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その5、伯爵令嬢とパーティー。(1)

誤字脱字のご指摘ありがとうございます♪順次修正しております^_^

 その日、ベルは公爵家に来てから初めて"価値観の違い"というものを前に言葉を失くして呆然と立ち尽くすという体験をした。


「…………」


「ベルったら一体どうしたの?」


 いつも明るく笑っているベルがまるで抜け殻のようにソファーに身体を沈めているのを見て、このブルーノ公爵家のご令嬢シルヴィアは不思議そうに濃紺の目を丸くする。

 

「……19年生きてきて、今日が一番緊張したかもしれません」


 シルヴィアの問いかけにぼそっと答えたベルは、就職試験や大口契約のかかったコンペですらここまで緊張したことはないのにと息を吐きながらこれは果たして現実かとつぶやく。


「そうなの? ベルったら変な事で緊張するのね」


 私ならきっと試験の方が緊張しちゃうわときょとんと首を傾げながら紅茶を口にしたシルヴィアは向かいに座る兄、ルキに話しかける。


「んーベルには落ち着いた色味のドレスが似合うと思うんだけど、お兄様はどれが良かったと思う?」


 ガラス製のローテーブルに所狭しと広げられたドレスのデザイン画を見ながら、やっぱりこれかしら? とシルヴィアは一推しのドレスを選んで指をさす。

 それを見たルキは、シルはセンスがいいなと妹を優しく褒め、


「そうだな、デザイン画は全部悪くなかったし、今後のこともある。全部買うか」


 当たり前のようにそう言った。


「はっ? ちょ、何を」


 待て、オーダーメイドドレスの大人買い、だと!?

 ちょっと、待て。マジで何を言っているのかが理解できない。

 そんなベルの心情などお構いなしなこの兄妹は、


「賛成! さすがお兄様だわ。いいなぁー私も新しいドレス欲しい。ベルとリンクコーデになるのとか」


「いいんじゃないか? ついでだし、シルも3〜4着新調すればいい。リンクコーデ用は2人で希望出して新しくデザインしてもらったらどうだ?」


 金に糸目をつける事なくさくさく話を進めていく。


「はい!? あの、ちょっと」


「素敵っ! ねぇねぇベル、ベルはどんな感じが好き? アイテム寄せか色寄せか、あえて全く同じデザインのドレスでも私はよくってよ」


 パチンと両手を叩いたシルヴィアは、天使のような可愛い微笑みを浮かべて、


「ドレスができたらお茶会でも開きましょうか! ふふ、すごく楽しみ」


 決定事項のようにそう言った。


「ああ、それもアリだな」


「アリだな、じゃないっ!! ヒトの話を聞けーー! このブルジョワ兄妹めっーーーー!!」


 これ以上流されてなるものかと確固たる意思を持って、ベルはそう叫んで待ったをかけた。


「……ベルは何がそんなに気に入らないんだ? マダム・リリスのドレス好きだって言ってなかったか?」


 日頃のベルは暇さえあればシルヴィアのドレスを眺めて大絶賛をし、シルヴィアのファッションショーに飽きる事なく付き合って、シルヴィアのサイズアウトした不要なドレスを将来買い取りたいと幾度となくプレゼンしていた。

 ちなみにルキ立会の元、ベルの買取りたいドレス全てにOKを出したシルヴィアとはすでにドレス売買仮契約済みだ。


「好きですよ! 何なら3日3晩語りまくれるくらい大好物ですよっ!! でもっ」


 そう、もちろん躊躇うことなくマダム・リリスのドレスは大好きだ。

 ベルはドレスデザイナー、マダム・リリスの大ファンである。もっとも一生自分が着ることはないだろうと思っていたのだけど。

 だが、しかし。である。


「マダム・リリスといえば新規予約は3年待ち、顧客からの紹介状必須で、一見さんはお断り。体のラインがキレイに見える曲線美とバックからみた時映えるように計算され尽くされたフリルやレース使いが特徴のドレスが多く、そのドレスを身につけるのは上流階級子女の憧れとともにステータスとも言われていて、中流階級以下にはカタログすら入手困難なわけですよ! それを、あんなあっさりと。ちょっと奮発したお菓子買うのとはわけが違うんですよ?」


 ぐっと拳を作り、ベルはマダム・リリスとドレスについて熱弁し、主に緊張疲れでぐったりと疲労しているわけを訴えるが、


「……詳しいな。まぁ、シルはマダムの上客だから3年待つ事なんてないけど」


「呼んだらすぐ来てくれるわよ?」


 それが何か? と言わんばかりの名門公爵家の2人には全く伝わる気配がない。


「……ここに住んで今日が一番心臓に悪かったです」


 何を言っても多分この2人と分かり合える日は来ないと悟ったベルは、大きくため息をついて諦めた。


「ルキ様、ドレスこんなにいりません。それにお恥ずかしい話ですが、私には今すぐこちらの代金支払えるだけの財力が有りません。本当に申し訳ないのですが、ドレスの購入は1着〜2着で、分割払いさせてください。利子上乗せで構いませんから」


 デザイン画を見れただけでも貴重な体験だったと思う事にしたベルは、ルキに向かって現実的な話をする。


「は? なんでベルが払うんだ」


「なんで、って私のドレスですよね? しかも今度のパーティーに着て行く用の」


「そのつもりだが」


 元々ベルは手持ちのドレスで行くつもりだった。

 だが、本日突然ドレス購入を告げられたベルは、いきなり対面した憧れのデザイナーとその助手から採寸され、おそろしい速度で仕上げられたデザイン画を見せられている。


「……マダム・リリスのオーダーメイドドレスだったので、てっきり買取かと。レンタルでも良いのですか? それならなんとか起業資金崩せば払えるかもしれません」


 微妙に会話が噛み合わないルキに首を傾げつつ、ベルは自身の懐具合を申告する。


「そもそも俺はベルに払わせる気なんてないんだが」


 ん? と会話が噛み合っていない事に気づいたルキはそう言うが、


「? なぜです?」


 解せないと、ベルはさらに首を傾げる。


「なぜ、って。むしろなんでベルが払う?」


 君は俺の婚約者(仮)だろう、とルキは当たり前のようにそう言った。

 そんなルキに向かってベルはため息をついて首を振る。


「……もらう理由がありません」


「ベル、恋人がドレスを贈るなんて普通じゃない? それなのにどうして?」


 2人の関係が1年限りの契約婚約だと知らないシルヴィアは不思議そうに2人の間で視線を彷徨わせる。


「シル、少し席を外してくれるか?」


 ルキに困ったような顔をしてベルと2人で話したいと告げられ、シルヴィアは渋々退席していった。


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