第9話 奴隷館 過労死しかける苦労人
初の実験だ。というか、人体実験は僕としてはかなり外道だと思う。
例え人を治すためとはいえ、かなり外道の部類に自分がいる。
綺麗事は言えない。保証もないわけだし。
しかし、ここまで啖呵をきった手前で失敗しましたでは笑えない。
現在4歳弱にして、人生の山場にぶち当たっております。ここでこの峠を無事に乗り越えなくては、この女性の未来はないだろう。
「よし。はじめます。」
そして、机の上にあるボロボロの状態な人に近づき腹部に手を当てた。
気功師は本来、遠距離からエネルギーを与えることもできるが、そんなことはまだできないので直接治癒法でいく。
正直、痛々しい傷跡に触れる事に心が痛む。
「ふぅーーーーー・・・。はっ!」
腹部についた手からエネルギーを相手に明け渡し始めた。
ってあれ?思いの外きつくね?気力の吸われ方が尋常では無い。
ダイ◯ンに吸引されてるが如くだ。
分かりやすく例えると、洗面台に溜めてあった水の栓を引き抜いた状態だ。一気に穴から流れるように吸われていく。
周りがやけに静かだった。まだ何も起きていないからこそ、その光景を固唾を飲んで見守っていた。
暫くしてから、ようやく傷跡に変化が起きた。細胞が気によって活性化され傷跡を再生している。
傷跡でこれってことはもしかして。
切れた四肢だと、とんでもない量の時間と気力を消耗するんでねか!?
やべえ。保つかな?前世の魂と精神年齢分の力がなければ秒で干からびて死ぬ。(27+4歳)
人生初の生死を賭けた戦いをしている。
普通のファンタジー主人公たちならきっと、あっさりと治して何事もなかったかのように丸く収められるだろう。
しかしこれは現実で、私は主人公では無い。そもそも主人公ならもっと良い出会いもあるし、力もある。
対人関係なんて、伯爵家の中でも家族と騎士含めて数人しか話し相手がいない私だ。
友達?なにそれ美味しいの?
力は確かに手にしたが、非常にピーキーな力なので気を抜けば、力によって殺される。
けど、今できることはこんなもんだ。だけど、人生を今終わらせたくない。
誓ったから、今度こそみんなで『楽をしようと』1人ではなく。大切な人たちと。
ここで、左太腿に動きがあった。なんと再生をし始めた。だが、安心するのはまだ早い。
何せ足一本だ。これから残り3本やら髪の毛やらの回復が待ってる。油断はできない・・・!
「グフッ!」
口から血が溢れた。予想してなかった事に驚きが自分にあった。
気力を使って人を治癒するということは、自分のエネルギーを使って相手の生命エネルギーに力を渡すということだ。
気を譲渡するということは、自分本来の生命力を相手に移すことで、活動に必要な生命エネルギーがごっそりと減っている。
つまり、体の内臓が少しずつ傷つき機能が低下してくるため、必然的に吐血や内出血、頭痛などの症状がでてくる。
「キャスト様!」
「伯爵様・・・」
「キャスト様・・・。」
騎士のミレルミア、メイドのマール、奴隷館オーナーのブリガンドが反応した。
「大事ない!少し力み過ぎただけだ!
どうか見守っていてくださらぬか!今大事なところなんでぇ。集中させておくんなまし。」
あ、かなりテンパって変な話し方に。
そりゃ吐血って人生初です。あとなんか内臓が締め上げられてる感じがする。
痛いという概念が薄い。これは神経が麻痺してますね。
その様子から、ただならぬ雰囲気を感じたのか、3人は邪魔をしないようにと再び静かに見守っていた。
そんなやりとりをしている間に足が回復し、もう一本の足が今度は反応した。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。
かなり焦ってる。感覚でしかわからないが、自分が確実に死に少しずつ近づいている。
なんか、死神さんが鎌を背後で首元に構えて、少しずつ切断しようとその鎌を引いているようだった。
かなり時間が経った。
あれからどれくらい経ったかな。気づけば、左腕、左右の足の再生が終わっており、他の傷も再生し終わっている。
そして、最後の腕を再生している最中だ。
気の流し方が下手だからかもしれない。無駄にエネルギーを消費している。
ここが踏ん張りどころや。体ボロボロだし、気を抜けばいつでも倒れてしまうか。
もうすぐ右腕が再生し終わるな。ようやくかようやく終わりが見え・・た・・。
「す、すばらしい!ここまでの力が伯爵様にあろうとは!」
久しぶりに声を聞いた。
