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『夢の話』

 「メモの話・b」


 机の上の電話の横に色づけられた付箋紙がいくつも張り付けられていた。

「大至急! 山岳自衛隊より本部へ ○○山脈で遭難事件発生。救出出動許可を大至急要請致します」

「○○山、七合目に男性遭難者を一名確認及び救出完了。遭難者の安否については不明……」


                         「メモの話・b」END


 「夢の話」


 大分暑い気もする太陽がぐんぐんと昇っていました。

 一人の少年はがつがつ日の当たる格好で珍しくとぼとぼと歩いていました。上はキチンとアイロンをかけられては……いない、少ししわくちゃなワイシャツ。下は紺色のズボン。どう見ても学生でした。高校生でしょうか。

「暑っづー」

少年が言いました。とてもやる気のない声で言いました。

 やがて少年は自分の学校へと到着しました。

 到着したときには少年は汗だくでプール上がりのようにも見えます。

 学校の一つの窓から声が聞こえました。

「ショーゴ! 遅いよー!」

窓から見ていたのは少年と同じくらいの年の女の子でした。女の子といってもそこらへんで“キャーキャー”騒いでいる女の子とは違います。現役高校生で“キャーキャー”騒いでいます。

「えらく涼しそうだな! かおりー!」

ショーゴと呼ばれた少年は四階の窓に向かって彼女に聞こえるくらいの大声で叫びました。

「だってー! 暑いからエアコン付けてるんだもーん!」

四階の窓からかおりと呼ばれた少女が叫びます。ショーゴと呼ばれた少年はまるで地上十メートルから投げられた札束を拾うかのスピードで走り出します。

そして目的の教室に着きます。そこはもちろんお金をばら撒く場所でも全力疾走をして何かを貰えるような場所ではありません。

「かおり! 音楽室でエアコン使うなって何回言ったらわかるんだ?」

 そこは正午がいつも使用している音楽室でした。その音楽室にいくつも並べられている少し高価な感じがする椅子を二つ、エアコンの前に向かい合わせで並べ、少しスペースのないソファのような使い方をしています。もちろんエアコンの風は彼女に直撃です。とても涼しそうです。

 正午は無造作投げられていたエアコンのリモコンを拾い上げると“ピピッ”という音を立てて、まだかおりが気持ちよさげに涼んでいるのにエアコンを停止させました。

「ちょっとショーゴ! 何するのよ?」

かおりが片方の椅子を蹴飛ばして立ち上がって言いました。正午はいつもエアコンのリモコンが封印してあるAED(自動体外式除細動器)の扉が無残にも壊されているのを見て言いました。

「学校のエアコンは勝手に使っちゃいけないのは知ってるだろ? それにここでエアコンなんて使ったら僕のせいにされるじゃないか……」

人の心配より学校の心配、学校の心配より自分の心配でした。

「だって壊れてたんだもーん」

いたずらっぽくかおりが言います。

「じゃあ何でAEDの中にエアコンのリモコンが入ってるのを知ってるんだ? なにもAEDを壊す必要はないんじゃないか?」

ショーゴが問い詰めるとかおりは“ぅぐぐ……”と言う少し複雑な声を発してついには追い詰められました。

「はぁ……まぁいいさ。それで? こんな暑い日に何の用事?」

 そう。正午はかおりの呼び出しにより学校まで呼び出されていました。ちなみにいつも通学、その他に使用している相棒と呼ばれるバイク(自動二輪車を指す。この場合オートマチック型スクーター型バイク)はオーバーホールの為、バラバラにされてしまっていました。この炎天下の中に放置されているパーツはかわいそうなものでした。なので正午は今日は歩いてきたのでした。


 ちなみに今は夏休みの真っ最中です。他の生徒の姿は見えません。職員の姿も職員室以外では見られませんでした。ちなみに音楽室の鍵はいつも正午が持ち歩いている為、いつでも開錠出来るようになっていました。更にちなみに、なぜかおりが音楽室の鍵を開錠できるのかというと、正午に内緒で合い鍵を作っていたのでした。もちろん、学校にも正午にも許可はありません。逆に学校なんかに許可を求めたら正午が怒られかねません。

「それで……? 何のよう?」

正午がかおりにシャツをパサパサさせながら聞きます。するとかおりは、

「ショーゴさぁ、昨日、何食べた?」

「ふぁ?」

と、正午が真剣な顔で何を言っているんだ、と言わんばかりの顔で不思議な疑問符だけを言いました。

「ふぅ……じゃあ、今朝、何時に起きた?」

正午はまた”ふぁ?”と言いたそうでしたが、かおりがあまりに真剣な顔で聞くので少し考えました。そして、

「覚えてないな」

と言いました。その答えを聞いて、かおりは

「覚えてないのも無理ないわね……」

「何がだよ」

正午がついには怒ってしまいそうな顔でかおりを問い詰めます。

「だって、これは『夢の中』なんだから……」



「――これはね。私たちの夢なんだよ?」

突拍子もないことをかおりが言いました。

「夢ねぇ」

しかし、かおりの真剣な表情とは裏腹に、正午はAEDボックスをどうしたら直せるかを考えながら興味もない感じで答えました。

「ねぇ、聞いてるの、ショーゴ?」

全く興味なさげに口だけで答えた正午が気にいらないのでしょう。まぁ、当の本人にはかおりが考えていることなんてさっぱり分かることもなく、かおりが破壊したAEDボックスを”あーでもないこーでもない”とはめたり、引っ張ったりしています。

