第四十話 白い集団
暴動者が一体、歩く速度を上げた。
白い宇宙服をまとったような男が、ターゲットらしい。
だが逆の展開になっていく……というのも、助走をしつつ低空のタックルをしかけたのは、宇宙服。
血をぽたぽた垂らしながらよろめく男……事態発生の当初より、服も血液で染まっている。
暴動者は腰に抱きつかれたカタチだ、バランスは崩れる。
頭が大げさなくらいにがくがく揺れている、関節ももろくなったかのようだ。
視界はとっくに白内障、見えない暴動者。
その歯の前には、白く分厚いマスクしかなく、首筋はおろか、全ての肌が見えない構造だ。
ここで、死んだ顔の上方から手が叩きつけられる。
もう一人、マスクを被った者、加勢に入ったのか。
ゴム手袋を外す要領で、白い皮が、死んだ男の頭部を覆った。
―――———
「なっ……あ……!?」
真弓は動揺した。
加勢に入ったと思ったが、一瞬だった。
何だ、あいつら……妙な連中がライブ会場にいる……誰かが着替えたのか?
いや、さっきまでいなかったはずだ。
とにかく、いつの間にか会場の各所に沸いている。
ライブ会場外から……入ってきたとしか。
わざわざ危険地帯に。
しかも暴動者が何もできないままに、前に手を出してふらついている。
顔面がふさがっているのだ。
詳細は、わかりにくい……室内の暗さと、遠くて邪魔が多くて見えないが。
バケツをかぶったような、人影が増えている。
敵を……つまりこれは、無力化している?
いや、そもそもあの服。
「《《対策》》を……」
対策をしているぞ、あの、あの連中……誰だか知らないが、いや、何人もいる。
あの連中、というか彼らというか。
出自不明、どこから来たのかもの不明な存在だが、あれなら打開は可能なのか、現状の……!
暴動者は歩くことはできるものの、ああやって頭部を覆ってしまえば嚙みつくことが出来ない……出来ることが、ない……ただふらついているだけの存在。
被りの構造は詳しく知らないが、あれでは何もできない……。
簡単に取れない様子だった。
そもそも、被せられたものを取るという、素振りがない……その発想すら、彼らは湧かないのだろうか。
「これだな」
夢呼が言った。
マイクはすでに離して、階下、ステージ下を見回している。
「どさくさにまぎれて、脱出だよ」
それしかない、と夢呼。
七海が凍り付いた。
それこそ身も凍る冬の海に入ったかのような、顔色となる。
「そっ……」
「どうやらあたし等を助けようとして、来たみたいだ」
夢呼は両手を伸ばし上げて観客席の遠くを見ている。
音を立ててはいないが、アピールか。あの連中に。
「そ……! うかもしれないけれど、待って夢呼、そんないきなりな……!」
その時、押し殺したような悲鳴が聞こえた。
振り返ると、手で口を覆っている女がいた。
「くそう!」
ステージに上がっていた暴動者が、避難民の男に迫る。
「どうしろってんだよ!」
揉み合いになり、ステージに二人が倒れた。