不穏な予感と念の為
『彼にとって2度目のはじまり』
『動き出し、そして…っと』
『これから先は今から始まるんでしたね…』
『では、またどこかで』
少し駆け足で家まで戻る。
とにかく父にこの事を話してどうにかして貰わないと。
そんなこんなで家まで着き、扉を上げて父を呼ぶが、
「あら?どうしたのカーティス」
「お父さんは?」
「お父さん?お父さんなら今日は村の方に行ったわよ?それがどうしたの?」
「え、えっとね、お父さんの畑に精霊がいた!!」
「あらあら、それは大変…!」
俺の後ろを見て驚いた顔をする母上を見て、振り返ると中精霊がいた……まあ、そりゃ驚く。
そうそうお目にかかれないのが目の前にいるのだから。
「あんたがこの子の親かい?私は風の中精霊、あんたの所のイチイゴを小精霊らが無断で食べたのとあたしも知らずとは言え食べちまったからその礼として、あんたの所の畑…だったか?それを小精霊から守るのでどうだい?」
「……そ、そうねぇ…でも精霊が食べると言っても微々たるものですし、あれは蓄えのジャムの原材料として使ってるだけだからそこまで量は要らないのよ、だから」
「いやいや、もしあたしが無断でしかもそんなことで納得してしまったらそれこそ今まで遠慮していた子達も来ちゃうから、ここは一つ!」
「そうねぇ…」
母上も困り果てた顔で悩んでいる。
まあ、精霊自体珍しく小精霊より上となると畏まるし、なんならそうなるよなぁ…。
「…うー、ええい!分かった!白状するよ!あたしゃあんたのとこのイチイゴの虜になっちまったのさ!あんなに甘く美味しいイチイゴ早々自生してなかったから手放すのは惜しい、だけどそれが人の手の入ったものって事ならあたしゃ無断で食べた事になる!
そうなりゃ、そっちが良くてもあたしがあたしを許せねぇのさ!!
だから、この通り!迷惑どころか小精霊くらいだったら話してどうにかできるからさ!その対価って事で食べさしてくれ!!」
「そうねぇ…そういう事ならお願いしちゃおうかしら?」
「!!!本当かい!?いやっほう!これで大妖精からの仕事の代わりになる!!」
ってそっちが本命かい…。
「よ、よかったね?」
「ああ、そうだ、坊もありがとね、じゃああたしゃ準備があるから、明日からよろしく!!!」
「う、うn…」
返事を返す間もなく風になって扉を勢いよく開けて出て行った。
何というか小精霊と変わらなそうな思考だが、まあ、本人?曰く成り立てだから残ってんだろう……。
-数日後-
最近父が帰らない事が多くなってきた。
詳しいことは知らないが中精霊がやってきた日から村の方へ行っていたり、山に行かないように注意されたりと…。
どう考えても山に何か潜んで居るのでは?
そう言えば前にその関連でイオカさんが来ていたが、また同じことなのだろうか?
「なんなんだろうなぁ…」
「ん…むぐ……何がだい?」
畑近くでのんびりと横になって居るとイチイゴの汁を口に付けた中精霊が独り言を聞いて質問する。
とりあえず起き上がってポケットに入っていたハンカチで口を拭いてから応える。
「…よしっと……まあ…山で何が起きてんだろうなぁって、まあ、知ったところで何もできないけど…」
「山ねぇ…あれかい?裏山に小規模な魔物の巣ができたっていう」
「ま、魔物の巣!?」
「何驚いてんだい、よくあることだろうに」
「いやまあそうだけど!それって」
「放っておいたらこっちまで降りてくるだろうさ」
そう言ってそんな事よりイチイゴと言わんばかりにまた供えられたイチイゴを食べ始める。
何もできないとは言え、聞いてしまったら何かしたいというのが心情………。
「何かできないかなぁ…」
「……しゃーなし、見てきますよ」
「…シャード?」
「まあ、黙ってましたがマスターの父上殿には聞いてましたし、そろそろ小物でも探しに裏山まで行ってきますよ」
そう言ってズブズブ…っと影に沈んでいく。
日もそろそろ落ちてくる頃合い、シャードが一番自由に動ける時間帯でもある…。
「あんまり無理しないでね?まだ本調子じゃないんでしょ?」
「まー…偵察ですよ、ついでにつまみ食いするだけ、龍の尾なんか踏みませんよー」
と言って完全に沈んでいった……なんか不安だよなぁ…
「…あー美味しい〜、あんまり心配しない方が良いさね、あんなんでも悪魔だ、死ぬこたぁないさね」
「…それなら良いんだけど…」
本当に無事に帰ってきてくれたらそれで良いんだけど…
心配だが、もう暗くなる…後ろ髪を引かれながら家まで走って帰る。