2、現実って残酷だ
「ふう、今回もいいことしたわい。ひと仕事して疲れたのう。」
「…え?」
爺さんを見つめる俺。
「ん?」
俺を見つめる爺さん。
どゆこと?
「ええと、」
「ではの、若者よ。わしはもういくでの。」
待って、意味わかんない。マジわかんない。
「失敗?」
「失礼な、大成功じゃよ。確かに送り届けたぞ。」
「いやいや、俺ここにいるじゃん。」
「あたりまえじゃろ?見りゃ分かるわい。」
え?え?なにこれ?素敵な異世界生活は?
「ああ、お主何か勘違いしておるじゃろ。記憶を移すといってもコピーして貼り付けるから、お主はお主のままじゃよ。」
「じゃあ、俺は何も変わらないの?」
「そりゃ、ここにいるお前さんはなんも変わらんの。」
「意味ないじゃん!」
マジで意味ねえよ、なんだそりゃ。何のための覚悟だったんだよ。完全に無駄な時間じゃん。
「ちゃんと転送さてた方には記憶の引き継ぎもあるし最高の生活が待っとるんじゃないかの?」
「ここにいる、俺は、何の恩恵も受けてないんだけど!?」
「知らんがな。」
ひでぇ、ひどすぎるよ。こんなのってありかよ。めちゃめちゃワクワクしてたんだぜ?
新世界、始まると思ってたんだぜ?それがこのざまだよ。
「まあ、お主も夢が見れてよかったの。どうせ人の身では転移になど耐えられんのだし、しかたあるまい?」
「聞いてねえよ、そんなの。」
「歳のせいじゃの、忘れとったわい。」
「ちくしょうめ。」
「畜生とはなんじゃ、畜生とは。全くこんなにしてやったというのに。」
「俺にはしてもらった感がぜんぜんねえんだよ。」
「相談に乗ってやったじゃろ?」
「それぐらいだし、そもそも相談内容がここにいる俺には掠りもしないくらい関係ねえんだよ。」
本気で悩んでたのがバカらしくなる。どれだけ凄かろうが俺に関係なきゃ意味ないじゃねえか。
「人を幸せにするのは難しいのう。疲れた、儂はもう帰る。」
「ちょ、」
そう言って杖をくるりと回したかとおもうと爺さんの姿は忽然と消えてしまった。
「まてやい、こんちくしょうめい。」
誰もいなくなった虚空に俺の言葉が消えていく。
「あーあ、なんだかなぁ。ほんと、もうわけわかんねえや。」
でも、興奮していろいろ言ってしまったが、あの爺さんが怒れば俺の身など容易く消せたのだろう。
そう考えれば、優しかったのか運が良かったのかはわからないが、生きていられたのは存外すごいことなのではないだろうか。
人生、命あっての物種。せめて教訓としてうまい話はよく考え、命大事に生きようと、そう考えることにしよう。
そうするしかあるまい。
「でも、異世界無双してみたかったなぁ。」
そう呟くくらいには未練たらたらであった。