ある日のブリジット
お立ち寄り下さりありがとうございます。大分、更新が空いてしまいました。今回はブリジットさんです。
2/16早速訂正をしております。シルヴィアの弟の名前を間違えておりました。申し訳ございませんでした。
ある日のことでございます。
私がお嬢様の衣装を整えていると、唐突にチャーリーさんが話しかけてこられたのです。
まぁ、私のお話を聞きたいのですか?シャーリーさんのお話ではなくて?
え?なぜシャーリーさんを出すのかですって?
勿論それはあなたがシャーリーさんを――
まぁまぁ。そこまで顔を赤くなさるのでしたら、仕方ありませんわね。
このブリジットのお話を致しましょう。
お嬢様にお仕えしたいと思った理由ですか?
とても単純な理由でございます。
私が初めてハルベリー侯爵家に来ましたのは、14歳の時です。
こちらで長く勤めていた叔母の紹介でした。お嬢様のお母さま、エリザベス様にお仕えする予定で、参ったのです。
生れて初めて親元を離れて、一人で働きだすのです。
初めてお屋敷に来た日は、緊張のあまり文字通り震えておりました。
――まぁ、昔のことですよ、そんな顔をなさらないで下さいませ。
ですが、不思議なことでございます。
今でも覚えておりますが、お屋敷に足を踏み入れた途端、ふわりと体の力が抜けたのです。
何か気持ちにも余裕が生まれたのを覚えています。
「緊張するのは当たり前じゃないの。これから慣れていけばいいわ」そんな考えが生まれたのです。
ええ、おっしゃる通り、お嬢様の魔力が屋敷に溜まっているお陰で、私は過度の緊張から解き放たれたのだと思います。
そして緊張が解けた時、私はこのお屋敷で働きたいと思っていたのです。
お屋敷の皆さんはとても親切でした。私が幼かったこともあったのでしょうね。
本当にあれこれ優しくして頂いたのです。
お菓子も私には多めに配られたりしていたのですよ。
え?今ですか?
もちろん、もう大人ですもの。ありません。後輩もできましたので、むしろ私の分を差し入れているぐらいです。それに…体重も気になりますので…。
あら、嬉しいお言葉ありがとうございます。ですが、服のサイズをこれ以上大きくしたくはありませんの。ほほほ。
あら、話が逸れてしまいました。
そんな風に皆さんに優しくして頂き、屋敷に慣れ、仕事にも慣れたころ、ライアン様がお生まれになりました。
もう天使のような可愛らしさに、私、仕事の合間に必ず顔を眺めさせていただきました。
本当に飽きないものですね、赤ちゃんを眺めるのは。
赤ちゃんにこちらをじっと見つめられると、嬉しくてもう何でもしてあげたくなってしまいます。
お嬢様に赤ちゃんが生まれたら、私、一日中でも抱っこをさせて頂きたいものです。
ふふ、実はシャーリーさんに赤ちゃんが生まれた場合については、もう抱っこをさせて頂く約束をしていますの。
あらら、そこまで赤くならないでください。ふふふ、いじめているみたいです。
さて、そんなときライアン様のお顔をご覧になるために、お嬢様が学園から一時お戻りになったのです。
私はその時初めてお嬢様にお会いしました。
そして、一目で虜になったのです。
ブライアン様に天使の愛らしさを感じていましたが、お嬢様には、本物の天使に出会った思いがしたのです。
もうお嬢様の周りだけ空気が違うような心地がしました。
私、すべてを奪われたような衝撃を受けたのです。
私が呆然としている間に、奥様が私をお嬢様に紹介して下さったのでしょう。お嬢様が私を見て、笑顔を浮かべて下さいました。
胸が震えるような歓喜が走り抜けました。
私、女性に生まれていて良かったです。男性でしたら、セドリック様に決闘を挑んでいたかもしれません。
え、勝てない?………相変わらず、……、いえ、いいのです、そうですね、勝てませんわね、ですが、愛に理屈は通じないのです。
――やけにしみじみと頷いていらっしゃいますのね
とにかく、お嬢様に一目ぼれした私は、それからというもの、お嬢様付きの侍女になるために猛烈なアピールを開始したのです。
先輩にも、侍女長にも、執事にも、奥様にも、事あるごとにお嬢様付きになりたい希望を訴えていました。
お嬢様付きになることは競争が厳しかったのですが、年齢が一番お嬢様に近かったことを買っていただき、晴れてお嬢様付きの侍女になれたのでございます。
なぜ競争が厳しいのか、ですか?
お嬢様にはシャーリーさんが付いていらっしゃいますのもの。女性で護衛をこなすシャーリーさんはこの屋敷の侍女たちの憧れですのよ。
シャーリーさんの剣の練習を、侍女の私たちは勢ぞろいで見学しています。
剣のことは全く分かりませんが、本当にほれぼれする動きです。素敵ですわ。
皆さん、刺繍をしたハンカチやお菓子などをよくシャーリーさんに渡していますの。
全く私たちの思いに気づいては頂けていないようですが、そのつれないところもまた憧れを募らせるのです。
あら、急にどうなさいましたの?そわそわなさって。
シャーリーさんのところに行かれるのですか?
ふふふ、大丈夫ですよ、シャーリーさんはチャーリーさんのことしか見て――、
チャーリーさんはあっという間に部屋を出ていかれました。
どうやらまだ安心なさっていないようです。
お嬢様とセドリック様についてもあれこれ気を揉みましたが、シャーリーさんとチャーリーさんについても、またあれこれ気を揉むのでしょうか。
お嬢様付きの仲間として、もちろん、シャーリーさんのために私もできる限りの応援をするつもりです。
でも、あのシャーリーさんですから、大丈夫でしょう。
そんな風にも密かに思っております。
お読み下さりありがとうございました。今チャーリーが主人公の話を投稿していますので、このこぼれ話のところには登場させない予定でしたが、少し、登場してしまいました。次回は、セディの誕生日の話の予定です。