意思疎通できていてもヤバいんだが?
『精霊にとって位は力の大きさの指標だ』
『そして位が大きければ大きいほど他の精霊のために働く』
『それは人の作った社会と同じものに近い……ではまたどこかで』
-5ヶ月後-
今日もいつも通りの時間に起き、軽く準備運動をして木剣を握りしめ素振りをする。
子供の身体と言っても大人だった時と比べて身体も体力も軽く超えている。
前世ではあまり関わりのなかった農業に加え、村や山までの道は自転車はもちろん馬車もそう易々とない、そして完全とまでは行かない舗装なので足腰もかなり鍛えられる。
そろそろ夏…光火月が近いからか早朝でも厚着は避けるほどの暖かさ。
日課の素振りと魔力の安定化をし終えて郵便受けを見ると5通入っていた……なんか分厚…あ、ラス兄さんとウィス兄さんから来てる!
手紙を手に取って少し駆け足で家に入ると母上が朝食の支度をしていた。
「手紙来てた!」
「朝から鍛錬お疲れ様、あらラスとウィスからだわ。
カーティスお父さんを起こして来て頂戴?」
「わかった!」
他の手紙を机に置いて寝室に向かう。
寝室に入ると父は既に起きており、いつも通り身支度をしている最中だった。
服の隙間から見えたが今年で40と言うのに未だに筋肉バッキバキなのはかなり尊敬できるポイントでもある。
「ん、どうしたヴェス」
「!ラス兄さんとウィス兄さんから手紙来た!」
「そうか、なら一緒に行くか…少し待っててくれ」
「うん!」
返事をして部屋の出入り口にもたれる。
父は部屋の外に向かって1分ほど拝んでから立ち上がり、俺の頭を撫でて一緒に朝食に向かう。
朝食はいつものスープにもう慣れたが硬いパン。
ふやかして食べながら、手紙の方を気にしてしまい、少しコップを傾けそうになる。
ちょっと急いで食べて父に手紙を読んでもらう。
「じゃあ読むぞ、
父さん母さんメデラへ
無事今年も進級して2等生になりました。
進級前にあったクランの新人試合では最後の8人にまで残れました。
それもあって今ではクランで3等生と混ざって鍛錬でき、日々楽しくやっています。
それと火月にはクランの試合に出場できそうなので、いい結果を次に出す手紙に書きます。
あとメデラへの誕生日の贈り物を同封しました。
前の手紙にも書いたけどやっぱりどうしても贈りたかったので無理のない範囲でメデラが好きそうなものを選んだから大切に使ってくれ。
これからますます暑くなってくるけど身体に気をつけてください。
シーラスより」
「贈り物?」
手紙についていた手より大きい箱を開けると、箱ピッタリの大きさの絵本?が入っていた。
題名には『コーリアスの竜』と書かれており大きな体の赤い竜が描かれ、箱の横にあった紙には「今、王都で流行っている読み物でウィスからメデラが本が好きと言うのを聞いた」
とだけ書かれていた。
「本か…学生のくせにそこそこ高いものを無理して買ったか?無茶してないといいが…」
「いいじゃないの弟思いで、カーティス?ラスからの贈り物ちゃんと大切にするのよ?」
「うん!!」
元気良く返事をして箱に再び戻す。
とても内容が気になるがまだウィス兄さんの手紙が残っているから我慢する。
それを察してくれたのか父はウィス兄さんの手紙を読み始める。
「母さん父さんナディリスへ
半年ほど経ったけど、ラス兄さんが手紙で書いていた家に帰りたくなる思いも少し感じるけど、学校では日々楽しい出来事の連続です。
学校のある王都の大きな図書館で色々な本を読んでいると、そこの職員さんと仲良くなって学校が終わった少しの間だけ資料整理の手伝いなどをして少しだけどお金を稼げています。
クランの方はラス兄さんと同じクランに行こうかとも悩んだけど友達に誘われた魔法を主とするクランに入りました。
まだまだ慌ただしい毎日だけど、母さんたちも身体に気をつけてください。
追伸:ラス兄さんの事だから本の値段とかあまり書かないだろうから少し濁して書くけど、テリアと同じくらいだよ。
ウィリースより」
テリア?…テリア=シリウスのことかな?
