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第15話 弾幕多いぞ? 何やってんだ!

 翌朝、部屋から出ると、ちょうどセピアも出るところだったようで、顔を突き合わせることになった。


「おはよう」

「おはようございます」


 お互いが挨拶を交わすと、セピアは少しはにかんだ表情で言った。


「今日はいい天気ですね。良い一日になりそう」


 俺は柄にもなく彼女に微笑みかけながら「そうだね」と返した。


 そして俺たちはいつもの通り満員電車に揺られて出社して、地獄のような労働をこなした(完)


 え? 1日のエピソードを一行で終わらせるなって?

 そりゃ仕方のない話だ。

 労働に妥協は許されない。

 キャッキャウフフなんて世界はないのだ。


 まぁそんな訳で、俺とセピアは並んで帰り道を歩いていた。

 もうこれが普通になってんな。

 突然なことばかりで色々と着いて行けないし、まだまだ理解も追いついていないが、護ってもらえることには感謝せねばなるまい。


「それにしても、毎日一緒に帰るのって変に思われないかな?」

「え、大丈夫ですよ。会社の皆さんには、ちょいちょい細工してますから」


 えぇ……何か怖いんだが?

 平然と言ってのけたセピアに軽い戦慄を抱きつつ、俺と彼女は駅へと到着した。


 が!


 なんだか様子がおかしい。

 隣に目をやるとセピアも気づいたようで、周囲を見回している。


「先輩! 虚界ネインとつながります!」


 はい。また知らない単語ッスね。

 つっても想像はつくけどな。

 虚界ネイン(イコール)鬼たちの世界ってとこか?


「しっかし襲撃ってこんなに頻繁に起こるものなん? ちょっと多過ぎない?」

「鬼は宇宙のバグと呼ばれています。それに人間界……特に日本の黒の心臓(ブロークン)保有率はすごく高いんですよ? ヤツらにとってこの世界は餌場と同義です」


 それを聞いて納得してしまう俺。

 鬱屈した毎日に、閉塞感。

 それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()でもあるんだろう。

 だから俺は日本は好きだけど日本人は嫌いなんだよ。


「でも、セピアに会う前は襲われた事なんてなかったぞ?」

「その話は後でッ! 来ます!」


 隣では、セピアが既に執行官形態エクスキューティブモードになって銃口を空に向けている。

 それを見て俺は思う。

 せいぜい足手まといにならないようにしよう。

 そしてセピアの背後に回り込んだ。

 情けないが仕方がない。戦う術を持たないのだから。


 セピアの銃から霊的エネルギーが弾丸となって次々と打ち出される。

 要はあれが光子力ルメスなんだろう。

 それは羅刹たちの体を貫通して駅の構内を滅茶苦茶にする。

 銃の連射攻撃にもめげず、修羅しゅら羅刹らせつがセピアを取り囲んでいく。


 ――今回は数が多いッ!


「セピアッ! 敵が多すぎるッ! 俺にも力を寄越してくれッ!」


 流石に喰われるのだけは勘弁願いたい。

 神人になるってことは人間を辞めるってことだろうが不思議と嫌悪感はない。

 俺が人間嫌いってことも関係してるのかもな。

 あと黒の心臓(ブロークン)持ちだって言うし。


 俺が悲鳴に近い叫び声をあげると、剣を具現化して修羅しゅらと切り結んでいた彼女が俺の方へふわりと移動する。そして俺の体を掴んで天空に舞う。


 電線に気をつけながら空中で止まると、俺の体を離すセピア。


「大丈夫。結界内だから」


 俺が彼女の結界内で宙に浮かんで何とか態勢を安定させると、彼女は俺の目をまじまじと見つめてきた。ほんのり顔が紅潮しているように見える。


「覚悟はいいですね?」

「ああ、是非もない」


 俺の意志を確認すると、セピアは俺の頬を両手で包み込み何やらつぶやき始めた。


『我、今天に誓う。静謐せいひつに満ちた空間に清らかなる人間の魂を。神人しんじんたれ。偉大なるマザー御業みわざよ、御使いたる天使の加護を与えたまえ』


 言い終えると、セピアの顔が近づいて来る。


 っておい。


 俺が声を上げる前に、唇で口をふさがれてしまった。


「……完了です。これで先輩は私のしもべ


 そっと口を話しながら、セピアは目を細めてはにかんだ。

 これは照れる。大いに照れる!


「いいですか? 自分の中にあるイメージを膨らませてください。武器は既に先輩の中に眠っています。それを取り出すのです。黒の心臓(ブロークン)を持つ先輩ですが、光子力ルメスも多少は持ち合わせています。神人化しんじんかしたことで増加もしていますし。体内の光粒子ルークアロンを練り上げる感覚を掴んでください。それが光子力ルメスになります。後はそれを武器や拳にまとわせて攻撃するも良し、光子こうし弾として放出するも良しです」


 あんなことをされて俺の心臓はバクバクだ。

 いい歳こいてみっともないが、不意打ち過ぎんだろ。

 それに急にシリアスな口調に戻られても困るっての。


 つっても今はそんなことを言っていられる状況ではない。

 目の前の脅威を取り除かねばなるまい。

 セピアは俺を地上に降ろすと鬼たちへ向かって行ってしまった。


 セピアが言っていたことは、いまいちよく理解できないが、百聞は一見にしかずである。いや、百見ひゃっけん一行いっこうにしかずってか?


 まぁとにかく、まずやってみろ!ってヤツだな。

 俺は目を閉じて頭の中にある武器を想像した。

 もやもやとした感じが段々と形になっていくのが分かる。


 集中モードに入ったからか、周囲から聞こえていた爆音がかき消されていく。

 そして頭の中でイメージが固まると、俺は満を持してゆっくりと目を開いた。


 俺の胸の前辺りには、鈍い輝きを放つ一振りの剣が浮かんでいた。

 俺はその剣を手に取ると嬉々としてセピアの方に顔を向けた。


「セピアッ! 武器できた!」


 そこには、俺を放置して銃を全方位に向けてぶっぱな雄々(おお)しいセピアの姿があった。いや、確かに敵が多いから仕方ないけれども。


 俺は気を取り直して剣を構える。

 今の俺は躁状態だ。

 完全なるアッパーサイド。


「おしッ! 全員まとめてぶっ飛ばすッ!」


 俺は目についた羅刹らせつに向けて突撃した。

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