結依⑤
泣いた事がバレないよう、お母さんがスナックに出勤するまで自分の部屋に籠っていた。
少しすると玄関から
「いってきまーす!!」
と声が聞こえた。いつもならリビングににいる時は玄関まで見送るか、自分の部屋から顔をだし見送るが、顔を出さずに大きな声で
「いってらっしゃーーーい!!!」
と叫んだ。
父親が交通事故で亡くなってから、母が車で出掛けることが怖かった。ただ、怖いと言っても困らせるだけだと分かっていたから母には伝えたことはない。いつもいつも心の中で(絶対に帰ってきます様に。事故がありませんように。)と願うだけ。
絶対に事故がありませんように、と祈りながらいつも顔を見て見送っていたが、今日初めて見送りをしなかった。
その日は明日がどうなるのかが怖くて朝まで眠れなかった。
目覚ましがなっても切り、布団に潜ったまま。
学校に行きたくない、行きたくない、行きたくない。そんなことを考えていると階段を上る足音が聞こえてきた。
ガチャ
「結依?早く起きないと学校遅刻するよ!なにやってるの?」
母が部屋に入ってきた。私は布団から少しだけ顔を出して
「なんか気持ち悪いから今日休む。。」
と言い、また布団に潜ると母が近づいてきた。
ドキドキドキドキ
怖い、怖い、怖い。
布団を少しめくられて、おでこに手を当てながら
「うーん、熱はないね。気持ち悪いだけ?」
と優しく声をかけられた。私は母の手を退けながら
「うん、気持ち悪いだけだから寝てればなおるよ。」
と言うと、母は笑顔でうなずきながら
「何かあったらすぐに電話してね。」
と言ってくれた。
小さい声で「ありがとう」と言いながら布団に潜るとまた涙が溢れてきた。
お母さんが優しくて、安心したのかいつの間にか寝ていて、気づいたら11時を回っていた。
キッチンに行くとお粥と小皿に梅干しが二つ入っていてラップがしてあった。
レンジでチンをしてお粥に梅干しをいれて食べている最中に家の電話がなった。
(絶対にお母さんだ)電話をとると、やはり母だった。
「どう?良くなった?」
母の声を聞くとまた涙がこぼれてきた。私は泣いていることがばれないようにいつもより元気な声で
「良くなってきたよ。お粥もありがとう。美味しくて全部食べれたからもう大丈夫。」
というと、母はホッとしたようで
「良かった良かった。とりあえず早めに今日は帰るし、夜のバイトは休むからね。結依はテレビでも見てごろごろしててね。」
と優しく声をかけてくれた。
「はーい。ちょっと眠いから、また寝てごろごろする。お母さん頑張ってね。」
「はーい。ありがとう、結依もゆっくりしてね。」
電話を切った後に洗面所に行き顔を洗った。
涙と鼻水を水で洗い流してタオルで拭いた。
ハッとして、自分の部屋に行き昨日の夜泣きすぎて使いまくったティッシュを集め、キッチンのゴミ箱の奥の奥の方へ押し込めた。
父が亡くなってからお母さんに泣いてる事を知られたくなくて、泣きたい時はいつもお風呂でこっそり泣いていた。ティッシュを使うと泣いたことがバレるので、お湯で洗い流していた。
よしっ!
泣いた事の証拠隠滅をして、残りの冷めたお粥を食べる。(おいしいな。)
お母さんの優しかった言葉を思いだしながら、またベッドに入り眠りについた。