まあ、どちらにせよ高いのか安いのか分からないが、値段なんてどうだっていい絶対に大切に読むぞ!
「ふふ、良かったじゃないの杞憂で」
「…うーむ、だがなぁ…」
「あなたが学生の時でもそれくらいの買い物だったら問題なかったでしょ?私たちの子供なんだから問題ないわよ」
「………それもそうだな…さて、後で返事を書くにして………少し席を外す」
少し緩くなった空気が少しだけ固くなった…。
他の届いていた手紙のうちの1通だけ取って寝室へと向かう。
その顔は少しだけ強張っているように見えた。
「そう言えば今日はどこで遊ぶの?」
「今日は畑で見回り!」
「ふふ、じゃあ頑張って来てね、お昼には1回帰ってくるのよ?」
「はーい、行ってきまーす」
朝食を片付けてから家を出る。
畑は家から少し離れているが、その分広いので子供の身体では全部周りきるには1日くらいかかる。
が、もちろんゆっくり確認するためだから1日かかるのだ。
少し前も虫がついていたり、稀に小精霊が飛んでいたりする。
まあ、かなり稀ではあるが…。
畑が見えてきていつも通りにシャードを呼び出す。
この辺りは村人も来ないし来てもシャードは影で察知して隠れてくれる。
「シャード、誰かいるかな?」
「ん〜、おはようマスター…いや今日は居ないなぁ〜それにしてものんびりできていいなぁここは〜」
「…いつもその台詞聞くけど、そんなに悪魔界?ってのんびりできないの?」
「ああ〜、俺みたいな下級じゃぁ〜棲家なんて無いに等しいからなぁ〜中級とか上級ならのんびりでっきかもしれねぇが〜、
俺みたいな下級は場所の取り合いで日々殺伐よぉ〜」
「ふぅ〜ん、棲家がないとどうなるの?」
「そりゃ〜1、2日じゃなんともねぇが〜1週間もすりゃあ悪魔界の魔素に戻っちまうんだよ」
「…かなりすごい場所なんだね」
「まあな〜……んん?なんかすごいのがいるな」
「すごいの?ヤバいやつ?」
「んんん〜わかんねぇけどなんか小精霊っぽいし行ってみようぜ〜マスター」
「えぇー、この前危ない目に遭ったのにー」
「それはそれ、俺が居ればなんとかなるって〜、ちょっとずつだが最初より力も増してるからさぁ〜、それに〜見回りなんだからそう言うのも見てくるもんだろ〜」
「そうだけども…うーん……まあ、小精霊っぽいなら変に刺激しなかったらいいか?」
「そうそう、そうこなくっちゃ!じゃあ行くぞ〜」
「怪我しませんように…」
シャードについて来て果物を育てている場所まで来た。
ここら辺は確かに小精霊と出会っている回数は多いが…
「お、いたいた」
「え…うわっ!果物泥棒!?」
「ふにゅ?」
畑の畝にもたれ掛かって両手には赤いイチイゴを持っておいしいそうに食べている小精霊…にしては少し大きい奴がいた。
髪の色からして風属性だと思うが…。
「ふにゅひゅにゅにゅふ?」
「?な、何言ってるか分かんないよ」
「なんかコレを作った人か?って聞いてるっぽいぞ」
「え?」
「(コクリコクリ)」
「えっと、そのイチイゴは僕のお父さんが作ってるもので、君はそれを無断で食べてるから泥棒…だよね?」
「う〜ん、今までも何体か聞いていたが、そう言うの分かんないんじゃねぇかなぁ〜」
「んん…っふぅー、そうかいそうかい、コレは人の育てていた物だったのかい、そりゃー悪い事したねぇ」
「「え!?」」
「おや?なんだい?」
どうしようか考えていたときに流暢な話し方で驚いてしまう。
今までも意思疎通できる小精霊はいたが、舌足らずだったり言語が違ったりとあまり会話が成り立っていなかった。
が、今目の前にいるこの小精霊?は完璧な意思疎通ができるので驚いた。
「あ、えっと、とりあえずこれ以上は食べないよね?」
「そりゃそうさね、大体あたしゃ配下の子達がここら辺に美味しくて甘〜いイチイゴが自生しているってんだから来ただけでまさか人が作ってるたぁ驚いたねぇ…いや、まあよく見りゃあ綺麗に整ってらぁ」
「あ、うん、それなら良いけど…」
「てこたぁ他の子達も知らずに食べてたって事かい、そりゃあ悪いことしたねぇ…こりゃあ何かお礼しなきゃなぁ〜」
「いや、別に次から気を付けてくれるんだったら問題…ないよね?」
「う〜ん、まあマスターの父上殿も虫に喰われたと思うより精霊さんに食べられたっての方が有り難みあるんじゃ〜ねぇかなぁ?
