暗躍と平穏
「…………」
これからやらなければならない事を頭に浮かべながら、とりあえずこの場にいるサーランには事情を話さねばと足を踏み出す。
しかし、その足には全く力が入らずに前のめりに倒れてしまう。
「カティ!」
「…サー……ラ…」
「よっと、マスターあとは俺たちが処理しておくから寝ておけ」
「シャ……ド…」
「全く、2日も徹夜するにはこれで最後だぜ」
「……あり……が………」
「おう……しっかり………めよ」
マスターが休んだのを確認して一応辺りに敵対者が居ないか影を通して確認する。
空を見れば、当然のように日が真上にあり、力技で創った夜が消えている。
そんな事を確認している間にサーランが近づいてきた。
「シャード!」
「サーラン、すまんが回復魔法できるか?マスターの背中の切り傷はまだ完全に治ってないんだ」
「な!なんでそんな体で「事情はあとだ…頼む」」
正座をして頭を地に着けて懇願する。
マスターの知識ではこれが人間にとって大事の時にする頼み方のようで、サーランは何か言いたそうだったが、少しするとマスターの服を捲って刺された場所に手を当てていた。
「”我は望む癒しの力 血肉を復元し正常化する癒しを“イウラム」
「…助かった、ありがとう」
痛々しく抉れ、少しでも刺激したら直ぐにでも出血しそうな怪我が、少しずつ元の肌に戻っていくのを確認して礼を言う。
「…それで、本当に何があったんだ…あの時カティは首をはねられて…」
「そう…だな、あれは俺がマスターに頼まれて剣を抜かれた瞬間に取り替えたダミーだ…と言ってもできるかどうかぶっつけ本番な所しかなかったがな」
と言いながらあの時の経緯を話し出す。
「マスターがシンから未来を見せられた時にマスターが聖騎士とやり合うのは厳しいと考えて逃げる事を選んだんだ。
正直言ってサーラン達が来る可能性もあったと俺は思ったが、いつ来るか分からなかったのとそれを妨害する奴がいるかも知れないことも考えての事だそうだ」
「だが、ただ影に潜るにも時間がかかるのと内側から閉じて攻撃を防ぐのは難しいと考えて、俺にマスターのダミーを作らせた。
まあ、王子の野郎に殺されかけたのといつまでも影のままの”影人形“で出るわけにもいかねぇから”完全な影人形“を作っていたが…マジで後数秒遅れていたら本当にマスターと俺は死んでいただろうな」
「とは言え首を斬ってから心臓にあった魔石を砕かれた時は偽装がばれると思ったんだがな…」
「そこは僕がフォローしたわけよ」
さらっと俺の影人形を出して話に割って入ってくるシン。
どう言う事だ?とサーランが質問すると嬉しそうに答える。
「簡単な話さ、僕は先に必ず起こる事を知っているからそれのための細工をしたわけ
と言っても完全な影人形に核である魔石が砕けても形を維持できるようにちょっとだけ力を加えただけ」
「って事はやっぱりお前マスターが殺されるのあの時より前に!」
「落ち着きなよ、言っただろ?避けられない未来なんだ。
それに僕だって教える訳にはいかないんだよ」
「……時間神か…」
サーランがそう呟くとシンは顔の前で両人差し指をクロスさせバツを作る。
「ブッブー、アレだけなら僕はいくらでも先に言うけど今回の件は僕がこうやって動ける為の契約をある神としたのでこれ以上は答えれませーん」
「ある神?」
「それも言えません……まあ、これは良いか…今回僕がカー君に寵愛を与えたのは幾つか訳があるけどその一つは六神達や他の神々の尻拭いって言う事だけ言うね。
あとは本人達に聞けば良いと思うよ!言わないと思うけどね!」
くすくすと笑いながらまた影の中に戻っていく。
言いたいことだけ言って、気になるような事ばかりだが俺には知る由もない。
「で、あの後の話も必要だよな」
「………ああ…頼む」
「わかった……影に隠れて誰も居なくなったのを確認した俺たちはとりあえず襲撃者の本拠地である教会にバレないように忍び込んで情報を集めた。
移動している間にマスターが念の為に買っておいた低級ポーションを傷口に振りかけて、かなり集中して風と影を使って慎重に情報を集めていた」
「2日もすればマスターが死んだ事や教会内でもこの件に関して不安や疑念を下っ端達が持っていたのもあって聖女と聖騎士の団長達が集まることがあったんだ。
そこで初めて聖女が悪魔に乗っ取られている事や聖女を人質に聖騎士を操っている事を知った…悪魔も力を蓄える為にワザと王子の野郎に低級の悪魔払いをさせてその魔力を食っていたようでそれこそ中位の中でもかなり上位に近い魔力になっているくらいには慎重な奴だったがな」
「…それなら、何故ずっとそうやって慎重に上位を狙わなかったんだ?時間を掛ければ…」
