その5、伯爵令嬢とパーティー。(3)
外交省でのパーティー当日。
業務を終えたルキは、パーティー準備のためいつもより早く帰宅した。
「お兄様お帰りなさい!!」
「上機嫌だなシル」
踊り出しそうなほど上機嫌でルキを迎え入れたシルヴィアは、
「見て見て! ベルの変身っぷりを」
と自慢げにそういいながらルキのことを引っ張っていく。
「そう引っ張るな。どうせ、馬子にも衣装だろ」
今日ベルがどんなドレスを着るのかは一緒に選んだので知っている。それに合わせた宝石も含めて全て把握しているので、とくに驚く事もないんだがと思いながら、ルキはシルヴィアに促されるまま部屋のドアを開けた。
「おかえりなさいませ、ルキ様」
そう言って淑女らしく礼をしたベルの姿を見て、ルキは驚きで目を見開く。
「私の方は支度が済んでおりますので、ルキ様のお支度が整いましたら……どうされました?」
普段屋敷にいる時はメイド服姿が定着してしまっているベルの着飾った姿を見るのは、彼女が公爵家で暮らし始めてからこれが初めてで、お見合いの時の衣装ともまるで違う装いに目が奪われる。
「いや、綺麗だと思って」
いつも綺麗にまとめ上げているチョコレートブラウンの長い髪は今日はおろしてゆるく巻いて髪飾りで華やかに仕上げられ、ドレスに合わせていつもより濃い目に施された化粧がベルをいつも以上に大人っぽくみせている。
姿勢良く凛とした立ち姿でそこにいるベルはぐっとルキに詰め寄ると、
「ですよね! 分かります!! さすがマダム・リリスのドレス!! 魔電灯の下で美しく映えるように計算され尽くした青を基調とした下に行くほど淡い色味になるグラデーションとレース使い。女性らしいラインが綺麗に出る曲線美! 背中側から見たときに映える繊細な刺繍と歩いた時にふわりと揺れるドレスの軽やかさ。綺麗と可愛い両方を最高のバランスで整えたAラインのパーティードレスですよね! こんなドレス着られるなんて我が人生に一片の悔いなしってくらい素敵です」
とベルはドレスについて熱弁する。
ルキは褒めたのはドレスじゃなかったんだがと思いつつも、
「ははっ、そんなに気に入ったんならよかった」
ベルがとても嬉しそうに笑うので良しとした。
「うわぁーさっすが外交省のパーティー。大規模ですね!」
パーティー会場についたベルは、華やかに飾られている広い会場に感嘆の声を上げる。
「これでもうちだけだから、控えめな方なんだけどな」
ルキが普段出席する夜会の規模の中では小さい方ではあるが、外交省に勤務している者の家族や婚約者なども招待されているので人数は比較的多い。
「あんまりはしゃいで迷子になるなよ?」
物珍しそうにあたりに視線を向けるベルを見ながらルキは揶揄うようにそう言った。
「ふふ、私が迷子になるんじゃなくて、ルキ様が"拐かされる"の間違いでは?」
それに応戦するようにそう返したベルは、
「お手をどうぞ、王子様?」
とルキの方に手を差し出す。
「……それは、俺の役目ではなかろうか?」
なんでベルがエスコートしてるんだよとクスっと笑いながら、ベルの手を取ったルキは彼女の手を引いて場内をまわり始めた。
「ルキ! 見つけた。そちらが噂のストラル伯爵令嬢だね」
そう言ってレインは人好きする笑顔を浮かべ、ルキのそばにやってきた。
タイプの違う美形2人が並ぶとかなり目立つ。
周囲の視線や色めき立つ雰囲気からベルの頭に、
『この2人、目の保養になりそう。ご令嬢相手にオフショット写真とか売れそうだ』
なんて考えがよぎったが、後々訴えられたらまずいかとすぐさま考えを改めた。
「ああ、紹介するよ。ベル、俺の古くからの友人でレイン・モリンズ侯爵令息だ」
「ベル・ストラルと申します。モリンズ侯爵令息様とお会いするのは初めてですね。モリンズ侯爵家には日頃から我がストラル社と良き取引をしていただき、誠にありがとうございます」
紹介を受けたベルはうちのお得意様だと余所行きの笑顔を浮かべて淑女らしく礼をして見せる。
「気軽にレインで構わないよ。こちらこそいつもいい品を回して頂いて助かっている」
「では、私の事もどうぞベルとお呼びくださいませ。勿体無いお言葉です。兄にも伝えておきますね」
にこっと微笑むベルを見ながら、レインはじっとベルの事を観察する。
「ふふ、なるほど。これはなかなかに手強そうだ」
「まぁ、私などまだまだですわ」
にこにこにこにこと本音を隠した笑顔で応酬し合う2人を見ながら、ルキはなぜかこの2人とは長い付き合いになりそうだなとそんな事を考えた。
「まぁ、ゆっくり話したいんだけど、今日はホスト側なんだよね。ルキ、改めて場を設けてよ。俺もベル嬢と話してみたい」
「ああ。まぁそのうち」
「楽しみにしてる。じゃあベル嬢、ルキの事よろしく」
そう約束をしたレインはパーティー楽しんでとウィンクして早々に去って行った。
パーティー会場に着いてから数十分後、
「なんていうか、こう……熱い眼差し通り越して、ギラギラですね? ルキ様は体内で何かお嬢様方を狂わせる成分でも生成してるんですか?」
ベルは笑顔を顔に貼り付けたまま、呆れたようにルキにそう尋ねた。
パートナーを連れ会場を歩くルキを見る令嬢たちの反応は、様々だった。
今までパートナーなど連れてきた事のなかったルキが女性を伴い、しかも近々婚約予定だと紹介している。
その事実に衝撃を受けるまでは大体どの人も一緒なのだがその後は、悲嘆にくれ自暴自棄になる者、嫉妬したような視線をベルに向け、隙あらばベルやルキに偶然を装いぶつかったり飲み物をかけようとするなど、ちょっかいをかけてくる者、ベルの事を品定めした上で堂々とルキのことを誘う者などが多かった。
ちなみに全てベルがフォローしたので、今のところまだルキが害されるような事態にはなっていない。
「俺か? 俺が悪いのか?」
「なんていうか、数十分でこれってここまでくるともはや災害レベルですよ?」
挨拶するだけで恋に落ちるなど、1曲踊っているシンデレラより手早くお手軽な展開である。
「んーまぁ要注意な視線は意外と少ないですし、しっかり守って差し上げます。マダム・リリスのドレスに誓って」
「頼もし過ぎてあと10着くらい貢ぎたくなってきたな」
「……どれだけ夜会やパーティーに連れ回す気ですか」
風避けとしては優秀なのかもしれないが、1年限りの関係だ。そんなにもらっても困るとベルは改めてドレスの大人買いを止めた。
「……ベルは、俺といても平気なのにな」
「あーだって、興味ないですし。色恋沙汰にもルキ様本体にも」
「仮にも婚約者なら持てよ、興味」
「そっくりそのままお返ししまーす」
そういう目で見られたら見られたで嫌な癖にわがままなとルキに揶揄うようにそう言ったベルは、
「まぁでも、さすが外交省勤務の皆様。家柄が半端なくいい。営業かけたい」
ベルは上流階級のお嬢様方と仲良くなって不要ドレスを買い取るツテを作りに行きたくなるが、
「やめろ。あと頼むから置いて行くな」
ルキがそう懇願するので、
「……仕方ないですね。まぁ、ドレス分はしっかりお仕事します」
本日は自重することにした。
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