第43話 力天使5人……魔人化した力、試させてもらおうか!
鬼神はいち早く戦場から退場した。
あまりにもあっさりと終わった戦闘に俺は困惑を隠せない。
だが鬼神に感じた霊的エネルギーはもう感じられなかった。
いつまでも誰もいないところを睨みつけていてもどうにもならないので、俺は力天使に囲まれて攻撃を受けるバーミリオンの下へと駆けつける。
彼女は傷ついたセピアを庇いながらも何とか攻撃を凌いでいた。
「無事か?」
俺が来たことで力天使5人の攻撃が止む。
魔人化した俺を警戒してるってとこか?
「阿久クンか……」
バーミリオンが複雑そうな目を俺に向けてくる。
フェイスガードは壊れ、その体は攻撃を受けてボロボロだ。
そりゃ自分よりも上位の天使を、しかも5人も同時に相手してるんだからな。
「そいつらは俺が殺る。バーミリオンはセピアを頼むよ」
「いや、私は既に反抗してしまった」
「天使……仲間同士で争うなんて馬鹿げてる。それにここにいるヤツらを全員倒せばどうとでもなる。セピアもあなたも『まだ』引き返せるはずだ」
俺の言葉に何を思ったのかは分からない。
彼女は神妙な顔付きでらしくない言葉を吐いた。
「天使同士のゴタゴタに巻き込んでしまったな。すまない」
「あの話が真実だって証拠なんてないだろ? 後は天使の仇敵たる俺に任せろ」
引き返せる?
そう簡単にことが運ぶとは思えない。
でも俺の方こそ、セピアやバーミリオンを巻き込みたくはない。
それにさっき鬼神に殺されかけていたたところを神術で助けてくれたじゃないか。自分の立場が悪くなるのにもかかわらず。
最上級魔神のバーガンディーに襲われた時だってそうだ。
生き残れたのは彼女たちのお陰なのだ。
俺は様子を窺う力天使たちに向かって歩き出した。
「お前らの相手は俺だ。倒してやるからかかって来い」
「人間如きが……魔人になったからには貴様は敵だ。その伸びきった鼻っ柱をへし折ってやる」
「はッ! 俺がただの人間だったとしても狙ってただろうがよ。黒の心臓を持つ限りな」
力天使たちの雰囲気が変わる。
「そう言う訳だ。御託はいいからかかって来い」
俺の安い挑発に乗って力天使たちが一斉に俺に殺到する。
直接、光子力を叩き込む気のようだ。
だが――見える。
迫り来る拳。拳。拳。
その全てから大きな光子力が感じられる。
そうか。そうだよな。武器でなくても直接殴れば済む話だよな。
俺は後ろへ下がらず前に出る。
先頭の天使の懐に飛びこむと、突き出された右腕を斬り飛ばす。
そのままの流れでその腹部を薙ぎ斬ると、背後に回って延髄の辺りに黒刀を突き刺した。
そのまま機能を停止して物言わぬ塊と化した天使の背中を踏みつぶし、俺は他の天使に標的を切り替える。
明らかに激昂した表情をしている天使のノロい攻撃を余裕で見切り、黒刀をそいつの頭上から降り下ろした。
声を上がることすらできずに左右に一刀両断されたそれは、すぐに光粒子になって消滅していく。
弱い。
弱すぎんぜ。
俺の顔が愉悦に歪む。
これが天使の序列第5位の力天使か。
これが笑わずしてどうするってなもんだ。
俺が3人目をあっさり滅ぼした時点でようやく残りの2人が空へと舞い上がる。
虚空から機関銃のような光子銃を取り出すと、俺に向けてぶっ放した。
轟く爆音。
大口径の光子銃の圧倒的火力による集中砲火。
それで滅ぼせると思った?
残念! 余裕でした!
降り注ぐ光子力弾が俺に届くことはなかった。
無力。
あまりにも無力。
俺はさしたる力を籠めることもなく跳躍する。
目の前には光子銃を手にした天使。
一瞬で間を詰めた俺は天使を細切れに斬り刻んだ。
戦い方は俺の心臓が教えてくれる。
天使たちが『白の黙示録』と繋がっているように、俺も『地獄の創世記』と繋がっているようだ。
『地獄の創世記』こそ魔なる者共の源泉。
聞いたこともない地獄の創世記と言う言葉を知っている。
その事実に俺は自分が魔人になったことを強烈なまでに実感していた。
空中に浮かびながらゆっくりと目を向ける。
残りの1人の天使に。
視線と視線が絡まり合う。
その天使の心理が手に取るように理解できる。
驚愕、恐慌、絶望。
負の感情が俺に流れ込んでくるのがよく分かった。
とは言え、遊んでいる猶予などない。
俺が動くと同時に最後の力天使は逃げに走った。
俺に背後を晒して。
もちろん逃すはずもない。
すぐに追いつくと背中の光り輝く翼を千切り取る。
きりもみ状態になり落下する天使を力任せに大地に叩きつけ、足で胸部を踏みつぶす。超再生など許すはずもない。神核を潰され天使は消滅した。
「ははッ……トドメは地球の一撃ってか?」
あまりにも呆気ない。
あまりにも矮小な力だ。
「後は、主天使、セルリアンと神人か……」
近くでは大きな力と力が激突し、その余波が荒れ狂っている。
俺はすぐにルージュとスカーレットの下へ向かうべく大地を蹴った。




