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二度目の故郷離れ

『巣を旅立った彼は様々な人々と様々な結びつきを持つ』

『友人、恋人、好敵手……』

『どの結びつきも彼は経験するだろう…』

『さて彼らがどう彼に影響を与えるだろうか………それでは、またどこかで』

 明日から学校に入学するための試験をする為にオーラック村を離れる。

 前世でも故郷を離れたのは勉学の為に遠く離れた場所に行く事になったが、その時も今と同じように期待より不安や恐れが心の多くを占めている。


 自分なりに努力して来たがジェイン君のような便利で尚且つ身体的に優れた転生者などもこの大陸には何人も居るのはティウラから聞いている。


「………はぁ…」

「マスター明日から長旅なんだから窓を閉めて早く寝な、体調崩したら不安がもっと増えるぞ」

「……ああ、ありがとう…」

「心配するなって、マスターは所詮平民も平民、マスターが心配している奴らは全員揃いも揃って貴族か大きい商会の息子ばかりでクラスが違うんだ、そうそう関わらねぇよ。

 関わったところでジェインの奴みたく普通に接してやりゃあ良いって」

「…まあ、そうか…」

「何かあったらその時頭悩ませれば良いし、俺もティウラも、何ならマスターの兄貴達もいる。

 マスターの前世であっただろ?案ずるより産むが易し、杞憂に終わるって」

「………そうだな、ここで考えても時間の無駄か。

 んじゃあ、寝るとするよ…ありがとねシャード」

「おう、ぐっすり眠ってくれや、いつも通り余分な魔力を取っておくぞ?」

「うん……お願い…」

「ああ、おやすみだマスター」


 いつものように体から魔力が流れ出ていくのを感じながら、思考が、ゆっくり、おち、て………





 -翌日-


 外の少し冷たいような涼しいような風と隙間から陽の光が顔に当たるのを感じて目が覚める。

 いつも通りのルーティーン(意識して仙力を体に巡回させつつ背伸びをする)を済ませ、木剣27号を手に取って村で最後の朝練をする。


 使い古して自作した木剣も手持ちの部分がもう駄目になって来ている。

 どれだけ魔力で調整、強化しても物保ちが良くなるだけで壊れない物は出来なかった。

 ミレーネさんの言う通り所詮気休めに近いモノなのだから仕方ないと言えば仕方ない。


 予備も20本は作っているが王都に行けば良い材木が売っているだろうか?

 そんな事を考えつつ素振りしているといつものようにジェイン君がやって来た。


「おはようございます、カティースさん」

「おはようジェイン君、今日は早いね」

「はい、午前中はカウシの世話で碌に見送りできないんで能力使って来ました」

「そうか…まあ、少し寒いだろうからコレ羽織っときなよ」


 影から薄手の布を取り出して渡す。

 薄いがジェイン君の体格なら何度か折り畳んでから羽織って丁度良い感じになる。


「ありがとうございます……えっと、それで……コレ受け取ってください」

「……コレは…魔力が籠っているね、前に言ってた奴?」

「はい、イオカさんに教えてもらったウェイポイントです。

 俺がもう少し大きくなって魔力量も増えてそっちまで往復出来るくらいになったら行ってみたかったいんですが…すみませんワガママでしたよね」

「良いよこれくらい、荷物になならないし…何ならイオカさんに頼めば王都くらい連れてって貰えるんじゃないかな?」

「いえ、それじゃダメなんです。

 俺は自力で王都までの距離を往復するくらいにならないと………その……」

「目標か…確かにそれくらいの大きい目標があった方が修行にも身が入るってもんか、じゃあ頑張らないとな」

「はい!あ、すみません朝練の邪魔でしたよね」

「良いよ、それよりそろそろ帰らないとテーラさんに怒られるんじゃないかな?どうせ無断で来たんだろうし」

「うっ、そうですね、じゃあ試験頑張って下さい!それじゃ“アンカートラベラー”」

「ああ、ありがとう頑張るよ」


 瞬間目の前からジェイン君の姿は消えていった。

 もらったウェイポイントがかかった四角い積み木を影にしまって、軽くストレッチをしてポストを覗き郵便物を取って家に戻る。


 既に朝食の支度をしていた母上を手伝おうとしたら、今日から長旅なんだからと宥められた。

 とは言え何もしないのも気になるので影の中にある物の整理をする。

 昨日もやったが最終確認の意味もあるが、最初の頃と比べてだいぶ広く深くなって少し寛げる位には大きくなったが、寝袋に携帯食料、三人用のテントに予備の木剣が十数本と着替え……まだ入るがこんなものか…。


