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あずき食堂でお祝いを  作者: 山いい奈
4章 ミステリアスレディの中身
21/51

第8話 スリーピング・ビューティ

どうぞよろしくお願いします!( ̄∇ ̄*)

少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

 家に帰り着いた時、話を聞きたかったのだろう(よう)が玄関に飛んで来た。だが(さく)の腕の中でぐっすりと眠るマリコちゃんを見て、表情を曇らす。


「何があったん?」


「ちゃんと話す。先にマリコちゃん寝かせたげんと」


「朔の部屋でええ? 入るで?」


「うん」


 陽が朔の部屋に駆けて行った。追い掛ける様に朔が部屋に入ると、陽がクローゼットから出したマリコちゃんのお布団を急いで敷いてくれているところだった。朔はそこにマリコちゃんを横たえ、陽が掛け布団を掛ける。


 朔と陽はマリコちゃんを挟んで腰を降ろし、朔はマリコちゃんのつるんとした綺麗な額を指先でそっと撫でた。陽も気遣わしげにマリコちゃんのふっくらとした頬に触れた。


「で、何があったん?」


「実はね」


 朔はあったことを話した。マリコちゃんのことは詳細に話すが、浄霊は成功したと言うに留める。


「そっか。こうして見てると、マリコちゃん平気そうやけどなぁ」


「顔色もええし、良ぅ寝てるだけって感じやけど、原因が伊集(いしゅう)さんの除霊かも知れんって思ったら不安になって。あ、もちろん伊集さんは悪ぅ無いんやで」


「うん、分かってる。伊集さんも未知や言うてはったもんな。伊集さんは朔とマリコちゃんを護ってくれてはったんやから」


「うん。せやからとりあえず様子見ようと思って。目ぇ覚ましてくれたらええし、ずっとこのままやったら私らで専門家とか探さなあかんかも知れん」


「そんなんどうやって探すん」


「スマホでどうにかなれへんやろか」


 今やネット環境さえあればたいがいのことは調べられてしまう時代だ。双子も幾度と無くスマートフォンを活用してきた。過信は良く無いだろうが、ツールのひとつとして便利に使っている。


「なるやろか。それより今日はどうする? マリコちゃん、食堂に連れてく?」


「うん。目ぇ覚ました時、そばにいてあげたい」


「そうやな。控え室和室やし、座布団(ざぶとん)あるから大丈夫やろ」


 「あずき食堂」には小さいながらも控え室がある。畳敷きなので座布団があるのだ。それを数枚繋げてマリコちゃんに寝てもらえば良い。家からタオルケットを持って行って掛けてあげたら大丈夫だろう。


「マリコちゃんも心配やけど、昼ごはん食べれるか? そろそろ用意するけど。ご飯は炊いたぁる」


「あ、うん。そうやね」


 朔は名残惜しいと、マリコちゃんの頬をそっと撫でる。心配だ。だが朔たちは今日も「あずき食堂」を開けなければならない。そのためにはきちんと食べなければ。


 朔は陽に続いて立ち上がった。




 時間になり、「あずき食堂」の営業が始まる。マリコちゃんは控え室で眠っていた。気になってつい気が散りそうになるが、食堂に集中しなければ。朔は意識を戻すために何度も目を瞬かせた。


 どうにか順調に営業をし、オーダーストップの22時が近付いて来た。今日はお酒を頼まれるお客さまが少なく、今はおふたり連れの若い女性のご常連がおられるだけだ。そのおふたりのお皿ももうする空になる。お酒はそれぞれビールを1杯ずつ頼まれただけだったので、恐らく追加注文は無いだろう。


 伊集さんが来られたのはそんな時である。


「いらっしゃいませ」


「いらっしゃいませ〜」


 伊集さんのお顔を見た時、朔はついほっとしてしまう。マリコちゃんはまだ目を覚まさない。お客さまが落ち着いたついさっき見た時も、マリコちゃんはすぅすぅと寝息を立てていた。元気そうに見えるからつい安心しそうになるが、やはり心配になってしまうのだ。


 伊集さんは奥の席に掛け、朔から温かいおしぼりを受け取ると、いつもの赤ワイン、登美(とみ)の丘の赤をご注文された。


「はい。お待ちくださいね」


 グラスワインを出し、登美の丘の赤を注ぐ。伊集さんは腰を浮かせてお惣菜を眺めた。


「お待たせしました」


 登美の丘の赤をお出しすると、伊集さんはアスパラガスとヤングコーンのマリネと、スナップえんどうのペペロンチーノをご注文された。


 アスパラガスとヤングコーンはオリーブオイルでこんがりと焼き付け、熱い状態でマリネ液に浸けた。旬のお野菜は甘みをしっかりと蓄えていて、マリネ液がさっぱりとさせてくれるのである。


