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番外編 はつこいのひと1

 エデルミラがシルヴィオと初めて会ったのは、四歳の時のことだ。

 その日、エデルミラは父に連れられ、『アヌンシアシオンの儀』に参加していた。


 イストリアの主神の名を冠したこれは、毎年王立魔術院内の聖堂で開かれているもので、簡単に言えば魔力を公式に測定、記録するための儀式だ。


 イストリア貴族の多くは、生まれつきその身に魔力を有する。そして人生における魔力の総保有量は、その人間が四歳を迎える頃にはある程度定まると言われていた。

 ゆえに貴族の子供たちの許には四歳を迎える年になると必ず、魔術院から儀式へ参加するようにという通知が届くのだった。


 魔術大国であるイストリアにおいて、魔術師は『国家の宝』だ。

 そのため儀式には毎年国王も立ち会い、未来の優秀な魔術師たちへ直接激励の言葉をかける。

 ゆえに、貴族は我が子が四歳を迎える年になると魔術院へ連れて行き、その結果に一喜一憂するのであった。


 しかし今年はそれに輪をかけて、保護者ーーとりわけ女児の親たちの熱気が凄まじかった。

「さあ、頑張ってきなさい。お父さまたちに恥をかかせないように」

「大丈夫、あなたならできるわ。力を抜いて、あまり緊張しないようにね」

「いいか。絶対に、陛下と王太子殿下の前で優れた結果を残すのだぞ。そうすれば、お前は未来の王太子妃になれるかもしれないのだから」


 ここ数年、国王は儀式への視察に王妃、そして王太子も伴うようになった。それが、王太子の婚約者候補を見定めるためではないかと、貴族の間ではもっぱらの噂になっていたのである。

 そのため貴族たちは、なんとしてでも自分の娘を王太子の婚約者の座につけたい。それが叶わずとも、せめて王族とお近づきになりたいと、目の色を変えてこの場に臨んでいるのであった。


 幸いにしてエデルミラの父は、王族との縁談にさほど興味はないようだった。元々権力中枢に食い込みたい、というような欲望のない人である。それにそんなものがなくとも、父は優秀な上級魔術師として確固たる地位を築いてきたのだ。


「それではコンテスティ子爵令嬢、こちらへ」

「ドロレス伯爵令息」

「モリーナ侯爵令嬢」

「オルディアレス公爵令嬢」


 審査官から名を呼ばれ、子どもたちが緊張の面持ちで次々と前へ進み出ていく。

 魔力光で動物を形作り、皆の前で披露するーーというのがこの儀式の内容だ。

 動物の種類はなんでもいいとされている。重要なのは、どれほど魔力を安定して出力させることができるか。どれほどの完成度で動物を表現できているかということだ。

 まだ技術の未熟な四歳児にとっては、主旨がわかりやすくもなかなかに難しい課題である。


「魔術師クレトが請う。天の女王アヌンシアシオンの守護者よ。あまねく輝きを掌握せし黄金の貴婦人よ。ヘリアーノス・アル・アノス。仄暗き大地を照らす精霊の加護を我が手に宿したまえ」


 そうして誰かが呪文を詠唱するなり、金色の光が小鳥やうさぎ、獅子に熊と形を変えていく。

 まだ技術のない幼い魔術師たちにとっては、呪文の詠唱も非常に重要だ。熟練の魔術師ならともかく、単語を少し間違えた程度でも魔術が発動しないことはままある。

 中には失敗して泣き出す子も少なからずいたが、未来のエリート魔術師としての片鱗を見せる子もおり、その子の順番の際には歓声と拍手が巻き起こるほどだった。


「次、アンドラーデ公爵令嬢」

「は、はい!」


 とうとう自分の名が呼ばれ、エデルミラはやや上擦った声で返事をした。

 上手くいかなかったらどうしよう。

 アンドラーデ公爵家は古くから連綿と続く、優秀な魔術師の家系。慕う者も多い一方、目の上のたんこぶのように思う者も少なくない。

 ここで自分が失態を演じれば、父に迷惑がかかってしまう。アンドラーデを敵視する他家に付け入る隙を与えてしまうということを、エデルミラはまだたった四歳という年齢でしっかりと理解していた。

 

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