 そうこうしているうちに父上も起きて来て朝食が出てくる。

 今日はいつもより量が多く、お腹に溜まりやすいものばかりだ。


「予定通り朝食を食べ終わったらキュガーロまでの馬車に乗るぞ」

「うん、それでキュガーロから王都行きの馬車に乗るんだよね?」

「ああ、今年も晴天が続けば試験日の1週間前くらいには着くはずだが、その辺りはどうなんだ?」

「うーん、中精霊が言うには雨の心配は無いって聞いてるけど、王都より向こうから雨雲が来てるって聞いたよ」

「そうか、念の為に「雨具もちゃんと入ってるよ」ならいい」


 さっき確認したし、穴も開いてないから問題ない。

 こちらでは雨具は雨合羽が広く普及していて、コレも転生者が既存の雨合羽に撥水加工の技術を導入したそうだ。


 とは言え一般庶民からしたらそれも安く無い為長く使えるように使う時も非常時とかに近い。

 何せ雨の日に外へ出て畑行くとか前世でも死亡するケースも多いから大体の人が家で過ごすからだ。


 朝食を食べきり、乗り合い馬車の停止場がある村の狩り人(ハンター)組合に向かう。









 村の中を歩いていくと行き交う人に「頑張ってこいよ」や「何かあったらすぐに帰って来ても良いのよ」など色々と見送りの言葉をもらう。

 村の子どもたちからも元気をもらった。

 なんというか、極々普通の村で当たり前のような景色も暫く観れなくなると思うと少し心がキュっとなる。


 ラス兄さん達はたまに帰って来ていたが、それでもここから学校のある王都まではかなりの距離と旅費が掛かる。

 学費も前世基準で考えれば安い方だが、仕送りもそこまで多く無いから自分の小遣いは自分で稼がないとままならない。

 …まあ、あまりお金の心配をして短期学習の方に行くなんて言った時はかなり強めの拳骨を食らって「子どもが心配する事じゃ無い」なんて言われたから甘えれるところは甘えておく。


 そうこうしていると乗り合い馬車がやってきた。

 中は4人…その中に自分と同じ歳っぽい子どもが2人が居た。

 多分同じ目的だろうしとりあえず手短に挨拶をして詰める。


 護衛の狩り人もミレーネさん達が買って出てくれた。

 妹さんは大丈夫か聞くと


「あの子は今は修道院で休んでいるわ…早く一緒に狩りできる事を祈っているけど…」


 と、少し声を落として答えてその後はいつも通りの明るい声と共にパーティメンバーの元に戻っていった。

 その後、父上も乗り込んで他に乗客も来ず馬車がゆっくりと動き出す。



 村の門を潜って小さくなっていく村を見る。

 寂しさはあるが、それと同時に少しだけわくわくする。

 コレから向かうキュガーロはこの辺りの村の中でもかなり大きい部類で稀に狩り人組合でも見かける森人や竜人などの自分とは異なる種族が多いと狩り人組合で小銭稼ぎしていた時に聞いたからだ。


 そんなわくわくを他所に時たま出る好戦的な野生動物や魔物を狩り人達が倒し、あっという間に日が傾き夕方になる。

 持ってきていたテントを影から引っ張り出して組み立てた後に近場の木を拾っていると乗客の1人…自分と同じ歳の男子が少し興奮気味に話しかけてきた。


「さっきテント出したのって、もしかして“アイテムボックス”ってやつですか!?」

「え?いや、違うけど…」

「でもでも、あんな魔法みたいに出したなんて!あ、もしかして君もゆ「レイ、五月蝿い」っっ!いた〜い」


 後ろからもう1人の男子が興奮していた男子の頭を叩いて止める。

 …座っていたからあまり分からなかったが結構身長あるな……。


「ゴメンねレイが急に話しかけてきて」

「ううん、問題ないよ」

「頭叩かないでよ!馬鹿になるじゃん!」

「はいはいそうだね」

「あー流すなんて酷い!」

「それよりも自己紹介が先でしょ、私はサーラン」

「う〜、僕はレイン=ミュルン、レイで良いよ」

「サーランにレイだね、僕はカティース=ヴェス=メデラ=ナディリス、カティースでもヴェスでもメデラでもナディリスでも良いよ」

「………え、今の名前?」

「カティース、ヴェス……???」

「あはは、まあ、そうなるよねでもこの名前は家族全員で付けてくれたからどれも大切なんだ」


 そういうとサーランは少し納得した顔をして


「……じゃあカティと呼ぶよ、よろしく」

「じゃあじゃあ僕も僕も!」

「うん、よろしくサーラン、レイ」


 そうして3人で自己紹介をした後、雑談を交えながら枝を拾っていった。

 なお、予想通り歳は同じで同じ学校の試験に行くようですぐに意気投合して、その後も夕食は一緒に食べた。

学費について

学校自体王国が運営する国営施設であり、学費も階級によって負担の割合が変わる。

現国王の方針で『学生は学ぶ事が仕事であり、それを疎かにする様な事がない様国が動かねば』と学校事業に力を入れている事もあって他国より卒業後の人材としての質が良い。



次回もゆっくりお待ちください

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