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プロローグ

 今日もまた、帰ってこない夫を待つ。




「仕方ないわね。先にいただきましょう」


 イリファスカは時計の針の位置を確認してから、そばに控える侍女のカジィーリアに向かって最早お決まりとなった台詞を吐いた。


 執務室を出て落ち着いた色味の廊下を抜ければ、後ろを付いてきていたカジィーリアが先んじて前方へと移動し、食堂の扉を開けてくれる。

 すでに食器が並べられた定位置の席に静かに腰掛けると、壁のそばに立っていた若い使用人の娘二人が、主人であるイリファスカの登場にもかかわらず、未だだらしなく談笑に花を咲かせていた。


「ゴホンッ」


 家令のわざとらしい咳払いを受けて、ようやく二人の声はやんだ。

 しかし何が面白いのか、彼女達は互いを横目で見やると、時折『フフッ!』と息を漏らしては、笑いをこらえながら(ひじ)で小突き合った。


「ヴンンッ!」


 もう一度、たしなめるように家令の喉が鳴る……。

 気を使ってくれる家令には悪いが、当のイリファスカは真面目に彼女達とやり合う気力が失せていたため、聞こえないフリをして最後のスープ皿が厨房から到着するのを待った。


 あの娘達はまだ十代(なか)ば……怖いもの知らずな年頃なのだ。

 この家に(とつ)いだばかりの頃の自分であれば、余裕のなさからカッとなって怒声を響かせたかもしれないが……今や二十五歳。良くも悪くも、色々なことに諦めがつくようになった。



 ―― そう、たとえ夫が家に帰ってこず、外で他に女を作っていたとしても。



 ……食堂の奥から運ばれてきた出来立てのスープが“コトリ”と音を立ててテーブルに置かれると、イリファスカは周囲から注がれる(あわ)れみの視線に刺し貫かれながら、カトラリーを手に取った。

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