秘密基地を作りたいんだが?
『時が空いて、忘れられていないか心配だが、そんな些細なことは放っておこう』
『秘密基地…それは子どもの頃のロマンの一つだ』
『基地という言葉に秘密がついているからこそ、ロマンとなる』
『果たして、秘密の基地はできるのだろうか……ではまたどこかで…』
-1ヶ月後-
山に初めて入ってから何度かウィリース兄や父に何度か連れて行ってもらい、山の生態系を教えて貰ったり、小屋の近くを流れる小川で釣りをしたりして、少しだけ暖かい空気が通る春のような季節、ここでは土月だったかな、がやってきた。
そして、俺はと言うと誕生日プレゼントの木剣を頑張って背負いながら森を散策している。
そして山の深部からかなり手前までの範囲であれば自由に探索できるようになった。
もちろん、迂闊に奥に行かず、徐々に行動範囲を広げ、やっと小屋がギリギリ見えるくらいの場所まで来た。
何故、少しずつ広げたかは、地形把握もあるが一番は気性の荒い動物やここいらでは見かけないらしいが魔物が出てきた時に咄嗟に助けを呼べるようにと言う保険である。
今のところそう言った事態はないし、今のところ小さいリスと逃げ足の速いウサギにしか出会ったことがない。
だが、何があるか分からないのが自然である。
まあ、わざわざ山を探索する理由は男のロマンである秘密基地作りだ。
本当であれば友達と一緒に作るのが良いのだが、村の子供は全員歳が離れており、村に行けば子守を任される…いや、別にそれが嫌ではないのだが…と誰に言い訳してんだよ…。
ともあれ、適当に立地の良さそうで、かつ動物が住み着いていなさそうな所を探しているのだが、今のところ丁度いい木の洞は動物のフンや餌があったり、そこそこ高い木の上は大抵鳥が巣を作っていたりする。
いっそ洞窟などあれば良いが、洞窟のありそうな崖は山の深部近くで崩落とか危ないし、暗いから却下だな。
「どうしよう…」
「?ん、子ども?」
「へ?」
女性の声がしたので振り向くと、大きな斧を背負った女性と如何にも魔法使いのような見た目をした人が居た。
「こんな山の中に…僕、迷子なのかな?」
「ええと、こんにちは!ぼくは山の探索ちゅう!迷子じゃないよ!」
「ほぉ〜、ちゃんと親御さんの許しはもろたんか?」
魔法使いっぽい人が目をギラリと光らせてこちらを見て来た。
「う、うん、ちゃんと山の奥まで行かないってやくそく、したもん」
「ホンマかいな?ここら辺はちょいと奥なんちゃう?」
「え?」
「ダメですよ脅しちゃ、それにここはまだ序の口って言ったのはイオカ様がさっき言ったじゃないですか」
そう言って女性が割って入ってフォローしてくれる…というか様付けって、もしかしてなんかすごい人なのか?この魔法使いっぽい人?
「それはワイらみたいな大人にとっての話や、こないな子どもからしたら奥みたいなもんや」
「む…たしかに…ええっと、そういう事だからもう少し大きくなってからこの辺りの探索しようね」
む、なんて事だ、せっかく地道に進んでいたのにここで俺の冒険は終わってしまうのか…いや、まあ別に良いか。
「はーい」
「聞き分けのええ子やわ、しゃーないここは一つ帰りの護衛でもしたるから一緒に帰んで」
「それは良い考えですね!さ、帰りましょ…ええっと…」
「ぼくの名前は……」
「?なんや名前忘れたんか?親から貰った名前くらいは覚えなあかんで」
そうじゃないんだよなぁ…いや、まあ別に良いか、
「ぼくの名前はカティース=ヴェス=メデラ=ナディリス、カーティスでも、ヴェスでも、メデラでも、ナディリスでも好きに呼んで!」
「え?」「ん?」
「だから、ぼくの名前はカティース=ヴェス=メデラ=ナディリスなの!」
「いや、名前は分かったが、なんやその名前長すぎやろ」
「で、でも、お父さんと母上とウィス兄とラス兄が付けてくれた名前だから…」
「ああ!いや、な、中々良い名前やからな、驚いてしまっただけやがな、そうや!俺の名前はイオカ=オカイナって言ってなカーティスみたいな長い名前は羨ましいなぁ!な!そう思うやろ!」
と、別に気にしてないが、気にしてはいないが何故か子供が泣きそうになった時の大人みたいな慌てぶりで女性に同意を求めている…別に気にしてないが!
