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『再開の話』

この小説は1話完結構成連載小説です。

各ストーリーは順不同でお送りしております。


 白く染まった一本の広い道を一台のオートマチックバイク(この場合、スクーターの事を指す)が決して速くはないスピードで走っていた。

 運転手は二十代前半の男性。上着は景色に紅一点という感じの真っ赤なジャケット、下は紺色のパンツ、分厚いブーツを着用している。顔の半分はゴーグル付きヘルメットとマフラーで隠れている。


 季節は冬から春先、空は曇天。いつ雪が降り出すかわからない天候。場所は日本では見かけない街。街の中だというのに運転手以外に人の気配はない。

 彼は運転していたバイクをやや滑らせながらブレーキを掛けて止まった。

「この街は人気がないな……。もう少し走ろう」

そう誰にも聞こえない声でマフラー越しに呟いた。そしてまた走り出した。やや後輪を滑らせながら。


 冬の空も落ちてきたころ、彼は更に人気のない林の中でバイクを止めてキャリアボックスの中にしまっていた携帯食料を取り出し口に中に入れた。

 その後、バイクを一本の木の真横に移動し、バイクと木の間に後部キャリアに積まれていたテントを張った。片方は木に、片方は彼のバイクに縛り付けた。

 テントを張り終えた後、彼はすぐにテントの中に身を隠して、誰にも聞こえない声で

「おやすみ」

と呟き、辺り周辺は静かになった。


 翌日、晴天の太陽と共に彼は起きた。朝食は昨夜と同じく携帯食料を二つ口の中へ消し、テントをまとめてバイクの後部キャリアへ縛り付けた。

 その後、バイクのエンジンを掛けキャリアを全て外しエンジンを見えるようにしてから、その上に五センチほどの厚さの鉄板を乗せた。十分ほど放置した後、熱した鉄板の上に水と豆と最後に角砂糖を二つ入れ、コーヒーを作った。そして一口すすって、「熱ちっ」と小さな声で呟いた。

 彼はバイクで沸かしたコーヒーを飲み干し、天を仰ぎ、

「今日は良い天気だ。たくさん走ろう」

そう言って、コーヒー沸かせる為だけにエンジンを起動させられ出来上がったら止められたエンジンをキック一発で掛けた。

 昨日来た道を一度振り返り、逆の方向へバイクを発進させた。

重低音型のやや大きく太い音を響かせながら彼と彼のバイクはその場を去った。彼が去った直後に木の上の雪がボサッという音をたて地面へ落ちた。


少しずつ気温も上がって、太陽が真上に見えるようになった頃、何かを見上げている一人の男性を見つけた。真っ白いひげが顔半分が隠れていて年齢的には七十代ほどだろうか。白いひげとは対照的な黒い鍔のある帽子をかぶっている。歳の割には腰もまっすぐしている。