再生し終えたからであろうか、それこそ気が抜けたからであろうか。なんというか・・・おやすみなさい
最後の最後に全身の気力が抜け落ち、意識を失い後ろに倒れた。
私は信じていた者に裏切られた。
初めは夢のような幸せで温かい環境だった。
婚約者との幸せな生活に、騎士として、光の聖女エリザベール・アル・ホーリーライト姫様に仕え、この聖王国を守る『光りの神 アラヌス』の守護者として、この幸せたちを守ることを誓っていた。
私はホーリーライト聖王国 閃光騎士団 所属 ナイトオブワンの地位を授かった。
私の名はアリシア・ヴィル・アサギリ。
母が宰相であり、前勇者様の末裔である。私もその子孫にあたる。
アサギリは前勇者様の姓であり、代々母の代まで引き継がれてきている。
父は平民上だが、持ち前の腕前と実績を活かし、上へと上り詰め騎士となった。今では女王と王の城を守る、近衛騎士隊に所属している。
前勇者様の歴史によると、大変多くの女性を愛されており、その子孫も多いとされている。
勇者の血を引くものは、生まれつき優秀なスキル・魔力を持ち合わせている。
固有・上位スキル持ちも必然的に現れる。
強くなればなるほど、慢心するものも中には多かれ少なかれ存在した。
だが、私は違った。
慢心せずに他の者のよりも常に先に進んむことを選択してきた。
そして、聖王国最強の騎士団 閃光騎士団のトップまで上り詰めた。
そんな私にも婚約者がいた。
ウィルズ・アル・ホーリーライト第1王太子その人である。
ホーリーライトという家名と国名も前勇者様がお決めなさった名前らしい。
ウィルズ殿下は民のために率先し、行動なされている立派な方だ。
そんな、私が彼と共に居られることはとても幸せで夢のような環境であった。
そんなある日、2人の勇者が召喚されることになった。
理由は、再び来る脅威に備えてのことらしい。事実、魔王を中心とした魔族や他国への牽制も兼ねている。
だが、召喚された2人の男女の勇者は見た目からしてまだ幼い。
学生となんら変わりない背丈である。男は珍妙な黒い服と黄色いボタン付きを着ている。
女は色も黒い服に赤ピンクのリボンをして、下はスカートを履いている。
2人の手には四角いバック?を持っている。それに異界人らしく、髪の毛は黒く、瞳も黒い。
エリザベール姫は呼び出し理由を説明し、助けてもらうよう懇願なされていた。
結論から言うと、2人とも了承してくれていた。
男の勇者は何故かとてもはしゃいではいるが。
王と女王の謁見にて、『選定の儀』が行われた。
女神アラヌス像と神官様の鑑定が行れ、その結果がその場にいた2名の勇者と私、姫様、女王様、王様、宰相こと母上に伝えられた。
ユウキ イザワという少年は光の勇者、剣聖、光魔法強化、能力超向上、閃光と目を引く固有・上位スキルが多かったが、1番に気になったのが前勇者と同じスキルの『導き手』である。
このスキルは前勇者と同じく、世界を率いたり、人々を先導する力を持つ強大なスキルだ。
そして、もう1人の少女 カナエ ミサワは光魔法強化、能力向上、魔力増加、多重魔法、属性強化、杖術、光神である。
目を引くのは『光神』神の権能を使うことができるという固有スキルだ。
それに、秘めた魔力量が段違いだった。
この2人の誕生によって私の人生は大きく変わることになる。
そして、現在へ
エンバイス伯爵の馬車はミレルミアが御者をし、マールがキャストを膝枕し寝かせている。
マールの前には、綺麗な紅色のロングヘアーに引き締まったスタイルと強調された胸に黄金の瞳をしている。
服装はみすぼらしく、首輪が付けられている。
アリシア・ヴィル・アサギリその人である。
傷は癒えたが、心の内に秘めた怒りと衰弱した体力を癒すことはできなかった。
また、彼女は3年間は酷い仕打ちを受けていたのもあり、そのせいで全ての能力にブランクが生じている。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。(気まずいです。)」
何も話さないアリシアにマールがどう話そうか考えていたが、何もできずいた。
この気まづい空気の中でも、キャストはお構いなしにスヤスヤと寝ていた。
ミレルミアは突然、馬車が急停止させた。
「!!!止まれ!」
2匹の馬を急停止させ、前方を見た。
魔物がいた。領内は比較的に安全ではあったが、時に、魔厄の森より逃げ帰る魔物がいる。
冷静に敵を分析した。ゴブリン4匹にオークが2匹それにローブ姿の人がいる。指揮官?