精霊も好む美味しくて甘いイチイゴってな売り文句で」
「いやいやいや、そんなんじゃあこっちの気持ちが良くねぇし、あたしの中精霊としての位が許しちゃくれねぇ」
「うーん…………え?中精霊?」
今、中精霊って言ったんだよね?中性の霊とかそんな馬鹿な引っ掛けじゃないよね!?
「そうさ、あたしゃ風の中精霊…まあ、名前は伏せるがそれがなんだ?」
「え、えええ!?!!??」
「うっは〜そりゃ小精霊とは違う訳だ〜」
「失礼な悪魔だねぇ、これでも昔、大精霊様から位を頂いた中精霊なんだから間違えんじゃないよ」
うわ、うわわ、小精霊ですら会える方が珍しいのに、その珍しさの上をいく中精霊とか言ってるよ…。
それなら小精霊より大きいのもそういう進化なんだってガッテンだ〜。
「でもねぇ、あたしゃ風だ、日のような温かな光も火もなけりゃ、雨のような水でもない、大地の土でもねぇから畑に関しちゃ精々微風を常に吹かせるくれぇだ…そんなんじゃあ他の小精霊のやって来たことの穴埋めにもならねぇしなあ…」
「え、まあ、良いんじゃないかな?微風で…ほら風がないと野菜も暑いだろうし授粉だって「そうだ!あたしがここの番をするのはどうだい?」…………え?」
「あたしがここを守ってりゃ、害虫1匹すら入れやしないし、小精霊が盗み食いする事もない、あたしは別に仕事とかないから何にも迷惑にならない!どうだい?」
「え、えっと…少し待って」
「おうよ!」
少し中精霊から離れてシャードと話し合う…俺の独断では決めれないし…。
「ど、どうしようシャード」
「どうしようたって、父上殿に決めてもらうしかないだろう」
「そうだけども、お父さんなんか朝から手紙を見て慌ててた?じゃん?」
「あ〜、まあ、でも流石に呼ばないとあれでしょ?」
「うーん、そうだよねぇ」
「なるほど、じゃああんたの親に聞いたら良いのかい?」
「うんそうだね、事情も含め……て?」
「あー…まあ、風だったら筒抜けか…」
「そういう事だ、よしじゃあ連れてってもらうとしよう!」
「え、あーうん…じゃあついて来て?」
「いやー、朝から退屈しないねぇ〜」
そんな呑気な事を…と思いながらまだ昼には早いが家に帰ることにする。
意思疎通できる小精霊かと思ったら、もっと大物の中精霊だったなんて………。
精霊について
精霊は4つの位に分かれており
小精霊<中精霊<大精霊<精霊王の順に魔力量が大きくなっていき強さも増す。
もちろん精霊王は常に1属性につき1体しか存在せず、その属性の精霊王が居なくなれば大精霊から1体世界樹に決められてなる。
雌雄はなく、年老いる事もないため1万年以上生きている精霊もいる。
精霊間で属性で仲が悪いなんて事はなく、それぞれ世界樹を守るために世界樹が地に与えた属性の場所を守っている。
位は上の位の精霊が配下にするために与えているものであり、上の位の精霊から力を与えられて進化する事が多く、中精霊になるときに名を与えられたり、中精霊がフリーの小精霊に名を与えられたりする(名付けによる契約)
名前を呼べば精霊王ですら呼べるが、本人(本精霊)から聞かなければならず、魔力量がよほど多くなければ位の大きい精霊に名付けることすらできない(例外あり)
なお、食事は必要なく、ただ食べたいから食べている。
それでは、また次回。