 スナップえんどうは縦半分に割り、にんにくと鷹の爪の香りを立たせたオリーブオイルでじっくりと炒めた。爽やかなスナップえんどうに、にんにくの香ばしさと鷹の爪のピリ辛が合うのである。


「はい。お待ちくださいね。メインはどうされますか?」


「牛肉のしぐれ煮を半分でお願いできますか? お赤飯も半分で」


「はい。かしこまりました」


 陽がお惣菜とお赤飯を用意してくれるので、朔は冷蔵庫から牛肉の細切れと生姜(しょうが)、新ごぼうに椎茸を出した。


 新ごぼうは仕込みの時に洗っているので、縦半分に切ってから斜めの薄切りにし、さっと水にさらす。椎茸も薄切りに。歯ごたえの良い軸もスライスして使う。生姜は千切りにする。


 深さのあるフライパンにごま油を引き、牛肉の細切れを炒め、しっかりと色が変わったら新ごぼうと椎茸、生姜を入れてさらに炒める。


 味付けは日本酒とお砂糖、お醤油である。お水はかなり少なくしてあげ、シリコンスプーンで混ぜつつ、煮込み時間を短くしてやる。汁気が少なくなったらできあがりである。


 器に盛り付けて、彩りに青ねぎの小口切りをぱらりと振った。


「はい、牛肉のしぐれ煮、お待たせいたしました」


「ありがとうございます」


 伊集さんは登美の丘の赤を片手に、ゆったりとお食事を進めておられた。このお時間に来られたということは、今日のお仕事のお話をしてくださるのだろう。浄霊は成功したのだが、マリコちゃんにかかりきりだった朔は、途中から見られていないし、詳細も聞けていなかった。


 その時、おふたり連れのお客さまがお席を立たれた。陽が対応する。そして店内にお客さまは伊集さんだけになった。


 伊集さんはここで手付かずだったお赤飯に手を伸ばした。小さなお口に一口運び「ああ……」と切なげにうなだれた。


「マリコさんは、まだ目覚めておられないのですね……? 気になって仕方が無かったのです」


 その通りである。なので今日はお赤飯にご加護を込めることができなかった。やはり伊集さんには分かってしまうのだ。


「気配は感じていたのですけども……」


「控え室で寝かせています。いつ目覚めるか判らへんので」


 双子が苦笑すると、伊集さんは「あの」と口を開いた。


「私、お師匠に相談してみたのです。そしたら妖怪の専門家を紹介してもらうことができたのです」


「霊能者のお師匠さまですよね。妖怪の専門家とお知り合いなんですか?」


 朔が聞くと、伊集さんは「ええ」と頷かれる。


「私はまだまだ若輩者ですが、お師匠ぐらいになりますと、そういった横の繋がりがあるのです。陰陽師(おんみょうじ)祓魔師(エクソシスト)もいるのですよ」


「え? 陰陽師って、妖怪退治の人や無いんですか? 映画とかでやってましたよね」


 そういう方面に興味のある陽が首を傾げる。確かに有名な映画もあって、それは朔も見ていた。ざっくりとした内容もだが、陰陽師である安倍晴明(あべのせいめい)役の能楽師(のうがくし)さんの佇まいや所作が美しかったことを覚えている。


「陰陽師は、現在では簡単に言うと占い師や祈祷師(きとうし)なのです。妖怪退治では無いんですのよ。今回私が紹介していただいた方は、妖祓師(ようふつし)と名乗っておられました」


「よう、ふつし」


 双子はきょとんとしてしまう。あまりにも聞き慣れない言葉だった。


「妖怪の「妖」に、エクソシスト、祓魔師(ふつまし)の「(ふつ)」で「ようふつ」です。造語の様ですわね。()しき妖怪を治めたり、影響を及ぼされた人を助けたりしているそうです」


「そういう方がいてはるんですね。その方に相談させてもらえるんでしょうか」


 朔の言葉に、伊集さんは「ええ」と力強く頷かれた。


「明日、よろしければ午前中か、仕込みをされている時にお連れできたらと思います。お忙しいかと思いますが」


 双子は顔を見合わせる。明日も「あずき食堂」は営業日である。仕込み時間などを加味すると。そして少しでも早い方が良い。


「午前中で」


「うん。午前中で」


「午前中でお願いできましたら助かります」


 朔が、そして陽も頭を下げると、伊集さんが「まぁ」と慌てた様なお声を上げられる。


「そんな、よしてください。この件は私にも責任があるのです。ですから本当にお気になさらないでくださいな」


「でも」


 双子が申し訳無さげな顔になると、伊集さんは「それに」と微笑まれる。


「妖祓師の方も、稀少である座敷童子(ざしきわらし)に会えるのを楽しみにしておりますから。きっと良くしてくださいます」


 そうおっしゃってくださり、双子は「ありがとうございます……!」と深々と頭を下げた。

ありがとうございました!( ̄∇ ̄*)

次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。

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