結依①
一人の人間が亡くなる事により、
遺された家族の人生は一変する。
「結依ちゃん、パパ、死んじゃった。」
目を開くと目の前に母の顔があった。
薄暗い部屋、開いたドアから入り込むオレンジの光で母の表情がより恐ろしく見えたのを覚えている。
当時8才だった私にはその後の記憶は無く、場面は父の葬式となる。
お経を読んでいる私に父の弟の幸司おじさんが「結依ちゃん、お経読むの上手だね。」と誉めてくれて私は照れ臭くて続けてお経を読んだ。
田舎の大きな家だった為、葬儀場ではなく家での葬式。
沢山の大人達が悲しむ中、死とはなんなのか分からない子供達はファミコンで遊んでいた気がする。
当時、親子三世代で住んでいた。
祖父、祖母、父、母、私、弟の六人家族だ。
祖父、祖母は農業が本業で私は出荷前のネギの根っこに付いているカタツムリを集めたり、長芋を掘る深い穴が面白くて周りを走り回ったり、キャベツ畑で紋白蝶の卵を集めたりと休みの日や学校帰り、いつも二人の周りで遊んでいた。
揚羽蝶の卵をお婆さんが見つけてくれた時は凄く嬉しかった。
蝶々、カマキリ、カエル、ザリガニを卵から孵化させ成虫になるまで育て外に放つのが好きだった。
用水路でザリガニをとり、田んぼでカエルの卵をとり、原っぱでカマキリやバッタを捕まえた。
海の無い山が多い田舎に住んでいた為、祖父がスーパーでヤドカリやカニを買ってくれた事も嬉しくて覚えている。
玄関は虫かごと水槽だらけ。
生き物が好きだった私は幸せだった。楽しかった。
父とは朝に二人でジョギングをしていた。
途中の自動販売機でゼリーの入った瓶のリンゴジュースを毎回買って貰える事が楽しみだった。
また、寝るときは母は弟と、私は父と寝ていた。
父の体温は温かくて、寒い冬の日は両足を父の太股に挟んで貰いながら寝ていた。たまに熱すぎて父から離れようとしても、強く抱き締められて寝苦しかったことも覚えている。
当時の私の記憶の中では祖父母、父との記憶が強く、母の記憶は台所にいたなぁなど軽い記憶しかない。