新しい住人は引き篭もり
ふと目が覚めて身体を起こす。
隣では父が寝ており、窓の外はまだ月も星も残っている。
身体は少し汗ばんでおり、喉は少し渇いていたので水を作ってコップに入れる。
その時、月明かりがあったからか手に何かあるのが見えた。
よく観察するとどこかで見た覚えのある模様が手の甲に描かれていた。
「(マスター!起きてるか!?)」
「え?…あ……ふぅ…」
ついシャードの念話に驚いて声が出てしまい、父が起きてないか振り返ったが、熟睡していたからか問題はなかった。
「(どうしたの?)」
「(どうしたって、影の中とマスターの魔力の中にしらねぇ何かが!)」
『(知らないとは酷いなぁ、これでも君の恩人…いや恩神でもある自覚あるんだよ?)』
「(はぁ?)」
「(…あー、やっぱりさっきの夢ってそういう)」
『(正解ご明察exactlyさっきの夢で出会った悪神、あ、名前はあるけど悪神って直で言っていいよ、流石に神の真名なんか聞いたら発狂しちゃうし、それと僕はここから直接姿は見せないからね)』
「(おいおい、神ってなんの冗談……じゃ、ねぇな)」
念の為父が起きていないか確認してベッドに潜り込んで影の中に入る。
着地してすぐに記憶から取り出したであろう本を見ているシャードとソファに一人で寝っ転がっているティウラ、そして見覚えのない扉。
扉には白いプレートが掛かっており、「悪神のお部屋」と綺麗な字で書かれていた。
「どうやったら神…しかも悪神に関われるんだよ…」
「それは俺も分かんないけど生まれた時からっぽい」
『そういう事、僕が藤堂…ではなかったカーティス君に寵愛と記憶を与えてなかったら無事にここまで来れなかっただろうね。
ちなみに言うけどカーティス君の体は元々カーティス君のものであり消されていた記憶を僕がバックロールしただけ、他の神は気付いていないし、もう気づいても遅いんだよねー』
「え?」「は?」
『うん?ああ、はいはい説明ね。
まあ、簡単だけどシャード君があのゴブリンの集落を消さなかったら良くて村の半壊、悪くて全壊プラスゴブリンロード一歩手前のゴブリンキングの完成してたんだよねー。
で、良くてもカーティス君は残念な事にそこで死んでしまうんだよ、でもね、ようやくおもし…じゃなかった良さげな素体が見つかったんだからそりゃあ大事にしないとねって事で僕が寵愛と色々手を回したわけ、シャード君に関してはちょろっと逃げ道を繋ぐ手伝いしただけだけどね』
…衝撃の事実が出てきすぎて最早パンクしているのが分かる。
俺死ぬ可能性大どころかほぼ確定だったんだ…。
って、なんか言い換えたのか分からないけど
「素体ってどう言う事だよ」
『そのままの意味…って言ってもピンとこなさそうだし、そうだなぁ、物語に出てくる悪神って大抵何かに取り憑いているって言うのは知ってるでしょ?』
「あー、確か…魔王とか悪神教団とかか?」
『そうそれ、魔物の王は取り付ける素体が多い分、力があれば振るうって言う野蛮ばかりで扱いづらいし、かと言って人種族に取り憑いたら大抵発狂か狂信、もしくは悪い事ばかり思いつく俗に言うクズ、欲望に飲まれやすい奴ばかりでね、僕の真意を汲み取らない馬鹿ばっかでさ、でもそういう素体がいるなら少しでも望みを掛けたいじゃん?』
「え、じゃあ、俺ヤバい?」
『ヤバくないヤバくない、まあ、珍しくというか初めてかな?カーティス君のように欲が薄くて憑き易く、尚且つ利害が一致している素体は』
「いやいや、やっぱりヤバいでしょ、勇者とかその他の神様とかに見つかったら悪・即・斬じゃん!?」
「いや、待てマスター…なあ悪神さんよ?その利害の一致ってどう言う事だ?」
『そのままの意味さ、こう見えても…まあ、見せないけど僕の信者って兎に角、生贄だの復活だのって馬鹿ばかりでさ?
