シャードの成長とマイペース
『人の身に余る力は制御し難い』
『それ故に彼は……っと、それよりも』
『ようやく始まりが終わりを迎えそうですね』
『され、そろそろこの辺りで…またどこかでお会いしましょう』
「て〜な感じで、ゴブリンどもをバッタバッタと喰ったわけよ」
「へー……て事はもう元気満タンなんだ」
「満タンも満タンよ〜、なんなら以前より調子良くてコッチ来て良かったぜ〜」
そう言ってその場でクルクルと回るシャード。
適当に聞き流しながら鍛錬をしていたが、昨日の嫌な予感は杞憂だったか…
「ん?それじゃあ僕の影の中に入る容量も増えたって事?」
そう聞くとピタッとシャードの動きが止まり、ゆっくりと座り始める。
「…それなんだがなマスター、俺もこっちに来て浮かれてたから言い忘れてたがよぉ…」
「?どうしたんだ?何か言い忘れていたんだったら早く言っておけよ?」
少し気まずそうに目を逸らしたりうんうんと悩んで、観念したとでも言わんばかりにそこら辺の棒で地面に絵を描く…いや、これは図か?
「まずこれがマスターの魔力量で影の容量でもあるとする」
そう言って棒で小さい円を指す。
おおよそ手で作れるほどの円だが、それを覆うように大きな円をさらに描き出す。
「でこれが俺の魔力量、昨日までだと精々向こう側の木くらいが射程だな」
「結構遠くまで届くんだな…俺って確か半径2mくらいだったっけ?」
「ああ、そうだ…それで今の俺だったら本気でやればこの村全土にある影を操れる」
「え」
唐突にそして突拍子もない単位で驚いた。
あそこにある木までなんて精々6、7m弱だと言うのに急に村全土って、何を言っているのかさっぱりわからない。
「と言っても俺自体元々こんなに力があったわけじゃない、昨日のゴブリンもそこまで力を手に入れられる程の群れじゃ無かったはずだ」
「……それって」
「ああ、勿論だが父上殿には言っておいたが、俺もなんでこんなに魔力が増えたのかさっぱりだ」
「………」
シャード自体こっちに来たのは初めてで、ただの思い過ごしという可能性もなくは無いが、それでも村全土…。
村の大きさは至って普通だがそれでも広さはテーマパークの1角ほどはあると言ってもいい。
「まあ、それは置いておいて」
「置くのか…」
「これ自体は考えた所で直ぐに分かるものではないし、それについては父上殿や助け出した奴らが考える事だろ?
今は話を戻しておいた方が良いしな」
「そういうもんかなぁ」
「そういうものだって、それでこの俺の持つ魔力量…まあ影の容量なんだがこれは普通はマスターに直接使用する事はできないんだ」
「へー……まあ、そんなにあっても困るよ…」
「そりゃそうだ、だがなここからがマスターにとっても、俺にとっても良い点がいくつかある」
そう言うと大きく描いた円の中に小さい円をいくつか描いていく。
「前までは俺は余剰分、つまりマスターが鍛錬で作った魔力を少し分けてもらっていたわけだが、これからは俺の魔力量が上回ったことでマスターが作った魔力を全部俺が保存できるわけだ!」
「………?それってつまり作り置きしておいてくれって事?」
「違う違う!そりゃまあ、食える量は増えたが俺はそんなに魔力食べたくねぇって言うか料理が食えるんだったら最低限で良い!!」
「ええ…」
「じゃなくて、おほんっ、いいかマスター貯蓄できると言う事はだ、マスターがこれから先、魔法やら魔術を練習したりそれこそ実践で使ったりするときに貯めておいた魔力から引き出すことができるんだ」
「へーじゃあ貯金ならぬ貯魔…なんか言いにくいな」
「まあ、呼び名はどうでも良いとして注意するのは一つある」
「注意すること?」
そう言うと水筒とコップを手にして話し出す。
「例えば、この水筒が俺の魔力容量、言わばマスターが貯めておいた魔力が水だ。
それをこのコップ…まあマスターの魔力容量にマスターが使いたい魔法や魔術に必要な魔力を注ぐ」
「…ああ、なるほど」
「察しが良くて助かるぜ、マスターが考えている通り、マスターの容量を越えた魔力は入らねぇ、たまにマスターの父上殿が目にしている新聞があるだろ?結構前にあった魔力暴走事件、あれがいい例だな」
「確か最上位魔法を使おうとして制御に失敗、屋敷周辺を水浸しにしたんだったか?」
「そうそれだ、あれは制御が難しいが魔法や魔術の制御と言うのは使用者の魔力容量によって難易度が変わる……と言うか俺がそれを実感した。
こっちにきた時なんか今までより影が動かせないし、動かそうとすると弾かれる……まあ今じゃ殆ど無いがな」
「そう言うもんなんだ…てっきり魔力さえあればなんでも出来る物だと思ってたよ」
「まあ、そう言うことだから言っておくが、身の丈にあった魔力の使い方をしないと実践で一か八かなんてしてたら上達しないからな、普通は」
「はーい」
「っと、マスターの鍛錬の邪魔になったが、これからは余分の出た魔力はコッチで保存しておくからバンバン鍛錬してくれよな、まあ容量はマスターが1か月頑張って生成しても余裕で保存できるから遠慮せず頑張れよ!」
「なんか挑発っぽいけど……まあいいか」
「真剣な話終わった?」
「あ、中精霊さん」
「おう、坊は鍛錬御苦労御苦労、そんな坊に少し相談したいことがあってね」
「相談事?」
なんだろうか、イチイゴの量でも増やしたいのかな?いやそれなら俺より母上か父にでも言うことだろうし…なんだろう?
「コレがまああたしの上、つまるところ大精霊様が近々お見えになるって話でな「ええ!?」そうだろうそうだろう驚くのも無理ねぇ」
「大精霊様って何があったらそうな……まさか」
「そのまさかさ、あたしがちょーっとイチイゴを献上したら『美味しいわね、丁度いいわ貴方の仕事しているところ見に行きますので管理者によろしく言っておいてください』なんてもんだから大急ぎでこっちまで戻ってきたわけだ」
「大変じゃん!お父さん呼びに行かないと!いつ来るの!?」
「い「ここがレーちゃんの職場ですか、長閑でいいですねぇ」……」
「…………」
中精霊さんが何か言い終わる前に、それは居た…いや来たのか?
明らかに成人した女性にしか見えないが、若干…いや明らかに浮いており、魔力が尋常では無いほどに大きい…。
普段であれば意識しないと見えない魔力がはっきりと見えるくらいには大きい。
「あ、貴方が管理者ね、レーちゃんがお世話になります、いや?お世話するんだったかしらね?とりあえず私はレーちゃんの上司の大精霊です!」
「え、えっと…」
とりあえず言えることはとんでもなくマイペースな精霊だと言うことが分かった。
魔力暴走について
魔力を使用した者が一度は体験するとまで言われている失敗であり、自身の魔力容量の限界を見るためにする者も居る。
なお、それで死傷者(使用者を含む)が出る事もある。
そのため近年では上位の魔法や魔術を修得する時は魔法術組合から許可を得るようにするための取り組みが行われている。
次回もゆっくりお待ちください。