芳美④
彼氏と付き合って三年。なかなか結婚の話が進まず喧嘩が多くなっていた。
彼の愛情が少なくなってきた様な気がして怖くなり、不安な心とは裏腹に喧嘩を何度も吹っ掛けてしまう。
「どうせ結婚する気はないんでしょ?私よりも元嫁と自分の子供が大事なんでしょ?本当の事言えば良いじゃない!私の事どうでもいいんでしょ?はっきり!言ってよ!!!!!!」
泣きながら大声をあげる私に対して彼はいつも冷静に話してくる。
「なんでいつもそうなるの。元嫁の事は嫌いだから離婚してるんでしょ。子供が大事なのは当たり前でしょ。自分の血を分けた子供だよ、自分も子供がいるのに何で気持ちが分からないの?
そもそも、結依ちゃんが俺に懐いてない時点で一緒に暮らせないよね?結婚は結依ちゃんと仲良くなってからの話だよ。」
彼の冷静さと正論に対して何も言えず苛立ちが止まらなくなる。
「そんなこと言われても、私のせいなの?結依のせいって言いたいの?そう言いながら、本当は私の事が嫌いなんじゃないの??なんなのーー!!!」
暴れる私を彼は抱き締め泣き止むまで落ち着かせてくれる。
泣きながら、ごめんなさいと謝る私の頭を彼は優しく撫でてくれる。
好きなのか依存なのかも分からないけれど彼が居なくなるのは耐えられない。
誰かが側にいてくれないと私は生きていけない。悠司の居なくなった穴は子供たちでは埋められない。
悠司が居なくなってから少しの事で不安になってしまう。言いたくないのに意地悪を言ってしまう。どうせ、やっぱり、私なんて、、卑屈な言葉を投げ掛けてしまう。そんな私を受け止めてくれるのは子供ではなく、大人の男性くらいだから。
結依は三年たった今も彼氏と一緒に出掛けたがらなかった。私、悠人、彼氏の三人で出掛け、彼氏が(結依ちゃんがお留守番で可哀想だから)とお土産を毎回買ってくれて結依に渡している。
彼氏に対して結依は笑顔でお礼を言うし、毎回少し会話を交わすが外食も嫌がり、心を開いてくれなかった。
学校や友達の前では明るいし彼氏に対しても表面上では明るく話すが、私の前だけでは気難しくなる。裏表が激しく、外面がいい。何を考えてるか分からない。
それでも大好きな私と悠司のかわいい娘。結依がOKを出してくれないと何も進められない。
やっぱり結婚はできないのかな、私は幸せになれないのかな。
悠司が天国から見て、他の男と私がくっつくのを邪魔しているのかな。
なんで悠司は私を置いて死んじゃったの?私、一人で生きていけないよ。悲しいし寂しいよ。子供たちがいなかったら私も死にたいよ。悠司の待つ天国に行きたいよ。。
楽しいし、上手く行っていると思ったり、やっぱり悠司がいないと無理だと思ったり、感情がジェットコースターの様に上がり下がりして自分の気持ちが何も分からなかった。
それでも子供たちの為に生きなくちゃ、頑張らなくちゃと思いながら過ごす毎日だった。
ある朝、
結依が起きて来なかった。
「結依?早く起きないと学校遅刻するよ!なにやってるの?」
そう声をかけると結依は布団から少しだけ顔を出して
「なんか気持ち悪いから今日休む。。」
と言い、また布団に潜ってしまった。
私は結依の枕元に行き、布団を少しめくりおでこに手を当てる。
「うーん、熱はないね。気持ち悪いだけ?」
と聞くと、結依は私の手を退けながら
「うん、気持ち悪いだけだから寝てればなおるよ。」
と笑顔で言った。
少し心配にはなったが、結依はしっかりしているし、、と思い「何かあったらすぐに電話してね。」と言ってお粥を作った後職場に向かった。
昼休みになり、結依に電話を架けた。
「どう?良くなった?」
そう訪ねると、元気な声で返事が返ってきた。
「良くなってきたよ。お粥もありがとう。美味しくて全部食べれたからもう大丈夫。」
「良かった良かった。とりあえず早めに今日は帰るし、夜のバイトは休むからね。結依はテレビでも見てごろごろしててね。」
「はーい。ちょっと眠いから、また寝てごろごろする。お母さん頑張ってね。」
「はーい。ありがとう、結依もゆっくりしてね。」
ホッとして電話を切った。とりあえず元気になって良かった。よし、午後も頑張って、夜はゆっくりしよう。
なんだか電話の結依が素直で可愛くて、午後の仕事がいつも以上に頑張れた。
やっぱり私は子供たちが一番なんだなぁと改めて思えた日だった。