「Hi, Excuse me. Do you speak English, or Japanese?」

この場所は日本ではないため、彼は英語でコンタクトを取った。

「Both can be spoken. どちらも話せるよ」

「Thanks.少しお時間よろしいですか?」

「Right..どうしたんだね?」

「What are you doing? 何をしているんですか?」

「Please make it to either.どちらかにしないか?English?,Japanese?」

「Please speak Japanese..sorry.」

こうして英語と日本語が混ざった会話を終わらせて日本語のみの会話となった。


 彼と老人は近くにあった古びたベンチに腰を掛けて、彼は今朝作った物と同様のコーヒーを差し出した、が笑いながら返された。

「すばらしい作り方で作ったコーヒーをありがとう。しかし、初めて会った人から貰うことは出来ない。毒でも盛られていたら嫌だからね」

「そうですか」

そう彼は言って、そのコーヒーをすすった。

「見た感じ『旅人』のようだが、こんなわしに何か用か?」

カップに入っていたコーヒーを飲み干し、彼は言う。

「北からこのバイクで走ってきたのですが、建物はあるのに人は見かけなかったもので……」

「そうか」

老人は一言そういった。

「あなたはここで何をなさっているのですか?」

「まずは、自分の身分を名乗ったらどうなのだ? 国際的な国境は無くなったとはいえ、ここはわしの国だ」

「それは、失礼しました。正午と言います。My name is Shogo Hida.」

「ショーゴか。良い名前だ。わしはこのとおり散歩をしておる」

「散歩ですか。良い名前ですか?言われたことないですが」

「そういう礼儀なのだ。少なくとも『この国』では」

「そういうものですか」

「そういうものだ。こんな世の中だ、相手を傷つけずに生活することは必須だろう。わしがこうして「日本語」を話せるように。君が少しとはいえ英語を話せるように」

「まぁ、そうですね。僕は学校で習わされたものなので実際に話すにはほど遠いですが……」

「しかし、君の国も進化したものだな。地球上の人間が少なくなったからとはいえ、発展しこっちの国にも影響を与えるとは……」

「そんなに変わりましたかね? ただ走っているだけの生活だと情報足りなくて……」

「君はいつから旅をしているんだい?」

少し驚いた様子で老人が言った。

「六年くらい前からですかね? よく覚えていません。僕は冬の数しか数えていないので」

「五年ほど前に大きな戦争があったのは知っているかい?」

「はい。北アメリカ大陸と北アジア連合軍、言わば昔の国名で言うとアメリカとロシアですよね」

「知っているではないか」

「でも、それが真実とは限らないってことですか?」

「君は話を知っているのか、知らないのか?」

その問いに正午と呼ばれる青年は軽く笑い答えた。

「さぁ、僕には世界がどう変わってしまおうがあまり関係のないことなので。でも、ある程度の事は知っていおかないとこれから行く地方が前線だったら嫌ですから」

ひとつ間を置いて、老人が答える。

「確かにその通りだ。これから行こうと思っている国が戦争の真っ最中だったら死にに行くようなものだな」

老人はげらげらと笑い、言葉を続けた。

「でも、君も運がいい」

「何がですか?」

「ここから百キロほど南に走ると軍隊の駐屯地だ」

「と、いいますと?」

「本当に君は知っているのか知らないのか」

頭を悩ませる老人を横に正午は首を傾げていた。

「どちらかというと知らないのかもしれませんね」

「……この先南に行くというのであればやめておけ。内戦がもうすぐ始まることだ」

「と、いうと今いる場所はもしかして」

「もちろん*****だ。引き返す選択肢を勧める」

「あなたは避難しないのですか?」

正午がそう言うと老人はゆっくり立ち上がってあさっての方向を向く。

「……わしにはこの場所でしか死ねないのだ」

「詳しくお聞きしてもよろしいですか?」

真剣な顔に直して正午が問う。

「構わんよ」

そう言うと、老人は沈み行く太陽を背中に語り始めた。


「わしには息子が二人おったんじゃ。ちなみに妻はおらん。流行り病でそそくさと死んでもうた。息子たちは死んだ母親の存在を知らん。なんせ教えてないからの」

老人は続ける。

「そして上の息子が二十、下の息子が十八の頃、この国で戦争が始まった。醜い内戦だ。しかし、その内戦が影響でわが国の資金はほとんどなくなってしまった。そしてこの国はこの国土を売却した。そんな規模の小さい戦争がやがて隣の国でも始まった。さらにその隣も、その隣も……。おかしいと思うだろ、こう頻繁に戦争が起こるなど」

老人がこちらを向いて同意を求めてくる。正午は素直に頷いた。

「たくさん戦争が起こったのには裏でやりとりがあったのだ。いや、この際表でも裏でも変わりはない。ちょうどその頃だ。例の指導者が現れたのは。あいつがこの国を、全ての国を壊し始めた。あいつは上手い口を使い、他国の悪口、秘密事項、「ココをつかれればこの国が動く」というのを把握しておった。そして、自分は傷つかずに周りの国を滅ぼし始めた。結果的にはそいつの影響が大陸をこえ世界的規模の戦争が始まった。世界のトップではさぞかし眺めも良かったであろう。でも、その指導者も反発軍にあっさりと殺されてしまったがな。醜い戦だけを残して。……そして、息子たちも兵士にならざるおえなかった。こんな田舎町で育った息子たちじゃ、とてもじゃないが戦い方など知らん。旅立った一週間後にはドッグタグしか帰って来なかったわ。何も悪くない子供たちを犠牲にしてもこの戦争はまだまだ続くじゃろう……」

そういうと老人はすぐ横にある縦長い木の上を見上げた。そこには、微かに鉛色に光るものが二つ掛かっていた。その様子を正午はじっと聞いていた。

 そして、日が落ちた。


 その日の晩、正午はもう使われていないであろう屋根のあるバス停に腰を下ろしていた。

「だからわしは、この場所から離れることは出来ないのじゃ。墓も作ってやれないわしに出来ることはただ一つ。この場所でわしも向こうへ逝くことじゃ……」

老人はこう言い残し暗闇に消えていった。

 正午は朝昼と同じく携帯食料をポリポリとかじり明日どうするかを考えていた。

「先は前線か……」

そう言ってバイクキャリアから大きな地図を広げ、道を調べる。

「……そうだな。東に行けば大きな街がある。西にも小さいけど街があるな。えぇーっと、情報によると」

と言い、使いだしてどれくらい経ったのかわからないくらい古びた携帯電話を取り出してメールを開く。もちろん、コミニュケーション機能としては使えない。ただのメモ帳代わり、耳にした治安情報などが詰まったメールが携帯のメモリをいっぱいに使っている。