しかし、何故いる?いや、詮索は後回しだ。
すぐに馬車を飛び降りて、魔物対峙するミレルミア。
「ッッシュ!」
飛び降りた勢いそのまま、空中で風魔法を足に展開して加速し高速で引き抜いた2本の短剣を使いオーク2匹の首を切った。
ゴトッと首が落ちたのと同時に地面へ着地した。
謎のローブの人物にそのままの勢いで、切り掛かった。
だが、その攻撃を剣一本で防がれた。
キィン!キィン!と何度も剣音が鳴った。
「見事な腕前だ。」
ローブの人物から声がした。
「ほう。これだけの打ち合いは久しぶりです。(声は男性ですか。)」
「ここで、油を売っていていいのかな?ゴブリンはまだ4ひ!?」
ゴブリン4匹が馬車に向かおうと動いた瞬間に
ゴポゴポゴポゴポと体全身が膨れ上がり、パァーーン!と破裂死した。
「!!何ですかね?今の技は?」
「言うわけないだろ、忌々しい技だからっな!」
ミレルミアは話し終えたと同時に切り掛かったがまたしても止められる。
そして、弾き飛ばすように剣音を鳴らしお互い距離を取る。
「目的はなんだ?」
「喋ると思いますか?」
「だろうな。だが、予測はできる。
キャスト様の情報を何処で手に入れた?ああ、言わなくていい。
差し詰め、奴隷館関係者から聞いたのだろうな。オーナーのやつは喋らんだろうが、警備と受付人のやつはそうではない。
お前の反応を見るに正解か。
キャスト様を殺しにきたと言うところか。
だが残念だな。私がいる限りそのチャンスは愚か、逃さんぞ。」
すると、ローブ男が笑った。
「フッフッ。少しハズレです。ですがお陰で貴重な情報が聞けました。
どうやら、アリシア・ヴィル・アサギリの体が綺麗さっぱりと回復されたのは無能の烙印を押されたキャスト・エンバイスが成し得たことか。少し気が変わった。
この情報の代わりに答えよう。殺しに来たのは《《アリシア》》の方だ。」
なるほどな。確かに、キャスト様の情報は流しはしない制約だが、その回復した方の奴隷は別であると言うことか。
しかも、閃光の英雄アリシアだと?どうしてそんな化け物があんなところに居たんだ?
まぁ、そんなことよりも
「キャスト様を無能と呼んだな。キサマ死ぬぞ?」
ミレルミアの中ではキャストを馬鹿にされたことでスイッチが入った。
「あまり使いたくはないので、すぐに終わらせ・・・!!」
「なっ!」
ミレルミアが得意とする精霊魔法を唱えようとした時、魔力で構成された光剣を持ったアリシアが馬車から出て来て、ローブ男に斬り掛かっていた。
男はこの動きに反応できず。気づいたら左腕を切断されていた。まるで、光の速さである。
「ぐぅッッッッ!!!!」
切断された腕の痛みを耐えるとその場から《《消えるように》》いなくなった。
「転移石か。」
その場に転がった石を見てミレルミアは呟いた。
その後、魔力光剣を持った彼女を見てこう聞いた?
「何故貴様のような奴が皇国の奴隷館などにいた?」
「裏切り者の末裔に話す機会などない。
言えることは奴が聖王国の使いの者だと言うことだ。強さからして、ラウンズ直属の部下だな。」
「それで納得しろと言うことか。ところで立場を知っているか?」
アリシアは不機嫌そうに。
「チッ!奴が私を殺しに来たのは私が生きて奴隷館を出たからだ。
やつは強いが、倒せない相手ではない。
だが、時間がかかればかかるほど、目的地には着かず、夜に野営をすることになる。
その方が危険だと判断したから出てきた。」
少し感心したミレルミアだ。
「なるほど、よく考えているんだな。
さすがは《《元最強》》だな。」
「・・・・・。早く馬車を出せ。なんなら私がやってもいいけど《《悪精霊に愛されし異端児》》さん?」
「キャスト様がお助けにならなかったら、貴様を八つ裂きにして殺しているところだった。
ちゃんとキャスト様には感謝しておくんだな。」
「感謝してる。この上ないくらいに感謝している。
けど、何もできなかったお前に言われる筋合いない。」
バチバチバチバチと見えない火花が散っていた。馬車の窓からマールが顔を出し。
「あのー言いにくいのですが、早く行きませんか?日が暮れますが?」
この一言で冷めた2人は元の位置に戻り、再び出発した。
エンバイス伯爵領に無事に辿り着いたが、既に辺りは真っ暗だ。
エンバイス邸へ真っ直ぐと迷わずに戻った。
馬車と一緒に馬を馬小屋まで連れて行った後、馬車からマールは降りたが、ミレルミアとアリシアが寝ているキャストの取り合いをしている。
「おい!貴様その格好でキャスト様を背負うのか!汚らしい!それに目立つだろ!私が送り届けるから、マールと一緒に裏から回って来い!」
「ダークエルフの分際で私に指図するな!
主様だけが、私に唯一ご命令できるお方だ!お前に連れてかれたら呪われるだろ!」
ぎゃあぎゃあとうるさい2人だった。
その現場にいたマールはやりたくはないが。
「あの遅いので私が送り届けます。お2人はどうぞ、仲良く裏からお入りください。」
メイドの威圧感を放ちながら言った。
流石の2人も空気を読んで裏に回って行った。
「はぁ〜〜。なんか今日だけでめちゃくちゃ疲れましたわ。
それにしてもキャスト様はよくあの状況で寝れるわね?」
その目には馬車の中で、未だ目が覚めず熟睡していたキャストがいた。
「んにゃ〜むにゃむにゃむにゃ〜、おうどん食べたい〜。」