「そうだな…多分理由としてあげるなら1つはサーラン、お前の存在だな」
「……俺?」
「ああ、多分聖女の記憶の中にあるお前の力や経験を知って直接会えばバレると思ったんだろうな。
面会は断ることも出来るが、あのレオウルって奴と一緒に来たら面倒でしかないと考えていた所にマスターの存在…いやサーランが動揺して冷静に動く事を阻止したかったんだろうな。
実際、サーランはマスターの無念を晴らす為に今まで以上に勉強と鍛錬していたのは見ていた」
「…そうか…だが、無事だったなら報せぐらい欲しかったがな…」
「そうしたかったが見張りが四六時中あったのと知らせたらサーランがどう動くか分からなかったってマスターがぼやいていたな」
「…まあ、急に雰囲気が変われば何か気づかれる場合もあったか」
「そうだな、まあ幸いマスターの父上殿には監視がなかったから無事な事と巻き込まれないようにどうにか説得して帰ってもらったがな」
とあの時の光景が今でも思い出す。
影から出てきたマスターを父上殿が驚いた後に泣きながら抱きしめて1時間以上「よかった」とか「心配したんだぞ」とか色々言っていたのは影から見ていた俺たちも涙が出るくらい感動的なシーンだったし、その後に必ず無事に家に帰ってくる事とお土産を必ず買うことを条件に芝居を打って帰ってもらったのは大変だった。
「で後は悪魔の計画をぶち壊す為に奔走した訳。
ちなみに上位になる為には魔力は勿論だが、かなりの量の生贄が必要で生贄の量も多ければ多いほど、上位になった時の恩恵がデカい」
「…なるほどな、だからあんな大掛かりな魔法陣を」
「そう言うこと…で、マスターがそれを利用して”上位悪魔の生誕“をシンから聞いた魔石生成の魔法陣(安全マージン付き)ってやつに書き換えて、悪魔が魔法陣に魔力を加えようとした時に合わせて発動したわけだ」
「……その安全マージンってやつはなんだよ」
「さぁ?聞いた話じゃこれがないと範囲内の生物から一生分の魔力を吸い取って魔石を創るらしい」
それがなかったらあれ以上大きくなると考えると少し惜しい気もするが、そんな事をしてマスターが傷つくのは見たくない…。
「で、最後にどうやったら悪魔から無事に聖女を離せるかをマスターなりに考えて、とある物語を思い出したそうだ」
「物語……まさか、剣聖生誕か!」
「多分それだ、その物語で出てきた主人公が魔力で剣を作ったのを見て最初はそれで行こうと考えたが…まあ、マスターの知識や力じゃそんな物どれだけ素材があっても無理だった。
それでもその方向性で考えて考えて直前まで徹夜して考えた結果が鍛治の神に頼めば出来るのではって言うトンチンカンな答えだった……言っておくが俺だって聞かされてなかったんだぞ?」
呆れた顔で俺を見るサーランにそう答えて話を戻す。
正直言って俺だってあの時は気が気じゃなかった。
「だが、結果はどうだ?剣はできて見事悪魔も倒した……マジで物語の一節にでも出てくるような呆れた話だがな」
「…確かにな……それにしてもあの領域はすごかったな」
「ああ、アレはさっきの事を考えながら1日前に仕込んでおいたからなティウラが風で雲を運んでマスターが死んだ事になった時からずっとやっていたからティウラも今は疲れ果てて眠っているよ」
「なるほどな…あの領域の蓋がわりに雲で遮っていたのか」
「そう言うこと……おっと、そういえばサーラン」
「?どうした」
「ここの所俺たち全員揃って携帯食ばっかで美味いものが食べたくてな、マスターや他の奴が起きた時に用意して欲しいんだが…頼めるか?」
「別に良いが……待て、いつから携帯食生活を?」
「?そりゃあ死んだ事になってからずっとさ、協会の監視にサーラン達の同行をずっと探っていて食い物なんてろくに「それを早き言え!」お、おう」
驚いた表情から一変して怒りながら袋から通信魔道具を取り出し、レオウルに状況を話していた。
っと、ダメだな俺も少し眠っておかないと……サーランにマスターを運ばせれば良いか。
「すまんがサーラン…後は頼む……俺も少し休む…」
「え?………ああ、わかった…とりあえずカティは……もう出したのか…」
……ふぅ…とりあえずこれでマスターの平穏は……少しは…確保……できたk……。
「ふぅ…いやー疲れたなぁ…」
「さて、元勇者君がどう動くのか楽しみではあるけど」
「携帯食は飽きたからしばらくは美味しいものが食べたいなぁ」
「面白そうだから首突っ込んだけどこう苦労が多いのは嫌だなぁ」
「折角お気に入りの子を壊されるのは癪だけど……と」
「これ以上は君たちに聞かせられない独り言だから閉じるとするか……じゃあ」
次 も し に