「情報によると、東の街は日本人滞在率が多い、西の街は人の出入りはあまりなし、っと」

正午は悩みはしたがすぐに考えるのをやめた。どうせ考えても明日の気分で変わるだろう。そして、あらかじめバス停のベンチに敷いてあったテントに包まった。

 そして目を閉じた。

「まったく……『かおり』はどこほっつき歩いてるのやら」


 夜が明け、暖かな日差しが東の空に浮かんできた頃

「Good morning.」

正午は急な声で飛び起きた。正午はとっさにジャケットの中に手を突っ込み三十八口径のリボルバーを声が聞こえた方へ向けた。

「ほう、M40のレモンスクイザーか。なかなか良い物をお持ちだ」

そこには昨日の老人が立っていた。正午は手にした銃を胸元のホルスターに収め、ため息を一つついた。

「あなたですか……驚かさないでください」

「驚かせたつもりはない、単なる挨拶だ。しかし、良い反応だった」

正午は胸元にしまったリボルバータイプの銃をホルスターごと出し

「特に良い反応でもないですよ。この銃は連れから受け取った物で、使い慣れているわけではありませんよ。使い始めてまだ三年です」

「そうか。しかし、意外なものだ。君に連れなどいたとは。それで? そのお連れさんの姿が見えないが?」

正午はホルスターごとジャケットの胸元にしまって、呆れた声で言った。

「今はいませんよ。どこに行ったのかわかりません」

「ほう。じゃあ君が旅をしている理由はその「お連れさん」探しってわけかな?」

「半分正解ですね。確かに彼女は探していますよ。迷子のようなものですけどね。そもそも連れなどなんてものは名ばかりなものですよ」

「ほう。お連れさんは迷子かい?」

老人が聞いた。

「えぇ、迷子のようなものです。かおり……彼女は昔から落ち着きがなくて、目を離すとすぐ消えてしまうんですよ」

「その迷子ちゃんはいつからいなくなってしまったんだい?」

「一ヶ月ほど前ですかね、とあるバーで目を放した隙に消えてしまいました。相当酔っ払っていたのであまり遠くへは行ってはいないと思っていたのですが……甘かったですね」

すると老人は立ち上がり

「その迷子の手がかりを知っているよ」

笑みを浮かべながら老人はそう言った。

「どういうことですか?」

すぐ正午が聞き返す。

「二週間ほど前になるかな。君と同じようなオートバイに乗った女性が尋ねて来たんだよ。『これと同じバイクに乗っている変な英語を話す男を見なかったか?』とな」

正午は少し呆きれた様子で頭を下げた状態で老人からそのときの様子を聞いた。


「どうやら入れ違いになってしまったようだな」

全て聞き終えた正午は少しぐったりしていた。

「それで、彼女はどこへ行ったかわかりますか?」

ボロボロに相棒の態度を言われた後、正午は頭が痛くなりながらもその後の彼女の行く先を聞いた。

「東に日本人滞在者が多い街、西にはおいしい物が飲める店がある、と言ったらそそくさと西に向かって走って行ったよ。いやぁ、とてもおもしろい女性だ」

「あぁーかおりの悪い癖が……」

正午は呆れかえって絶句にも似た表情を浮かべた。相棒としてみっともないあまりであった。

「まぁ、彼女が君の相棒とは限らないが」

「いえ、間違いなく僕の相棒ですよ」

「そうなのかい?」

「間違えないですよ」

「そうか。良かったじゃないか、見つかって」

「もっと、普通に見つかってくれるのを期待したかったですけどね……」


 それから正午は早々と出発の準備を整えてバイクのエンジンを掛けた。

「それでは僕は行きます。お世話になりました。……コーヒーここに置きますね」

正午はバイクにまたがりながら軽く頭を下げ、ベンチに置いたコーヒーの方を向いた。

「わしは何も世話なんてしておらんよ。飲むかどうかわからんぞ」

「いや、この国の礼儀ですから。飲んでも飲まなくてもどちらでもいいですが、熱いので気を付けてくださいね」

「よくわかってきたようだな。……気が向いたら飲むかもしれん」

少し照れくさそうに老人が言った。

「そして、もっと長く生きてくださいね。亡くなったご家族の為にも生きてください。」

老人は優しい笑みを浮かべ「心配なさるな」と言って彼が見えなくなるまで見送った後、ボロボロのベンチにゆっくり腰をかけ天を仰ぎ、少し考えた後カップの中身を口に注いで

「熱い」

こう呟いた。



 そして、正午は暖かな日差しが増し、爽やかな南風が吹き始めた頃、西の街に「相棒」という名の「かおり」を探す……連れ戻すためにバイクを雪で白く染まった広い道に一本の線を描きながら走らせた。



 この後、正午はかおりと再会することになる。「でも、それは違う話」


                                    END



注意、この作品はフィクションであり人物及び国名などは架空の物とします。尚、この作品は別作「忘れ咲き」と若干関係性がございます。


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