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その8、伯爵令嬢とデートのお誘い。(4)

「……観劇のチケット。これ、今一番話題の奴じゃないですか」


 よく取れましたねと差し出されたチケットを見てベルは驚く。


「たまたま。それに、ベル誕生日だろ」


「…………どうしたんですか?」


 誕生日、のワードに反応し、ベルは訝しげに眉を顰める。


「どうって?」


「いや、だってルキ様ですよ? 私の誕生日とか絶対知らなさそうだし、観劇とか興味なさそうだし」


 おかしい。

 絶対、何かがおかしい。

 とベルは誰かの介入があったのではないかと疑う。


「ハルに偶然聞いたんだ」


「偶然、ねぇ」


 無料より高いものはない、と常々思っているベルは、差し出されたそれをなお受け取るべきか迷う。


「ベル、君は俺のこと何だと思ってるの」


 じっーと訝しげな視線を寄越すベルに、そう尋ねたルキは、


「金払いのいい残念なイケメン」


「いらないんだな」


 いらないならシュレッダー行きだなと1枚で軽くベルの食費3ヶ月分はするプラチナチケットをあっさり捨てようとする。


「うわぁ、嘘うそ、いります。行きます! 行きたいです!!」


 捨てないでっとベルは慌ててルキの手からチケットを奪い取る。

 最初から素直にそうすればいいのに、とため息をついたルキは、


「普段、世話になってるから。これでも感謝してるんだよ」


 ふいっとそっぽを向いて、照れたようにそう言った。

 そんなルキをびっくりしたように目を大きくして見たベルは、


「ふふ、じゃあ楽しみにしてます」


 優しい色をしたアクアマリンの瞳を瞬かせてそう言った。


「で、ベル。ものすごく気になること聞いていい? 君は一体何をしているんだろうか?」


 久しぶりに言われたなそのセリフと思いながら、


「あれ? 知りませんでした? 家庭菜園はじめました♡」


 と手に持っているハサミとカゴを見せてそう言った。


「他人ん家の庭で何勝手に第一次産業はじめてくれてんの!?」


 見に行ったけどあれは家庭菜園の規模じゃねぇよ! とルキは全力でツッコミを入れた。


「いや、だって庭無駄に広いし、相談したらノリノリで」


「ベル、準備できたわ。って、お兄様何してますの?」


「それはこっちのセリフなんだけど、シル」


 ベルの部屋にひょこっと顔を覗かせたシルに驚いたルキは、


「私はこれからベルと一緒にお野菜の収穫をするの」


「はっ? シルまで巻き込んでんの?」


「YES! 我らが農場のスポンサーです」


 やっぱり家庭菜園じゃなくて農場じゃん! とどう見ても家庭で消費できる量じゃないあの野菜をどうする気なんだとルキは額を押さえる。


「えっ? お兄様本当に気づいてなかったんですか? 先日の夕食も私が栽培したお野菜使いましたのに」


 こんなにわりと盛大に庭いじりしてるのに、本当に気づかなかったの? とてっきり黙認されているものだと思っていたシルヴィアは素直に驚く。


「あらあら〜ひどいお兄ちゃんですねぇ。というわけで、シル様が丹精込めてお兄ちゃんのために作ったお野菜なんですからちゃんと食べてくださいよ〜」


 まぁ実際育てているのは使用人とベルなのだが、"シルヴィアが"を前面に出されては流石のルキも無下にはできまいというシルヴィアへの食育とルキの野菜嫌い克服に向けた作戦だ。


「ベル、お野菜食べないと肌が荒れちゃうのよね! 私、シンデレラみたいに強い美肌と健康な身体を目指すわ」


「いい心がけです、シル様。後でジョギングも一緒にしましょうか? 体力作りも大事ですよ」


「……ベル、うちの妹に何おかしな思考を植え付けてくれてんのかな!?」


「えーちょっと生きていく知恵を面白おかしく吹き込んだだけじゃないですか」


 と、ベルは全く悪びれる様子はない。


「目下の目標は無人島でも生き延びられるサバイバル精神を養うことなの」


「……シル、とりあえず公爵令嬢がひとりでサバイバル生活に放り込まれることはないからやめなさい」


 生粋の上流階級の貴族令嬢であるシルヴィアが、確実にベルに毒されつつある。

 ベルの言うこと聞いたらダメ! とルキはシルヴィアに注意するも、


「でも、知らない事を知るのはとても面白いし、何があるかなんて分からないじゃない」


 と聞く耳を持たない。


「……ベル、うちの子が白い目で見られたらどうしてくれるの?」


「そんな事で白い目で見てくるなんて、狭量ですね? ルキ様みたい♡」


 私、シルヴィア様には逞しく強かに生きていって欲しいですとベルは笑う。


「家庭に目を向けないから、部外者の私に株を取られちゃうんですよ」


 そんなわけないだろっと反論しようとしたルキは、


「ごめんね、ベル。お兄様ちょっと世間知らずなの。箱入り息子というか。自分で何にもできない人だけど、呆れないであげてね?」


 シルヴィアの発言で言葉を続けられなくなる。

 妹にそう言われ、ルキは既に手遅れである事を知る。


「あはは、私もし無人島に行くならルキ様じゃなくてシル様がいいです。生き残れそう」


 シル様かっこいいとベルは兄を撃沈させたシルヴィアに賞賛を送った。


「…………味方がひとりもいやしない」


「ふふ、日頃の行いですよ。悔しかったらこれから挽回してはいかがです? じゃないと私がシル様の1番もらっちゃいますよ?」


 ベルは心底楽しそうに笑うとルキにハサミとカゴを渡す。

 どうやら一緒に収穫しろという事らしい。


「お兄様も一緒に行ってくださるの?」


 シルヴィアの期待に満ちた眼差しを前に、土いじりなんてしたことないとか、虫とか嫌なんだけどとか、そんな情けない心情より兄としてのプライドの方が勝ったルキは、渋々了承した。


「まぁそんなわけで、可愛い可愛いシル様が一生懸命育てたお野菜なので、ちゃんと食べてくださいね!」


 再度野菜を食べるようベルに念押しされたルキは、


「……努力する」


 と約束した。

 ふふっと笑ったベルは今日はきゅうりとトマトでサラスパを一緒に作りましょうかとシルヴィアに声をかける。

 やったーっと踊り出しそうなくらい軽やかな足取りで駆け出したシルヴィアの背を見ながら、


「ルキ様、誕生日楽しみにしてます」


 とルキに声をかけてベルもシルヴィアを追いかけて走り出す。

 そんなチョコレートブラウンの髪を見ながら、そういえば純粋にベルと2人で出かけるのははじめてだなと思ったルキの脳裏になんかデートっぽいという単語が浮かび、ルキは慌ててそれをかき消すように2人の背中をおいかけた。

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