「どっちかと言ったら聞いてない方、ってかかおりも直すの手伝ってよ」

「だーかーらー! 別に直さなくたっていいのよ! 夢なんだから!」

「直さないと、この場所使用禁止になるじゃんか」

「だーかーらー!」

二人の会話は一向に成り立つこともなくしばらくの時間が過ぎました。


「それで? これは実は夢の中で、僕とかおりは夢の中での風景を見せられている? ……そんなばかな」

真後ろにはガムテープで修復されたAEDが見えました。バレてしまうのも時間の問題です。

 正午は一応、椅子に座りかおりの話に一応、耳を傾けています。

「うん、そうそう! これは夢、夢なんだよ!」

「そうだね、夢だとしたら早く覚めてほしいのもだよ」

正午はまるで信じきっていませんでした。

「ショーゴ……全く信じきってないでしょ?」

全く信じきっていない正午に向かってかおりが言いました。

「信じてないよ。じゃあさ、これが夢だっていう証拠はあるの?」

足を組みなおして正午が言いました。

「だって、私たちの学校にAEDなんてなかった! それに私たちの学校はこんな砂漠みたいな場所に建ってない!」

そう言うと、かおりは音楽室の窓を思いっきり開けました。


 窓から見た景色からは、まるで砂漠化したような砂の嵐が空中を舞っていました。どこを見ても黄色い地面が学校の周り、世界を覆い尽くしていました。この場所に立っている学校だけが異様なほどに立ちすくしています。その光景は、現実のものではありませんでした。

 その砂吹雪が消えてなくなった頃、正午は窓のそばまでやってきます。

 正午は窓から見た景色を見て、

「なんだ、これ……?」

と、言ってまた自分の座っていた椅子へと急いで戻ります。急いで戻った正午にかおりが言います。

「理由や根拠はないけど……私はこの景色を見て思うの。コレは夢なんだって。そしてこの夢が覚めれば私もショーゴも、きっと苦しい思いをしてると思うの」

“苦しい”という言葉にショーゴが反応しました。

「それで? もし、これが夢なんだったら現実はどうなってるんだ?」

「別に? 夢を見ている私たちは今寝てるんだからどうにもなってないよ」

“そういう問題じゃない”とショーゴが言いました。


「私もはっきりとはわからないんだけど多分、私とショーゴは昔の夢の中にいるんだよ。現実世界で私たちは、今よりは辛い生活を送ってるんだと思う」

珍しくかおりが力説しました。その言葉にはやや説得力があったようにも思えます。

「じゃあさ、現実世界の僕たちは何をやっているのさ?」

正午がもっともな疑問を意見にして言います。

「そこまではわからないよ。ただ、言えることは多分この街にはいないってこと」

少し淋しそうに、かおりが言います。

「この街にはいない? どこか遠くの学校とか?」

「そうかもしれないけど、ショーゴに関しては食べるものも食べられてないのかも……」

「飢え死にするじゃん!」

「そうなりかけてる可能性もなくはないと思うよ」

夢の中の現実世界のこととはいえ少々心配になる正午。

「でもな……飢え死にするような生活なんてなかなかないぞ?」

その正午の言葉に対して、かおりがにやにやしながら言いました。

「お金なくなっちゃったり? それとも、お金がなくなっちゃったり?」

お金のことしか頭にないかおりでした。

「……他に理由はないのか?」

そのことについて正午は当たり障りもなく優しく突っ込みました。

「だって、私に言われたってわからないんだもん」

「かおりからふってきた話だと思うのだが……」

正午がここまで言うと、かおりは真剣な顔で言いました。

「でも……」

「……でも?」

「ショーゴはもっと、守るべき人を守ってあげて。その人は、そうしないと直ぐにいなくなっちゃう人だから。それとね、ショーゴはもっと自分に正直になってもいいと思う」

「…………」

「他の人を守ってあげるのはもちろんのこと、自分に正直にならないと、この先絶対後悔するよ。いなくなってからは、遅いんだよ……」



 ……夢が覚めた。正午はテントの中で分厚い毛布に包まり身を潜めていた。

 ふと正午はテントの外に出た。正午の手入れをしていない髪の毛やひげが目立つ。

 そこから見える景色はとても真っ白で、夢の中の黄色い砂の嵐とは正反対。身体の後ろからは周りの音が聞こえないほどの轟音と、バチバチと身体にぶつかっては横に逸れて、そのまま風に乗って銀世界に消えていく雪の粒の嵐。

 生き物の存在も目では確認できない。そもそも、この吹雪の中で生きている生物など存在しないのではないだろうか。

 正午はゆっくりとテントの中に戻り、毛布にくるまり、

「後悔なんて……してないよ」

そう呟いたが、その声は外の轟音によってかき消された。


                          「夢の話」END


「メモの話・a」


 机の上には色づけられた付箋紙がいくつも張り付けられていた。

 その付箋の内容は様々であった。これを書いたであろう人間の姿はない。

「例の書類 今月中に軍に提出!」

「返却された書類の訂正を今週中に!」

「○月○日の会議は中止 後日連絡有」

「入社式での挨拶スピーチの詳細を記入! ○日まで!」

「○○様からお電話 至急、折り返しお電話を」

「燕から郭公へ 例の入隊者の不法情報を入手 折り返し連絡を」

「内国から軍指令要請有 ○日まで決断」

「国会予算案修正決議会議 ○日午後○時」

――――――

「○○山で行方不明者連絡有 詳細は別紙」

「通報者は二十代女性 二日前に入山確認」

「遭難者の詳細 二十代前半男性 容姿旅人 遭難者は武装(拳銃二丁)」

「大至急 遭難者救出出動許可を願います」


 それらの付箋紙の上には大量の埃だけがあった。


                    END


注意、この作品はフィクションであり人物及び国名などは架空の物とします。尚、この作品は別作「忘れ咲き」と若干関係性がございます。尚、この作品は順不同でお送りしております。


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