第六十五話 公園
YAM7の一行は、案外すぐに夢呼を見つけることが出来た。
欠けたピースを拾い上げた。
街中を当て所もなく彷徨った(と、思われる)ボーカルといえど、定位置、落ち着ける場所は限られているようで。
スタジオからほど近い公園で鳩と一緒にいた。
しゃがんでいる。
おいおい、そいつにエサをやるのは禁止だぜ。
「見えるかいな……やっているように」
夢呼はこちらを見ずに応えた。
さあ、では何をしているんでしょうかね?
果たして夢呼は、鳩の前に手を突き出してはいるが、持っているものはない。
パンくずの欠けらも落ちてなかった。
「イイ感じのが降りてこなくてさ―――で、この鳥がいたから今、インタビュー中だ」
どんな気持ちですか、空を飛ぶって。
手を差し出していただけとでもいうのか。
餌ももらえないのに律儀に答えてくれるだろうか、と私は思うがね。
「そうかよ―――で、彼はなんて?」
「彼かもしれないし彼女かもしれない」
そこ、気になるかよ……。
ヒヨコの選別は結構難しいとかなんとか、聞いたことはあるけれど。
海外では余裕で食っていける仕事らしい。
夢呼は黙って、空を見上げた。
飛行願望、想いを馳せているのだろうか。
質問の仕方が下手だったかねぇ、とボーカルは声をかけ続けた。
「へい彼女ォ……彼女か、彼? どこ住み? ケーブルやってるぅ? 音楽とか何聞いてんの? アタシ、夢呼。 最近聴いてるのがあってさァ――― YAM7ってンだけど、コレがまた」
バサバサと、鳩が羽ばたきながら、跳ねた。
夢呼のチャラさにうんざりするのは、人間に限らないらしい。
「……苦手らしいなアタシと話すのが」
鳩は、実家にいたころよりも、むしろたくさん生息しているように見えた。
あの自然あふれるだけの町はな。
鳩はと言えば、案外に徒歩移動が多い……翼がついていても、そういうものだろうか。
あまり飛ぼうと考えない。
そしてベンチ付近に向かっている。
スマートフォンをいじる、会社員らしき人がいるが見向きもしない、そんな日常。
私はなんかほほえましいよ。
どうも、この想いは伝わりはしなかったが、
私は命を落としたことがある。
落としそうになったことが。
そして落としただけにとどまらず、先があったとすれば鳩か、ペンギンあたり。
飛べない鳥に生まれ変わっていたかも。
……うーん、重い。
こういうところがモテない要素なんだろうなあ、と我ながら思うぜ。
「じゃあ行くかねぇ……でもなんで来た?」
スタジオに居ればよかったじゃないか、と夢呼。
仕事だよ、シーゴト。
「丸根マネがね、急に連絡が来たって」
愛花が自分の腰に手を当て、相も変わらずでかい胸を張った。
「うっはは」
またですか、と夢呼は笑う。
ちなみにいつも笑顔だがな。
「最近、目が回りそうよね」
七海も純粋に驚いているようだ。
基本的に、YAM7はこの女が振り回すのが常だったはずだが、カオス極まれりの近況。
ふと冷静に考えてみる。
忙しい―――まともに詩を考えることすらも、厳しくなってきたのではないか。
「また映ってたぜ、YAM7のライブ」
言っておく。
街から夢呼の声が聞こえることが、珍しくもなくなった。
思い返す。
健常者に埋め尽くされているライブ会場に向かって、腕を振り上げる。
手のひらを顔に向け、声を張り続ける、目をつぶった表情。
「そんなに面白いもんかね、アタシの顔が―――」
別嬪サンだしなんてぼそぼそと言いながら、馬鹿にしたようなボーカル。
否……日々のスタンダードだ、嬉しくてたまらないような表情。
自分がなぜ夢呼のことを得意になれないか。
最近気づいたが、やはり出会ったことなかった表情だからだろう。
道場……というか家の庭で、こんな表情で稽古する者は見たことがなかった。
なあ、お前どう思う?と夢呼が尋ねる。
真弓が一瞥すると、やつは鳩に向かって語りかけていた。
「歌うだけでいいのにね、アタシのことなんて、頑張って見なくてもさァ」
二十四時間他人を馬鹿にしているように見える、見えつつも。
この女の言葉には聞き入ってしまう自分がいた。
聞いて、何か言い返したい気もあったが。
「———あのう、ちょっといいですか」
女の声がして、振り返る。
《《振り返ってしまった》》YAM7の面々。
視線の先に居たのは女子三人組で、面識はない。
それは危険人物ではなかったはずだ―――例えば最近連絡を取っているウイルス対策関係の、物騒な雰囲気はかけらもない。
街に遊びに来た、単なる若者といった雰囲気。
彼女らの目が驚愕に見開かれた。
「やッ……!」
あっ、やべえ。
真弓は思った。