春の訪れ
さくらの蕾が膨らみ始める頃。街中が賑やかさと悲しみが入り交じる。出会いと別れの季節なんて言うからだろうか。2人の男女が泣きじゃくっている姿を目にする。耳を澄ますと、どうやら転勤で離れ離れになってしまうらしい。
『やだよ、まだ一緒にいたい』
「こればっかりは…な?」
『転勤のない会社にしてくれたらいいのに』
「俺はこの会社が好きだから」
『そんなの知らない…』
「会いに来るから、必ず迎えに行く」
そう言い残すと男性は、涙を拭って改札へと入っていった。その場に立ち竦む女性は肩を震わせながら泣き続けている。
『…必ず会いに来てね』
自分自身にも言い聞かせるような言葉が僕の心にまで響いていた。必ずなんて概念は柔く夢のようなものだと思っていたからだ。そんな夢物語叶ったらいいけど、そうも上手く行かないだろう、と。
『…ねえねえ、何してたの?』
「いや、何も」
『まあ、いいけどさー。今日はあのカフェ行くでしょ、ほら』
お前の笑顔を見れば、そんな悪い考えさえも吹き飛んでしまう。心を揺らして熱くさせてくれる。時が止まっていた此処をゆらゆらと。時に波の音が幾度もなく響くこともあるけど、それがあってこそなのだ。いつもと変わらずに手を取り、指を絡めた。
ー終わり