とある二人の会話
「聞きたい事がある」
そう口を開いたのは、最近こちらの世界へと洗脳した僕の友人だ。
そしてこちらの世界とは一体どんな世界なのかと言えば……まぁ、ラノベの世界。なろうへようこそと言うやつだ。
「いったい何を聞きたいのかな?」
「いやな、この異世界転移についてはまだ解るんだが、異世界転生についてが良く解らない」
「分かると言うのは?」
「ほら、人と言うのは時として違う世界に行けたのなら……と思う生き物だろう。なら、これも一つの夢として受け入れる事とが出来る。が、異世界転生だと一度死ぬのだろう? 其処が良く解らないんだ」
なるほど。聞きたい事は良く解った。
確かに人は死にたいと思う者など、特殊なパターンを除いて存在などしない。むしろ死に対して恐怖を覚え、不老不死なんてモノを求める人だっている。
であれば、態々転生を行うと言うのは必要なのだろうか? 何せ異世界に言った後は転移だろうが転生だろうがやる事に変化は無い。何せチートだとか加護だとか、特殊な力を貰って無双するのだから。
それなら態々一度死ぬなどと言うクッションを入れる必要はあるのだろうか? と、この友人は疑問に思った訳だ。うんうん、良い感じで此方の世界に洗脳されているな。
それにしても……うん、どう説明して行こうか。
異世界転移と異世界転生。余り知らない人や適当に見ている人だとどちらか判別してない人もいる内容だ。偶にトゥイート等を見ていると、とある異世界転移の作品がアニメ化した後に〝異世界転生モノって説明しろよ〟とか書いてたりする人もいたし。
明確な判断と言えば……まぁ、一度死んでいるか死んでいないかだよな。とは言えこの友人はその事については理解している。
「そうだね……転生の場合だと、死んでやり直したいとか、死んでも良いからやり直したいなんて気持ちの表れが一番解りやすいかな。誰でも一度は思った事があるはずだよ、もし生まれ変われたら……とか」
「あー……本気か本気じゃ無いか別にして、そう言われてみれば確かにそうかもしれないな」
うんうん、誰しもが有るはずなんだ。ちょっとした失敗をした時、恋人と別れた時、ムカつく相手に負けた時。友人が言う様に本気かどうかは別として、ほんのちょこっと脳内に過る。そんな事は日常的に無くはない話。
ただそれは……共感する側での話で書く側ともなるとまた少々異なるパターンが存在する。
「しかし、思うんだが転移物に比べて転生物は余り苦難が少なくないか? 記憶が戻る前や幼少期に何かしら有ったりはするが……」
「ま、そりゃ死んでいるパターンが多いからね。とは言えそんな作品ばかりでは無いだろう? 寧ろ、転生してひーひー言っている作品もある」
「あー……EDになったり、腹に穴を開けられたり……」
「ま、山あり谷ありの方が物語としては面白いからね。ただ、それでもチートで無双してハッピーエンドと言う話は多い。さて何故だろう?」
「うーん……ソレは一度死んでいるからか?」
そうそう、キーワードは死だね。現実世界で一度死んでいるというのは大きな理由だ。
「自分が転生したとして、苦しみたくないから? チートで無双したいから? まぁそう言う気持ちで作品を書いている人もいると思う。ただ、僕の感覚と言うか僕が書いている話ではって前提なんだけど少々違うんだよ」
「ん? 一体どういう事だ?」
「そうだね。言ってしまえば異世界転生と言う作品は〝レクイエム〟なんだ。死んだ家族が、友人が、転生先で幸せに生きていて欲しい。そういった願いと言っても良い」
「あー……そう言えばお前の作品って……」
数か月前に僕の可愛がっていた猫が寿命で死んだ。小さい頃から一緒に育った猫だったからね……そりゃ、わんわん泣きわめきたかった。
とは言え男子がそんな泣きわめくのもと言う気持ちが無い訳でも無い。
だから僕は……筆を執った。涙を流しながら愛猫が元気に走り回っている。そんな世界の話を書くために。
そして、その話の中には僕が小さい頃に生きていた祖父母も作品に出している。
愛猫がまだ子猫だった時、一緒に祖父母に遊んで貰った。その時の事を思い出しながら。ただ、名前は流石に弄っては居るけどね。
お爺ちゃんが剣聖、おばあちゃんが天才魔導士。そして猫はおばあちゃんの使い魔だ。
皆が仲良く、元気な姿で幸せそうに暴れまわる。そんな話、そんな願い。
ただしそこに僕は居ない。だって僕はこっちの世界でまだ生きているのだから。
「あー……うん、なるほどなぁ〝レクイエム〟か。そう言われると何だかしっくりと来た」
「ま、そんな思いで書いている人がどれだけいるかは分からないけどね……多少は居るんじゃないかな」
物を書く者だからこそ出来る祈り方だ。
「しかし、そう言われてからお前の作品を読むと……あー、確かにあの猫を思い出すな」
「当然だよ。仕草の表現とか、思い出しながら書いているからね」
「なるほどな。確かにあの猫は餌を待って居る時、自分の尻尾を追いかける様にくるくる回ってたんだよな」
そうそう、その仕草が何とも言えないほどかわいくて……ついつい餌をやるタイミングを伸ばそうとしてしまう。
そして、餌やりを伸ばしたら猫はピタリと止まって飛び掛かって来るんだ。早く餌をクレー! って。
「うん、全部書かれてるじゃないか。うん、納得したわ。ありがとうな」
「いえいえどういたしまして」
お礼と返事をすると、僕達はそれぞれやっていた事を再び開始する。
友人は呼んでいたラノベを手に、僕はパソコンの前でキーボードをカタカタと。
願い。そう願いなんだ。笑顔で元気で幸せに暮らしていて欲しいという。
そして話を書く度に思い出す。おじちゃんの手の大きさを、おばあちゃんのぬくもりを、愛猫の可愛らしい仕草を。
何時か自分は皆と再会する事が出来るのだろうか? その時その場所はどんな世界なのだろう? そんな事を考えるからこそ、異世界転生と言う作品を書く切っ掛けになった。
だからこれは自己満足。評価が欲しいとか、読者が欲しいとかそう言うのでは無くて、ただ静かに思い出に浸りながら行う僕なりの追善。
ちょっと聞こえて来た話をアレンジ。
何やらラノベ議論をしていた人達の会話が聞こえてきまして、何となく書いてみたモノだったりします。
まぁ、異世界転移や転生の議論って割とやってる人いるみたいですねぇ……まぁ、どっちも好きなのを選べば良いじゃないと思いますが。
で、とげとげしい会話をそのままと言うのも何だったので、こうオリジナリティをぶち込んでみた次第。