僕の誕生日2
お立ち寄り下さりありがとうございます。申し訳ございません、一部、糖度が高い部分があります。
ひとまず、深呼吸だ。
僕は理性を呼び戻すための手順を考え始めた。
全身全霊をかけて、茶葉に意識を集中させた。公爵家から持ち込んだ茶葉は、果物の香りを移すために、乾燥させた果物の切れ端が僅かに混ぜてある。
切れ端を数えつつ、理性を取り取り戻したつもりだったが、お湯を注ぐときにポットから溢れそうになったところを見ると、どうもまだ戻り具合が頼りない。
ひょっとして、僕の理性はこの切れ端のように、砕け散っているのかもしれない。
「プレゼントを渡してもいいかしら」
僕が全くシルヴィを見ていなかったためだろう。躊躇うように言葉が投げかけられた。
いけない。シルヴィを戸惑わせてどうするんだ。
僕は再度深呼吸をして、彼女に振り返った。
そこには少し俯き加減に、哀し気な空気を纏い、箱を乗せた手を差し出しているシルヴィがいた。
――!
僕は彼女に歩み寄って、両手で顔を掬い上げた。
もう哀しい顔なんてさせない、そう誓ったのに…
彼女の額に口づけて、呟いた。
「ごめん。是非、プレゼントを見せて欲しい」
彼女がふわりと笑顔を浮かべてくれた。僕の好きな笑顔だ。
もう一度、額に口づけて、箱を受け取り、蓋を取った。
中には、シルヴィの作った小さめな丸い守護石が二つあり、蔓のように細長い守護石がその二つに取り巻いていた。
…?
何に使うものなのだろう。彼女がくれるものはどんなものでも宝物だが、用途が思いつかなかった。
「シャーリーに相談に乗ってもらったの」
澄んだ可愛らしい声が、僕の疑問に割り込んだ。
彼女は僕の腰に帯びた剣に手をかけた。
僕はぼんやりと腰から剣を外した。
「剣の鍔につけると、振りの邪魔にはならないって」
そう囁きながら、彼女は白金の光を立ち上らせ、守護石を鍔に巻き付けた。
彼女の魔力を受け、剣は、瞬間、白金の光に包まれた。
「ありがとう」
僕の身を案じてくれる彼女の贈り物に、全身が幸せを感じていた。
自分が生まれた日に、これほどの幸せを感じられるなんて、ほんの一週間前には思いつかなかった。
僕は、薄い青の瞳を覗き込んだ。彼女は輝くような笑顔を見せながら、涙を零した。
涙に口づけながら、尋ねた。
「どうして泣くの?」
声は掠れていた。彼女の温もりと、ふわりと立ち上る魔力を感じながら、僕は唇を滑らかな頬に滑らせた。
「…、一緒にいられることが…、幸せ過ぎて…」
自分と同じ思いを耳にした途端、僕の魔力が熱く立ち上り、彼女の中を駆け巡った。
「…っ!」
彼女の息を呑む声を、唇で塞いだ。
白金の魔力が僕の中を駆け巡り、彼女の腕が僕の頭を抱える。僕も力の限り彼女を抱きしめた。
お互いの魔力が溶けあい、その熱を感じることだけが全てになる。
僕は彼女につけた印に口づけ、彼女が首をのけ反らした気配がした。
その気配に、僕の魔力がさらに熱を帯び――、
「誕生日の祝いに来たぞ」
氷のように冷たい声が、僕と彼女の魔力に沁みこみ、たちどころに先ほどまでの熱を凍りつかせた。
あまりの凍りつきに、羞恥も怒りも湧かなかった。
僕は溜息を吐きながら、シルヴィの肌から離れ、僕にもたれかかる彼女の髪を撫でながら、銀の魔法使いを見遣った。
何とハリーは、ダニエルまで伴っていた。彼は首まで赤くなりながら、視線を逸らしている。
チャーリーが言いかけていたことがようやく分かったとき、計ったようにドアが開き、ブリジットとシャーリーを振り切り、息せき切ったチャーリーが駆け込んできた。
「…ああっ」
チャーリーの呻きを聞き、僕は笑いが溢れだした。
気の毒そうに僕を眺めたチャーリーは、肩を竦めた。
「セディ、今年は皆でお祝いしよう」
片手で数えてもまだ余るほどしか呼んでくれない彼の呼びかけに、僕は頬が緩んだ。
よほど、僕は気の毒だったらしい。
腕の中のシルヴィからもふわりと優しく白金の魔力が立ち上った。
「約束はもう果たしてもらったわ」
そっと優しく囁いてくれた彼女の頬に口づけながら、僕も彼女の耳にささやき返した。
「いや、約束の続きは、君の今度の誕生日にしよう」
彼女は花が綻ぶように笑み、頷いた。
お読み下さりありがとうございました。更新が遅く、本当にお恥ずかしい限りです。