樫村のオヤジ
山本に代わって撃たれた樫村の見舞いに病院にきた聡だが・・・
聡は一旦事務所に戻り、北見のクラウンキーを渡され、そのまま病院に向かった。
ついてすぐにロビーに今野を見つける。
「お疲れ様です。樫村の病室は?」
「306号だ、馬鹿野郎・・・・・お前、余計な客連れてきたな。」
「えっ?客?」
言われて後ろを向くと一見してヤクザものだと解る3人組が入口付近に立っている。
どうやら聡は事務所をでてから付けられていたようだ。真ん中の人物はいかにもどこかの組の幹部に見えるが・・・・
「あれ・・・は?」
「四矢組の若頭で相馬さんだ・・・・」
「ああ、山本のオジキのところの、・・・・なにが余計なんですか?」
「馬鹿!相馬さんからしたら山本のオジキは目の上のたんこぶなんだよ!次の四矢組5代目はどっちがなるんだろうって噂があったくらいだ!なのに・・・オジキはあの人にはめられてうちみたいな小さい組に回されてるんだよ!」
そうささやくように今野が話していると、相馬がやってくる。
「おう、今野ぉ・・・久し振りだな。元気でやってるか?」
「はい相馬のオジキ・・・ご無沙汰しております。おかげさんでなんとかしのいでます。」
「そうか・・・まあ風神会で食えなくなったら俺んとこの相馬組で面倒みてやってもいいぞ!ま・・・・ペーペーからだけどな。わっはっは」
そういって聡をちらっとみやり聞いてきた。
「おい、山本についとった若いのが撃たれたんだろ?山本もいるのか?」
「はい、・・・」
聡は今野の方をみた。今野がうなずいて
「うちの若いもんに案内させます。どうぞ!」
そういって聡にあごで『行け!』と合図した。頷いた聡は相馬を率いてエレベータに乗った。
「失礼します。」
ノックすると、山本の声がする
「・・・誰だ?」
「三浦です。・・・相馬のオジキが起こしになりました。」
「相馬の?・・」
そういって病室のドアを開けた。
「兄貴?どうしたんです?いったい。」
「いやな、お前が撃たれたって聞いてな見舞いに寄ったんだが、なんでも若いもんが代わりに撃たれたんだってな?・・・おめぇも悪運がつよいな。わっはっはっは。おい!」
一緒にきていたおつきの人間がフルーツかごを差し出す。
「どうぞ。」
黙って受け取った山本は
「せっかくですから、茶でも出させましょうか?」
「いやそれにはおよばねぇ・・・俺もなにかと忙しいんでな。今日は失礼するよ。」
「そうですか、わざわざありがとうございました。」
相馬が帰ったあと、聡は山本にお茶を入れた。樫村は足を撃たれただけで今は薬で眠っていた。
「すいません・・・今野さんが言うには俺がつけられたんじゃないかって・・・」
「・・・さあ、どうだかな?・・ま、気にするな!・・・で?護衛がくるって聞いてたんだが・・・まさか、お前か?」
「あ、はい。会長にも人割いてるって若頭が仰ったんで、俺が行きますって・・・」
「・・・おいおい・・・お前本当に組の人間になっちまうぞ。」
「いや、そんなつもりは・・・ただまだ恩を返せてない気がしましたから。」
「気にするなっていっただろう!」
「スミマセン。でも今回だけ!好きにさせて下さい。」
「・・・お前俺がなんでこんな気まぐれしたと思ってる?」
「判りません・・・なにか理由があるんですか?」
「そうだな・・・お前、昔、親不孝(現在の親富幸通り)に『宝船』ってバーがあったの知ってるか?」
「・・・ああ、行った事はないですけど、岩堀さんでしょ?弟さんのやってる『宝島』ってバーならたまにいきますよ。」
「そうか・・・俺がまだ駆け出しの頃、その岩堀さんにずいぶん世話になってな。チンピラの癖によく無茶やっては助けて貰ったもんだ。あの頃あのオヤジさんに会ってなかったら・・・俺ぁ今頃死んでたかもしれねぇ・・・」
「その宝船って店今はないけど・・・」
「ああ、誰かれ区別なくあの人に頼ってきてたからなぁ、あの頃は、中国から密入国して働き口探してる奴らが結構いてな・・・岩堀の親父さんはそんなやつらの面倒も見てやってた。」
「へぇー・・・それこそヤクザの仕事みたいですね・・・」
「極道はな・・・結局食い物にしちまうんだよ!だから、オヤジさんは信用のおける人間にしか紹介しなかった。絶対にな!でもそれがあだになっちまった。」
「・・・アダ?」
「ああ、しばらくすると密入国してきた奴らのピンハネをするチャイニーズマフィアたちがこの街でも増えてきた。俺達ともずいぶん揉めた。あいつらは仕事の邪魔をする奴は簡単に殺すからな・・・」
「・・・・という事は・・」
「ああ、オヤジさんも例に洩れず・・・・マフィアから何人か逃がしたり匿ったりしてたからなぁ・・・あっさりやられちまった。まだ子供も小さかったのにな・・・」
「その子供は、どうなったんですか?」
「母親が気丈な女でな、オヤジさんの弟が援助するって言うのをかたくなに断って、女手一つで立派に育てたよ・・・でもせっかく育てて貰ったのに・・・ヤクザなんかになりやがって。」
「えっ?ヤクザになったんですか?何でまた・・・」
「俺みたいなのが出入りしてたのがいけなかったのかもしれねぇな・・・本人が起きたら聞いてみろよ!」
「・・・・・?・・・・・じゃ、じゃあ、もしかしてその子供って?」
「ああ、こいつだよ」
山本は眠っている樫村を指差した。
「母方の性を名乗っちゃいるがな・・・お袋さんを苦労させて死んだ父親がどうしても許せないんだと。」
「そうなんですか・・・・知りませんでした。」
「そりゃそうだろうよ・・・俺以外は誰もしらねぇ。・・・で、あの時お前が『バーテンダー』って言ったろ?、つい若い頃の事思い出してな・・・くっくっく、柄にもねえ事しちまったがな。多分、樫村は俺の気持ちが判ってるだろうと思ってな・・・」
「それで・・・・俺の世話係を樫村に・・・」
「まあ、そんなところだ!だから気にしなくていい。俺が返しそびれた恩をオヤジさんの代わりに勝手にお前に返しただけなんだからな。」
聡はなにも言えなかった。やっと山本の事が判った気がした。
山本の真意は判ったが・・・・
いったい誰が山本を狙ったのか?