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第34話 保護対象を迎えに行ったら変なのに出会ったんだが

 いつも通り、問題が発生しまくりの1日が終わった。

 でも以前と比べて会社へ行くのが苦痛じゃなくなっているんだよな。

 つっても相変わらずお薬のお世話にはなっているんだが。


 セピアから寄り道の提案を受けたのは、定時を過ぎた頃だった。


「先輩、近くに凄い力を秘めた黒の心臓(ブロークン)を持つ人間が確認されたそうです」

「そうなん? それがどうしたんだ?」

「いえ、我々の保護下に入れろと言う指令が来まして……」

「そういう任務もあるのか。その人間も神人化するんか?」


 俺は少し複雑な思いをしながらセピアに尋ねた。

 だって神人化する時になぁ……って何、動揺してんだ俺は!


「私の神格じゃ、1人に加護を与えるくらいしかできませんよ。今回は他の天使が合流するそうです」

「なんだ。そうなんか」


 なんでだろう。

 俺は何故かホッとしている自分を感じていた。


「急ぎましょう。もう鬼が近くまで来ているみたい……」

「他の天使も近くにいるのか?」

「まだ光子こうしは感じられません」


 その後、セピアに案内されて、その人間がいるらしき場所まで向かう。

 到着したのは、小さな公園であった。


 暗い中、キーコキーコと何かの音が聞える。

 俺が不気味に思いつつも音の方へ近づいていくと、そこにいたのはブランコに座ってゆらゆら揺れているスーツ姿の男性であった。

 気力や覇気のようなものが全く感じられない。


 何だこれ、怖すぎだろ……。

 これが精神をやられた人間の姿なのか。

 俺も以前はこんな感じだったのかもな……。


 俺が戸惑っていると、セピアがその男性の下へと駆けつける。

 死んだ目でブランコに揺られていた男性はそれに気づいてパッと顔を上げた。

 既にセピアは天使の執行官形態エクスキューティブモードだ。

 それを見たせいか、その男性が素っ頓狂な声をあげる。


「なッ!? だ、誰ですか、何なんですか、あなたたちはッ!?」

「落ち着いて下さい! 我々はあなたを保護しに来たのです」

「保護? 警察か何かなのか?」

「いえ、私は天使です。」

「……ああ、これがコスプレってヤツなのかね?」


 当たり前である。


 この男性もアレだが、メカメカしい格好をして背中から翼を生やしている女の子が急に天使だと告白してくるのだ。

 これが怪しくなくて何だと言うのか?

 俺もうまく説明できる自信がないので、2人のやり取りを近くで見つめているだけだ。しかし、その言葉の応酬に幕を降ろしたのは今まで感じた事のない、ゾワリとした空気であった。


 慌てて辺りを警戒する俺。

 セピアもそれに気づいたようで、急に辺りを見回し始めた。

 俺とセピアの視線がある方向で止まる。


 そこには闇をまとった何かがいた。

 そいつはこちらへ向かって近づいてくる。

 ゆっくりとした歩みだが、その体からは凄まじいまでの圧力プレッシャーが感じられた。

 俺の脳内選択肢がこの場に留まるなと全力で邪魔してくる。


まれ! 貴様、何者だ?」


 静止を求めるセピアの声が届いたのか、そいつは歩みを止めると口を開いた。


「ボクは鬼神アフレイト滅紫桔梗けしむらさき ききょう。鬼たちを束ねるものさ」

「!?」


 俺とセピアが絶句する。

 こいつ、鬼なのか?

 鬼神アフレイトを名乗るってくらいだ。

 鬼の棟梁とうりょうってところか?


 そこらの鬼と違って人間と変わらない外見をしている。

 黒髪を肩まで伸ばしており、少年の風貌で少し小柄な感じがする。

 とても鬼たちの親分だとは思えない。


 しかしどうやら事実であるらしい。

 鬼神アフレイトの言葉を合図に公園内に鬼が突如として出現したのだ。


 俺は、とっさに神人化して刀を構え、セピアも銃を具現化して鬼へ向ける。

 本当なら神器セイクリッド・アームズを具現化したいところだが、俺にはまだ無理なんだ。


「先輩、大丈夫です。天使の部隊が接近しています」

くだんの部隊か……でも来るなら早く来てもらいたいもんだ」


 そんな会話を交わしている間にも鬼たちはどんどん近づいてくる。

 世界から色が失われる中、セピアは銃をぶっ放し始めた。

 俺も覚悟を決めて刀を片手に羅刹に向かって走り出す。

 俺が勝てるのは般若か精々、虚無くらいだ。

 羅刹に勝てる気はしないが、援軍が来るまで粘ってみるか。

 それにルージュに教えてもらったことを実践する良い機会でもある。


 俺は体内に感じる光粒子ルークアロンを練り上げ、光子力ルメスへと変換する。

 うん。イメージ通り!