「そ、そうですね、私もハーネイと名前が短いですから羨ましいです」
「そーやろ、そーやろ、ほな帰ろっか!」
「うん!」
少し歩くと小屋が見え始めて来た、どうやら考え事をしていたせいで予定より早く奥の方に行ってしまったようだ。
あの時、戻されてなかったらここまで戻るのも大変だっただろう。
小屋に近づくとジャッチさんが小屋の外に置いてあるベンチで遅めの昼食をとっていた。
そして、こっちと目が合うと近寄って来た。
「なんかすごい人が居ると思ったらヴェスくんじゃないですか」
「あんみつさん!こんにちは!」
「はいっす、こんにちはっす!それと俺っちはあんみつじゃなくて、隠密っす」
「隠密のジャッチじゃないか、カーティスを知っているのか?」
「はいっす、ヴェスくんはクラレイさんのお子さんっす、竜狩りさん」
「クラレイの…なるほどな、あとその二つ名で呼ぶなと何度言ったらいい?」
「良いじゃないですか、別に悪名じゃないんですし」
「いや、だって恥ずかしいだろ、普通…まあ良い、知っているならお前に預けて良いか?」
「はいっす!しっかり家まで届けますっす!」
「ああ、じゃあまたなカーティス」
「またね、カーティスくん」
「またねー、イオカさん、ハーネイさん」
俺は二人が見えなくなるまで二人に手を振り続け、見えなくなって少ししてジャッチさんから声がかかる。
「にしても、ヴェスくん、すごい人と知り合えたっすね!」
「そうなの?やっぱり竜狩りっていうくらいだから、すごい人なの?」
「そりゃ、すごい人ですよ!なんせ、男爵家の長男でありながら狩人として生き、男爵領にやってきたワイバーン4体を様々な属性の魔法で倒し、国王から表彰されて今では数少ない4級狩人ですからね」
何というかすごいとしか言いようがないけど、何だろうか、こういう展開をどこかで…
「それに、俺っちが今食べてるこの携帯食料も彼のおかげで昔は味気ないというより味がなかったのが、今では下手な料理より美味いものになってますし、噂ですけど、彼のおかげで新しい料理が生まれたとか」
あ!分かった!漫画だ!
というか何で関西弁の喋りで気がつかなかったんだ、普通に方言かと思ったけど、今ので点と点が線で繋がった!
絶対あの人転生者じゃん!いや、それしかあり得ないわ!
だって二つ名が恥ずかしいとか絶対中二病っぽいからとか思ってるからじゃん!
うわー、何で気づかなかったんだよ…。
「どうしたんっすか?なんか顔がコロコロ変わってますが?」
「え?う、うん、だいじょうぶだよー、でもちょっと疲れちゃったから家に帰りたいなぁー」
「?それじゃあ、家に帰りますっか!」
「わーい」
とりあえず今日は疲れたしさっさと帰って秘密基地について案を練らなければ…………そういえば、あの人って転生者って事だったら、絶対なんか能力持ってそうだよなぁ…羨ましい…。
設定メモ
ヤマリス(リス)
主に山の麓から中腹にかけて生息するリス
主食は木のみで秋によく取れるドンゴリが好き
ダット(ウサギ)
草のある場所ならどこでも居るウサギ
主食は草だが薬草を主に食べる
名前の通り、動く音に敏感で脱兎の如く逃げる
それではまた次回もゆっくりお待ちください