんでいるのだ。それも心の底から。

 ベルのような女性に今まで出会った事のないルキには彼女に何と言うべきなのか、かける言葉を見つけられず、結局沈黙する以外なかった。

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