第1話 新しい朝が来た
こんばんは!波七海です。
新連載です。
よろしくお願い致します。
ゆるゆると読んでみてください。
ピピピピピピピピピピピ♪
耳の傍でスマホのアラームが鳴っている。
――新しい朝が来た
まったく『希望の朝だ』何て言ったのは、一体どこのどいつなんだろう?
俺は布団が半分ずり落ちたベッド上で気怠げに体を起こそうとした。
実際、超怠いし気分も最悪だ。
いつからだろうか、朝がこんなにも気怠いと思うようになったのは。
もうずっとそうだ。
すっきりした朝の目覚めなんて味わったことがない。
いや、あるにはあるが、それが遠い昔の出来事だってこたー分かってる。
今日は何か夢を見ていた気がする。
夢見が悪かったのもいつも以上に気分が悪い理由なんだろうな。
俺の心臓が黒ずんで、最早人間のそれではなくなってしまう夢だ。
誰かが俺の胸からその黒の心臓を抉り出すんだよ。
しかもどうやらそれは俺を殺すための行動ではない感じな訳よ。
ならば、その黒い心臓を欲している誰かがいるってことなのか。
一体誰がそんなもんを欲しがるんだろうな?
身を起こそうと再び足掻く。
とにかく起きることができない。
目が覚めても体を起こすのが難しいというべきか。
枕元のスマホの画面には何度も止めたであろうスヌーズの文字が表示されている。俺はようやくアラーム音を消した。
そしてベッド脇の小棚に置いてあるテレビのリモコンに手をのばす。
が、思うようにつかめない。
この脱力感……倦怠感……1日を通してこうなのだが、朝は特につらいのだ。
自分でもよく働けていると思う。
しかもあんな安月給のブラックな会社でな。
もう暗黒闘気とか使えるレベル。
朝早くから深夜まで馬車馬のように働いて働いてその先に何があるんだろうな。
小さな頃に親戚の家に預けられ、叔母から陰湿ないじめ、虐待を受けてきた。
どいつもこいつも見て見ぬ振り。
それでも俺は頑張った。
内弁慶外地蔵と言う言葉があるが、俺はその真逆だ。
家では大人しく、学校では快活だった。
つっても常に感じ続ける圧力に晒される日々。
本当は圧力なんてものは俺の幻想に過ぎない。
んなこたー理解してる。
アレだ。他人の意識が常にこちらに向いてて監視されてるって感じるんだよ。
そんな訳で精神の摩耗から限界が来るのは速かった。
高校に進学する頃には既に世の無常を想い、心に空虚な風が吹いてたよ。
どこか達観していたのかもな。
何とか騙し騙し生きて生きて今、虐待のトラウマが蘇り俺の精神はボロボロだ。
頼れるヤツなんていない。
人間共を信じる?
馬鹿も休み休み言え。
ん? 虐待のこと?
さっきも言ったが、そりゃ幼少期の頃の話だ。
叔母は俺が応えられないことを理解した上で、俺に仕事を課した。
そして執拗に問い質し、応えられない俺をいたぶるのだ。
ネチネチと精神的に追い詰めるのだ。
そして待っているのは暴力だった。
彼女の命令に応じられなかった場合に何をされるのか刷り込まれてしまった俺は、自分に振りかかる厄災が怖くて尚更何も応えられない。
体は固まって動けなくなり、頭は真っ白になって思考が停止して言葉さえ出てこなくなる程だ。
自意識過剰とかそう言うチャチなもんじゃあない。
常に監視されているような、責められ続けているような、問い詰められているようなそんな感覚。
行動することができない。
質問に答えることができない。
何もできないから虐待されたんじゃあない。
虐待されたから何もできなくなったんだ。
お陰で俺は人の顔色を窺う性格になっちまった。
選択ミスを過度に恐れる様に躾けられた俺は、とうとう何も選べなくなった。
俺の心臓――精神は一体どうなっちまったんだろうな?
今朝見た夢みたいに真っ黒になっちまったのかもな。
ようやくリモコンを掴むと、俺は電源ボタンを押す。
別に見たい番組がある訳ではない。
なんとなく。そうなんとなくだ。
俺にとって朝のテレビはBGM替わりに過ぎなかった。
「では次のニュースにいってみましょ~~~~~!」
液晶画面の中ではアイドル染みた女性キャスターがまるでマスコットのようにはしゃいでいる。つか、何がそんなに楽しいんだよ。
ニュースなんて退屈なもんだ。
この何もかもが偽りで出来ている日本でやってるニュースなんて、反体制を気取った政権批判か、はたまた自由が抑圧されている、権利が侵害されている、平和が脅かされている……云々、お笑い芸人が云々……、どこそこのスイーツが云々……、インスタ映えが云々……。
どいつもこいつも同じなのかもな。
ネットもテレビも人の目を気にして綺麗ごと――建前だけの美辞麗句を並べるばかりの人間共。
まぁ、とにかく何処も彼処もお気楽なもんだ。
こんなのだからテレビなんて――先程BGMと言ったな。
アレは嘘だ。
BGM以下の存在価値しかないと言ってもいい。
音楽に失礼だ。
そんな雑音の音程が不意に変わった。
「……と、すみません。ここで臨時ニュースです。……今朝……先ほどですが、宇宙空間にて大規模なバーストが発生したと宇宙開発庁から発表がありました」
何となく気になって画面に目をやると、そこには神妙な顔をしたキャスターが気難し気な表情でニュース原稿を読んでいるのが見えた。
報道センターに切り替わったのだろう。
「その発表ですが、要領を得ず、野党からは――」
なにやら不穏なことを言っているようだったが気にしない。
いや気にする余裕もない。
俺は体に鞭打って必死に体を起こし、ヨタヨタと台所に移動する。
背中の鈍痛とめまいが容赦なく襲ってくる。
精神が締め付けられるのが理解できる。
「動けん……会社行きたくねぇなぁ……」
そうポツリと言ってみるものの、俺が行かなきゃ会社は回らない。
今日も1日、心を殺して動く人形になるだけだ。
別に社会の歯車にはなりたくねぇ!なんてお笑い三等兵みたいな思想を持ってる訳じゃあない。そこんとこ、よろしくな。
「だが……行かねば……行く……行くのだ……」
そうぼやきつつ、冷蔵庫からキンキンに冷えたお茶を取り出し一気にあおる。
「ブッッッ! ゴホッゲホッ!」
そして俺は盛大にむせたのだった。
―――
とまぁこんな感じで運命の扉は開かれたって訳だ。
こんな俺がまさかあんな事態に巻き込まれるなんてな。
正直、起こっていることが想像を絶する程のレベルで未だに信じられん。
話が広がり過ぎてついていけないかも知れないが、聞いてやってくれよ。
令和4年2月某日 そこらの会社員 阿久 聖
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