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第六十六話 変化した世界


 状況を整理しよう。

 やるべきことを整理しよう。丸根マネージャーはノートパソコンと格闘していた。


 部屋に響くはカチカチと、クリック音———メールの整理中だ。

 舞い込んできた仕事の数は多い。

 ライブを開くかもしくは、ウチの地元(ホーム)でステージに立ってくれという要望———企業からのお誘いもだ。


「どうしてこうなった―――」


 っていうのはもう、わかっているんだけれどな、原因。

 頭を抱える。

 まいったな……報酬(ギャラ)が一定額以下のものは弾くしかない―――、心苦しいがな。

 あっ、更新したらまた増えてる仕事……ええい、やるしかない。

 慣れない作業だ、相談も必要か。

 ずっと頭下げて回る役だったのに、なんてことだ、突然———。

 処理が出来ない。




 死者を動かすウイルスが全世界に広がるにつれ、YAM7(やむなな)の事件のことも知れ渡った。



 政治に関係する施設は影響力が強かった。

 コンサート会場、医療機関、遊園地、駅、球技場、会社、学校公共の施設。

 狙われて被害にあった場所は多数あった。

 人の多い場所ならば連中、どこでも良かったのだろうか。


 ライブハウスが狙われた例も。

 YAM7(やむなな)の件以外に、確かにあった。

 実際のところ、被害にあってもただ被害者が増えるのみ、対抗するすべもなく終わっていった。

 YAM7(やむなな)以外は。


 今日の件でウイルス対策を講じる必要が生まれ、暴動者を、止めなければいけないという風潮が蔓延した。

 その意思もまた、ウイルスのように増加した。

 

 一定以上の音量の物音に反応する。

 視界は狭い、というよりも退化する。機能しない。


「暴動者には、無暗に近寄らず、肌を見せないように保護することを忘れない! 物音を立てずに離れてください」


 繰り返します。

 物音を立てたら意味がない。

 見えてはいないことに―――気を付けて。 


 多くのニュースで読み上げられる、対処法。

 耳にタコだが、どんな小さな子にもわかるように繰り返すべきだ。

 何せ、命にかかわるからね。

 流石に情報はもう国民に行き渡り―――情報源に、あの宇宙特殊部隊も一枚噛んでいるらしいことは、実感として十分にあった。

 

 そして。

 これを発見した、そして解決に利用した最初の組織(?)こそがYAM7(ヤムナナ)ということになっている。

 ガチャ、とスタジオのドアが開いた。


「丸根さん!」


 その女性はあのライブハウスで出会った音響室の職員、玉置さんだった。

 その健康状態は良好。

 恐慌を経験したけれど、ふたを開けてしまえば、無傷での脱出であった。

 彼女は今日も、引き攣った顔をしているが。


「私のところにも来てますよ!メールです」


 連絡があふれている。飽和している。

 どうやら玉置さんとボクは同じみたいに思われているらしい、らしく……いやおかしいよね?

 今回の事件現場の映像の一部が流れたことで、同業者に知れ渡ったらしいが。

 YAM7(やむなな)の、いわば巻き込みを食らった。

 注目度が上がった。

 予想だにしないタレコミが続いた。

 取材、取材、取材。


「困ります!YAM7(やむなな)のマネージャーに私からつないでくれ、頼んでくれ、っていうようなメールがいくらでも来て、止まりません―――あなたがちゃんと処理してくれないから」


「一日に何百通来てると思ってんだ!」


 頭を下げる気にならんのだよ、ボクは!


「そんな!どうするんですか」


「はッ……、だがね! だがねェ、ボクはやるよ!」


 丸根正之は魂を燃やす。

 これは業界に関わった自分の夢であった、夢であったはずだ。

 いつか大物バンドとともに脚光を浴びる。

 予定とは少し違ったが―――あまりにも違ったが。

 はじめは、マイナーなものでいい―――それが巨大になる瞬間に居合わせる。


 自分はいい―――ボクは、裏方でいい。

 だがYAM7(やむなな)を活かす。


『人気急上昇中のバンド、YAM7(やむなな)』———。


 ネットを中心に一部のコアなファンを抱えていた彼女たちは、もういない。

 室内のテレビに四人が映っている。

 番組に出演した時の映像だ。

 出演させられた、と真弓は呻いていたが。



 特にわかりやすいよギタリストは。

 緊張した表情心情、初めて座った椅子に縮こまっているだけでもまるわかりだ。

 視線に対し対処が出来ない性質なことは気づいている丸根マネである。


 

 『人類を救った英雄』

 というテロップが表示されている。

 現在のテレビ局からの扱いであり。

 世間からの評価でもある。


『アタシは気づいていました。この世界を救うには音楽しかねェんじゃねえかなあ、ということに』


『なるほど! それで、その『瞬間』にも歌っていたと! ライブ会場で』


『それしか出来ませんからねェ、歌えば何とかなるということに気づいていました。小学二年生の授業中に気づきました』


『なるほどぉ~おお』


 司会者が身を見開く、大仰にリアクションしている。

 観客席から拍手が飛んだ。

 夢呼は例のにやけ面でしゃべり続ける―――ボクの前にいる時よりも。 瞳の輝きは増している。


 ちぃ、マイクがあると相変わらずというか、言いやがるね。

 よく、言いやがるねボーカルさんは。

 ボクは苦笑いだよ……。

 ああ、あんまりそいつの話を聞かないほうがいいですよテレビ局のスタッフさん。

 マジで適当な奴なんで。


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