第31話 いつしかこんな大事に……これって事実?それとも陰謀? 話がぶっ飛んでてわかんねぇ
「貴様ら……」
バーミリオンは憤怒の形相でスカーレットを睨みつけたまま動かない。
しばらく睨み合いが続いたが、バーミリオンは舌打ちをするとくるりと背を向けてこの場から飛び去った。天使たちも困惑しながら後へ続く。
「俺たちも帰ろう……」
俺はいつまでも動こうとしないセピアにそう告げる。
その言葉を聞いたスカーレット無言のまま転移門を開き何処かへ消えた。
「じゃあ、あたしも先に帰ってるね。お兄ちゃん」
続いてルージュもその闇の中へと姿を消した。
―――
家に辿り着くと、汚れたスーツを脱いでいつもの部屋着へと着替える。
しっかし毎回毎回、スーツがオシャカになってんな。
ボロボロになったやつもあるからスーツ代も馬鹿にならんぞ。
死ぬほど疲れたので晩御飯を食べるより、風呂に入ってゆっくりしたいと思った俺はすぐに湯船にお湯をはるために、蛇口をひねる。そしてリビングに戻ると、大の字になってベッドに倒れ込んでいるルージュに声をかける。
「ルージュ、今日は先に風呂だ。沸いたら入れよ」
「はーい」
俺はソファに身を沈めると、一息ついた。
今日は業務よりも鬼たちとの戦いで疲れ果てた。
あんなに多くの鬼を相手にしたのは初めてだ。
と言っても、倒したのはほとんど、天使と魔神の連中なのだが。
それにしてもスカーレットの言っていたことは本当なのだろうか?
俺としては、人間が神の現身だろうがなんだろうが構わないが、自分の快楽のために人間を飼育していると言うのが本当なら胸糞悪い話だ。
そんなことを考えながら俺は冷蔵庫からお茶を取り出して、いつものマグカップへと注ぎいれるとソファに戻って腰を下ろした。
そのゆらゆらとゆらめくお茶をぼーっと眺めながら俺は考える。
今もこの地球上のどこかで黒の心臓を持つ人間が鬼に喰われている。
そしてその鬼の体内で漆黒結晶と言う結晶が生成され、高純度に濃縮されたものを神が喰らっているのだ。
ことを聞いた時のセピアとバーミリオンの反応を見ていたが、違和感はなかった。
2人共、取り乱していて表情も真剣そのものだった。
おそらく初耳だったのだろう。
となると、漆黒結晶の件に一般の天使は絡んでいないのか?
それとも単にスカーレットが嘘を言ったのか?
しかし彼女が敢えて嘘を付く理由が俺には分からなかった。
敵対している天使たちに神への不信を植え付けるためなのか?
神の姿なんて見たこともないが、神がわざわざ鬼の漆黒結晶を喰うために自ら、鬼を狩る姿がどうしても俺には想像できなかった。となると、秘密を知っている天使と知らない天使がいるのと言うのは十分考えられることだ。
つまり、やはり知っているのは一部の天使のみということだ。
俺はマグカップのお茶をぐいーっと飲み干すと、コトッとテーブルの上に置いた。セピアとバーミリオン、ヴィオレ、フォグブルー……今まで会った天使たちは俺の黒の心臓にはとてつもない力が宿っていると言う。
ならば、必ずどこかで秘密を知る天使とかち合うことになる。
俺は今、セピアの加護を受けた神人だ。
となると、天使は俺をどう扱うのだろう。
しばらく天使の出方について考えていたが、情報がなさ過ぎて判断できない。
その時、バスルームからほくほく顔のルージュが出てきた。
いつの間にか風呂に入っていたようだ。
「いやー一番風呂は気持ちいいねぇ。お兄ちゃん上がったよー」
「早かったな」
「お兄ちゃんも早く入ってゆっくりしたいかと思って」
「そいつは殊勝な心がけだな。感心感心」
「むー何よせっかく気を利かせたのにぃ!」
ルージュは頬を膨らませる。さすがルージュ、あざとい。
「冗談だよ。ありがとな」
俺はそう言うとバスルームへと向かう。
風呂に入るべく、全裸になると浴室へ。
俺はかけ湯をして、さっさと髪の毛を洗うと、今度は体をゴシゴシと洗い始める。風呂に入る前に全て済ませるタイプなのだ。そして全身を洗い終わった俺は、湯船にそっと滑り込むようにつま先から浸かる。
「ふぃーしみいるわい」
肩までしっかりお湯に浸かりながら俺は頭を空っぽにすべく、数を数え始めた。
「い~ち、に~、さ~ん……」
小さい頃は婆ちゃんに肩まで浸かって100まで数えろと言われていたものだ。
何にも考えず、熱いお風呂にゆっくりと浸かる。
うーん。至福のひと時だわ。
しっかりと100まで数えた俺は、風呂から上がってリビングへと戻る。
台所ではルージュがご飯の準備をしている。
流石に今日はスカーレットはいないようだ。
本当に彼女はどうしてあんなことを暴露したんだろうな?
俺が風呂から上がったのに気が付いたルージュは手を動かしながら話しかけてきた。
「もうしばらく待っててね」
「うん。ありがと」
冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを取り出すと一気に飲み干す。
火照った体に冷たいビールが染み渡る。
ホントはアルコールはいかんのだが、何だか今日はそう言う気分だったのだ。
そして間もなく料理がテーブルに並ぶと、2人でいただきますをして食べ始める。しばらくテレビに集中していたルージュだったが、程なくして俺の方に顔を向けると、真剣な面持ちで話し始めた。
「そう言えば、お兄ちゃん。今日の鬼との戦いを見て感じたんだけど、戦い方が全然なってないわ」
「そりゃそうだろ。俺は光子力があまりないって話だし」
「そんなレベルじゃないの。少ない光子力でも上手く引き出せることができればあんなに苦戦しないわよ。」
「引き出すって言ってもな。感覚が掴めないんだな、これが」
実際、セピアに教えてもらっているものの、未だに感覚が掴めないでいた。
「ま、黒子力と黒子回路持ちのお兄ちゃんが、中々光子力の扱い方を掴めないのは仕方のないことよ。そこまで気にする必要はないよ」
「そうなんか。そう言ってもらえると気が楽になる」
「体内の光粒子を練り出す感じをイメージしてみて。それは武器に付与することもできるし、拳に集中させて敵を殴り飛ばすこともできるわ。それに神人なんだから空も飛べるはず」
「そんなスピ……昔の歌のタイトルみたいに簡単に言われてもなぁ……」
「んー。空を飛ぶと言うより宙に浮いて移動するって感じかも。光子力を引き出すのと宙に浮かぶのくらいできないとこの先、生き残れないよ。家でもできるでしょ? やってみて!」
「え? 今やるのか?」
「いつやるの? 今でしょ!」
「いや、お前はイチイチ言うことが古いんよ」
この夜、遅くまで俺はルージュの地獄のようなしごきを受け続けたのだった。
きっとルージュも何か思うところがあったんだろうな。