僕は他の神々みたいに美味しい・綺麗・面白い供物が欲しい訳で、カーティス君はこの世界を見て回りたいって言う目標があるわけでこれが互いに利益であり、カーティス君が色々見て回れば僕もそれにあやかって美味しい食べ物、綺麗な場所、面白い光景が見れるわけだよ』
「……じゃあ損害ってのは?」
『簡単な話さ、僕ってどう見ても危険人物な訳でさっきカーティス君が上げた奴らに狙われる訳、カーティス君も分かってると思うけどこの世界で世界一周なんてカーティス君の前世の恐竜時代に世界を周るって言っているような危険な事だからこれが互いに損害。
故に利害の一致って事、お互いに死なない様に力を合わせようって事』
悪神の言葉に考える。
確かにこの世界は危険が一杯どころか安全な所が多くない。
街でも治安によっては宿に泊まっていても盗みがあるくらいだ。
広い国であれば賊に手が負えないなんて旅人の話は6回は聞いたことがあるくらいにはありふれている。
しかし、うーん
「うーー…」
『大丈夫大丈夫!直接じゃなくて間接的に手出すだろうし、あ!ちょっちヤバめだね、外の時間止められてる』
「は?」「はぁ?」「止まった時間の中でも風は動くのかい?」
『動くけど、それは動くモノがいるからだね……わぁお、うん、一旦影から出た方がいいねじゃないと、あ、2歩下がって』
「?」「あぶえねぇ!?」
シャードに突き飛ばされて吹っ飛んだ時に居た場所に剣が天井から刺さっていた。
……へ?
「………すげぇ意匠の凝った剣」
「突っ込むのはそこじゃねぇ!
っち!ダメだ!影人形が動きやしねぇ!」
『ダメダメ、今は止めてる奴が場を仕切ってるから君じゃあまだダメダメ〜』
「おい!シャード!!カティをどこにやった!!
悪神の気配が強くなったて事はお前も手先か!!」
「はあ!?待てなんでサーランの声が!?」
『「そりゃあ勇者だからでしょ」』
「はあ!?」「カティ?大丈夫なのか!?」
『なんだ気づいていたんだ』
「レイの勇者話を恥ずかしがって止めようとしていたからな…って言っても半信半疑で流石に跳躍した考えかと思ったけど」
『ああ、それ僕の思考だね、ごめんごめん』
「えぇ…寵愛ってそう言う効果もあるのかよ…まあ、ならやる事は一つか」
とりあえずこれ以上グサグサやられるとシャードの高級()な家具が壊されるのは可哀想だし、なんとなく出た方が良い……
「思考をこれ以上動かさないでくれ」
『おおっと、失敬。
なら、交渉は「良いよ、旅は道連れ、世は情け…だが、俺で良いのか?」』
『もちろん、君が一番まともだからね』
「…他のまともじゃない奴とは会いたくないな」
『僕もだよ』
手を外に出すと不思議な感触…いや、何も感じない。
抜くこともこれ以上出すこともできない。
すると手が何かに触れ動き出し引っ張り上げられる。
「カティ!大丈夫か!」
「…とりあえず夜なんだから静かにして………まあ、うん剣も納めて」
「………は?」
『よかったー、ほんとカー君は良い子だねぇ』
「何が良い子だ!おめえはもう少し反省しろ!」
「なるほど、これで合点が言ったってやつだ、わざわざお上が気にかけていたのはあんたが関わっていたのか」
『そそ、カー君には是非ともこの世界で生きる力を持って欲しいからね、出来る限り動いたって訳、あ、シャー君ベット貰うね』
「な!?」
「シャード諦めな?滅多に動かないお上を動かせる神なんて相手にするだけ面倒なんだからさ、ほら、今日はソファ貸してやるから」
「元から俺のだっ!あ!奪い返せねぇ!」
『残念でした〜今の君じゃ相手の仕切ってる領域は入れない動けないです〜、精進しろよ!おやすみちゃ〜ん』
「あ、クソふざけるな!ずっと騒いでやるからな!!」
「はぁ…ん、コレ掛けとくか」
[それではまたどこかで]
次回もゆっくりお待ちください。




