約束と手紙1
お立ち寄り下さりありがとうございます。ダニエルの友人のアリソンの話、ですがかなりダニエルの話です。
新しい生徒が学園にやってきた。
少し変わったやつだった。いきなり最上級グループに入り、難なく課題をこなしている。
魔力は少ない方なのに、その使い方は熟練された、さらには洗練されたものだった。
注目の的になっている彼に、驕りは全く見られない。
淡々と、そして時々嬉しそうに日々を送っているようだった。
その姿に、俺はもう卒業してしまったあいつを思い出していた。
あいつ、ダニエルと俺は同じころに入学したこともあり、何となくよく一緒にいた。
ダニエルは魔力が強かった。教室に入るなりあいつの居場所が分かるぐらい、魔力があふれ出ていた。
戦うことが大好きで、試合の授業は隣で話しかけても聞こえていないぐらい、すべての試合に魅入っていた。
――初めのころは。
やがて、ダニエルが試合で負けることが無くなるにつれ、あいつから立ち上る魔力は色がぼやけ、あいつの表情も輝きが無くなってしまった。
ダニエルはその強さから、グループの皆から一目置かれていたが、驕るところは全くなかった。
強い奴は強い、弱い奴は弱い、単にその事実だけがあいつの受け止めるものだった。
俺はそんな強さを持ったダニエルが好きだった。
そしてダニエルは面白い奴だったのだ。
「おい、カレンちゃんがこっちを見ているぞ。手を振ってやれよ」
グループで一番の美人という評価を得ているカレンはダニエルを好いていた。あいつ以外は誰もが知っている事実だったぐらい、熱烈にアプローチしていた。
「え、カレンってどいつ?」
「…え?」
あいつは素で訊いていた。
周りでどんな美人がいても、あいつには外見は素通りするらしい。魔力しか見ていなかった。当然、向けられる好意にも気が付かない。
実にもったいない。あいつのファンは多かったのに。
そんなあいつに変化が生まれた。
人間とは思えないぐらいのとてつもない美少女が入学してきた。あいつは食い入るようにシルヴィを見つめていた。
さすがに、あそこまで美人でしかも可愛いと外見に目が行くのか?
「今度の新入生は、すごい美――」
「すごい魔法石だよな!!」
どこまでもダニエルはダニエルだった。
けれど、確かにあいつは変化していた。シルヴィのことを気にして、よく目で追っていた。
シルヴィの初めての試合で相手をした後は、もう変化は明らかだった。
入学したころよりもぎらついて練習に打ち込むようになった。あいつの顔も、魔力の色も、もう一度生き返った。
俺はそんなあいつを見るのが嬉しかった。
変化はそれだけじゃなかった。
休みの日に、街の市へ二人で出掛けたときのことだ。
「あ…」
不意にダニエルが小さく声を上げた。不思議に思い、あいつの視線の先を辿ると、道行く人が振り返って眺める一団がいた。赤と白金と黒の髪の一団は足取り軽く楽しそうに歩いている。シルヴィ達だった。
彼女たちは、装飾品の店の前で足を止めた。
「やっぱり女の子はああいう物に惹かれるんだな」
ダニエルから返事がない。思わずダニエルを見て、俺は驚いた。やつの目はただひたすらシルヴィを映していた。
揶揄えないぐらい熱い眼差しだった。何だか見てはいけないものを見てしまった気がして慌てて目を逸らし、シルヴィ達に視線を戻した。
ジェニーがシルヴィに耳打ちし、シルヴィは頬を真っ赤に染め、アリスが笑っていた。
シルヴィはイヤリングに手をやり俯いたが、見ているこちらの頬が緩むほど、幸せそうな表情を見せていた。
大方、イヤリングの相手のことを揶揄われたのだろう。あれだけ丁寧な守護石を贈る相手だ。シルヴィへの思いの強さは明白だった。そして毎日必ずそのイヤリングを身に着けるシルヴィが相手を想っていることも明らかだった。
ダニエルはすっと目を逸らし、そのまま一瞬目を伏せた。
俺は何も言えなかった。
魔力と戦い方以外に全く関心のなかった戦闘バカが、とうとう戦うこと以外を好きになったのだ。できれば盛大に祝いたかったが、その機会はなさそうだった。
俺はあいつの肩を叩いた。
「俺、今月、仕送りが来るまで厳しいんだ。あそこの砂糖衣たっぷりのクルミを奢って、お兄さん」
あいつは目を細めて、肩を竦めた。
「奢ってやるが、食べるのは半分ずつだ」
「お兄さん、もう一声!」
「じゃぁ、驕りはなしだ」
「ええええ」
結局、ダニエルは一袋俺に奢ってくれた。そして、俺の目論見通り、シルヴィ達は俺たちを見つけて合流し、クルミは皆で食べたのだった。
お読み下さりありがとうございました。番外編なのに、長くなってしまい、次回もこの話です。申し訳ございません。不定期投稿ですが、定刻投稿は致します。11時に投稿する予定です。