どこぞの落語じゃないんだが?
『やあ、さて今回はどこまで話したものか…』
『彼には様々な呼び名があるが、それは彼を構成する要素にすぎず、全て彼を指す言葉であるのだ』
『それは渾名であろうと本名であろうと…又は二つ名だろうと……おっと、そろそろ本編を』
『それでは、また…』
ー1年後ー
最近やっと首が安定してきた。
さて、次はハイハイだが…はぁ、この足で立てないとは…。
赤ん坊になってしばらくしたが魔法のまの字も見えないし、なんならたまに、母が読んでくれる本の文字も読めない。
まあ、言葉もまだ聞き取れないし仕方ないね。
どうにか聞き取ろうと努力したいがどう取りかかればいいのか分からない。
英語とかは最初から翻訳ができているから真面目に勉強すれば、すぐにけど、これはヒントが全くない難問を高速で聞かされてるだけなのである。
無理無理…と言いたいけどそろそろ聞こえないと魔法を使えなくて辛い。
と言うか赤ん坊だからか全く情緒とかのコントロールがしにくい。
これが本当に辛い。
トイ
(少々考えが拙くなっているようだ。
少し時間をとばそう)
はぁ、全くどうにかしなければ。
-1年後-
最近やっとハイハイも何なら歩こうと思えば3歩まで歩けるようになった。
さらに嬉しい事に言葉もようやく理解できるようになった…まあ、読めはしないが。
そういえば、歩けるようになってすぐ外の景色を見ようとして窓になんなら乗ってたら転けてしまい泣いた。
そんな事がありながら、今、俺は父におんぶされて村を見ている。
いやぁ…すごい長閑。
今は種まきが終わって何もないように見えるがそれこそ、日本の田舎みたいにそこら辺に農地がある。
お、あれが村の中心かな?
そこには建物が5…いや6軒ほどあって中でも最も大きい建物がおそらく村長的な人の家だろう…でなければ集会場か?
そんな事を考えていたら玄関前の西洋とかにありそうなテラス?にそこそこ立派な白い顎髭を伸ばしたお爺さんが座っていた。
「村長殿、失礼します」
「ぉお、クラレイではないか、ん?その赤ん坊は…」
「息子です」
「おお!そうかそうか、では待っておれ」
そう言うと椅子から立ち上がり建物の中に入って少しすると紙を挟んだ板を持って出てきた。
「それでその子の名は何だね?」
なるほど俺の名前か…あれ?まだ俺に名前ないの?あ、でも確かに家族で呼び名がバラバラだったような…。
「それがレイティは“カティース”が良いと言ってるのですが、長男であるシーラスは“メデラ”が良いと言っており、かと思えば次男であるウィリースは“ナディリス”が良いと言っており、俺も俺で“ヴェス”にしたいのですが…どうすれば良いか…」
「ほほほ、なるほど…お主はどれが良いと思うのだね?」
「…俺は功労者であるレイティの名が良いかと…」
「なるほどなるほど」
「ですが、そうすると子供達が…」
「ほほほ、確かに子供達は不平不満を言うであろうな」
「なので、ご相談なのですが」
え?いやいやいや、もうその時点で既に分かるよ?
でもね、そんな事やらないだろうし、まずだめでしょ?
「全ての案を入れた”カティースヴェスメデラナディリス“でお願いいたします」
「ほほほほ…なるほどなるほどなるほど、お主らしいな、良かろう。
じゃが、呼びにくいであろうからそれぞれを分けてこれでどうかな?」
そう言うと村長さんが紙に書いた名前を見せる。
【カティース=ヴェス=メデラ=ナディリス】…なんて書いているか分からないけど、今の流れと同じ文字?が並んでいることからどうやら何かしたようだ…ふぁk(不適切な表現は見ない方がいいだろうから覗いておこう)。
「ありがとうございます、これで家族も納得しそうです」
俺が納得してないぞ!おい!名前が長すぎて覚えにくいわ!
「ほほほ、なにこれからも家族円満にな」
くそ!ふざけんな!どうにか短くしろよ!!
……はぁ、まあ、いいや、逆にいえばさっきの見たが自分の名前のカティースだけはほんのり覚えた。
家に戻るといつもの揺かごに戻されて家族の会話を聞く。
でもあれだな、あんなよく分からん形でこの世界の文字かぁ…いや、まあ前々から見てはいたけど初めて意味がわかる文字がまさか自分の名前だったとはなぁ…なんか、いいなぁ…。
「それでカティースの名前は?」
「違うよ母さん、メデラだよ」
「いやいや、だから、ナディリスだよ」
「落ち着け落ち着け…オホン…」
一呼吸置いて、俺の名前を言うと3人とも驚きはしたものの、よろこんで長男が俺を抱き抱えてクルクルと回った時は少しヒヤヒヤしたが、まあ、とりあえず今日から俺はカティース=ヴェス=メデラ=ナディリスだ……どうにか短く名乗れないかなぁ…。
ちなみに父さんは父さんで
ー3ヵ月後ー
ふふふ…苦節多分2年…夜の発音特訓のおかげで、ようやくようやく言葉が話せるようになったぞ!
これほど素晴らしいことはない!
いやぁ、最初はなかなか発音が出来ないからあーあーってカラスみたいに泣いてたが、2月前にやっとコツを掴んでからは少し楽だったな!!
お!あれは父さん!よーし、聴いて驚けー!!
「おはよう、ヴェス」
「おあよー、おとーしゃん」
あ、やべぇ、かみまみ、噛んだ!
くそー、こんなはずでは…!
「!!!レイティ!今ヴェスが喋ったぞ!!」
あ、ちょ、高い高い高い!?
そんなに喜ぶことか!?いや、まあ、俺もさっき喜んでたけども!
ドタドタと母さんに兄達も近寄ってあれやこれやと色々喋らせようとして疲れたせいか朝飯は遅れるし昼飯まで疲れて寝ちゃったよ!
…まあ、でも……いいな…。
さて、明日からはどうにかして文字を読めるように頑張るとするか!
設定メモ
それぞれ出した名前の意味
母
子供達の名前に必ず「ー」と終わりに「ス」を入れた名前(特に意味なし)
父
ヴェリルシアスノイド(風を操る龍種)から取った名前
長男
物語に出てくる英雄『メディリアラス・ウィーリア』から取った名前でありメディリアラスのように優しい性格になるように考えた
次男
最近読んだ竜族が主人公の物語で出てきた竜族言語で力強いという意味の『ナディーリ』(近い発音)と男の竜族の名前に付いている『ス』を組み合わせて考えた
(呼ぶ時は少しだけ『ディ』の発音が難しい)
なお、村の中でこの名前と同じくらい長い名前はない。
ゆっくり次回をお楽しみに