 手にした刀の光りがより大きく輝く。


 羅刹に上段から斬りかかると、羅刹は持っていた槍で軽くその一撃を弾いた。

 弾かれた俺は、空中でくるりと一回転すると、地面へと降り立つ。

 俺はめげずに突撃するが、羅刹は大きく息を吸い込んだかと思うと俺に向かって息を吹きかける。ところが迫ってきたのは風ではなく、火炎であった。


 炎が俺のスーツを焦がす。

 俺は前まわり受け身の要領で回転すると火炎放射をすり抜けて羅刹へと肉迫した。

光子力ルメスを込めた右手の刀が羅刹の腹を斬り裂く。


 ――浅い


「た、助けてくれぇ!」


 俺が追撃をかけようとした、その時、情けない声が俺の耳に届く。

 さっきのおっさんか?


 声のした方向を見ると、そこには滅紫桔梗と名乗った鬼神アフレイトが男性の首を左手で締め上げているところであった。


 よそ見をしていた俺の顔面を羅刹の左ストレートが捉え、俺は見事に吹っ飛ばされる。


 痛てぇ!


 したたかに地面に叩きつけられるが、何とか立ち上がって羅刹を睨みつける。

 しかし羅刹は攻撃の手を緩めない。

 更に攻撃を畳み掛けられて防戦一方に回る俺。


 保護対象のおっさんの下へと駆けつけたいが、そんな余裕はない。

 セピアも鬼たちに囲まれているようで中々、彼に近づけないようだ。




 その時、夜空が急に明るく光り輝いた。

 現れたのは翼を持った天使たち。


 来たか!

 俺は注意を羅刹に戻すと、今の瞬間まで俺を睨みつけていたその首から上が綺麗に消え去っていた。


 そこには首のない羅刹が1体いるだけだ。

 誰かがあの一瞬で羅刹の首を斬り飛ばしたのだ。


 そのむくろとなった体の胸の辺りから1本の腕が生える。

 その手には黒い石のようなものが握られていた。

 漆黒結晶アテル・クリストか。

 腕が引き抜かれ、羅刹の体が黒いかすみとなり消滅する。


 かすみがじょじょに霧散していく。


 塵が風に溶けて消えたその時、俺が目にしたのは人間、いや神人しんじんか?

 短髪黒髪の冷たい目をした男だ。

 俺はその光景を茫然と眺めていると、その男が俺に向かって言い放った。


「弱ぇな」


 さすがにカチンときたが何も言い返せない。

 当然だ。俺が苦戦していた羅刹を一撃で葬ったのだから。

 気が付くと、周囲にいた鬼たちは新たに現れた天使たちに滅ぼされていた。

 天使たちは皆、例外なく鬼から漆黒結晶アテル・クリストを回収している。


 残るは右手に何かの塊を持った鬼神アフレイトだけだ。

 その塊は何故かドクドクと脈打っている。

 鬼神アフレイトの足下には保護対象のおっさんが倒れ伏している。

 っつーことはアレは……。


 周囲にいる天使たちは何故か手を出さずに、ただただ傍観している。


 おっさんの保護が目的じゃなかったのか!?


 鬼神アフレイトはゆっくりとその塊を口に近づけると、その小さな口でかぶりついたのであった。

 近くにいたセピアの声にならない悲鳴が俺の耳に届く。

 俺も鬼神アフレイトがその塊を喰い終わるのを茫然と眺めているだけだった。

 すると、抜き身の剣を肩にトントンと当てながら、短髪黒髪は俺に向かって言い放つ。


「鬼が黒の心臓(ブロークン)を喰うのがそんなに珍しいか?」


 黒の心臓(ブロークン)だと!?

 想像は当たっていたが……。


 あれが捕食者の食事なのか――


「あいつが喰うのを止めないでいいのか?」

「別に構わない。その分、より濃い結晶ができるだけだ」

「濃縮……?」


 俺の脳裏にスカーレットの言葉が蘇る。

 こいつら天使なのに何故、わざわざ鬼に黒の心臓(ブロークン)を喰わせているんだ?

 漆黒結晶アテル・クリストが出来ても構わないのか?


 スカーレットの言葉が脳裏をよぎる。

 俺はゾクリとした悪寒に襲われていた。


 黒の心臓(ブロークン)を平らげた鬼神アフレイトが歪んだ笑みを浮かべる。


「さすがにこれだけ敵がいたら苦戦しそうだね。今日はここまでだね」


 そう言い終わると、滅紫桔梗けしむらさき ききょうと名のる少年は闇に溶け消えた。

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