語り手だぁれ?5
「緊張するなぁ……どれがいいだろう?」
若い男は私たちの前に立つと、難しい顔をした。この場に慣れていない彼は、私たちを選ぶことに戸惑いがあるようだ。そのことが可愛らしいく思える。
「これにしょうかな……」
彼は緊張した面持ちで、無骨な手を私の滑らかな身体に滑らせた。彼の御眼鏡に叶った私はご機嫌で彼の手に身を委ねると、そっと彼の首を絞める。
「うっ……強く締め過ぎた……」
咽ると少し涙目になる男、初々しい反応である。きっと直ぐに私の扱いにも馴れることだろう。
「お似合いですよ、お客様」
「ありがとうございます。では、これをください」
店員の言葉に、照れたように笑う男。
鏡に映る彼の首元には、私が彩りを与えている。
私はフォーマルからカジュアルまで主を引き立てる。
そう、私はネクタイである。