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山本との出会い

はたして聡はヤクザに対してどう返事をするのか?

岩堀が言った言葉の意味は・・・

大野という男が店を訪ねて来てから2日がたった。


別段なにをする訳でもなく、普通の生活を送っていた聡であった。

宝島のオーナー岩堀に言われたような『裏ワザ』を使った訳でもなく・・・

聡は『ショバ代』を払うつもりでいた。確かにいわれのない金の請求であり、払う必要のないものではある。


しかし、実際に広域暴力団の手がこの街に広がった以上、保証金としてミカジメ料を納めておくのも防衛策の一つとしては十分に効果を発揮するものだった。

払っておきさえすれば、少なくとも店にヤクザがきてトラブルに巻き込まれるという心配はなくなる。うまくいけば、常連としてこのビルの店に金を落としていく上客になるかもしれない。

岩堀には悪いが・・・ここは当たり前に行動して、オーナー達の了承もとって貰おう。そう決めていた。岩堀は任せると言っていたので、問題なく事は終わるであろう。



いや・・・終わらさなければならなかった。












聡は16でバンドを始めた。ただ何となく暇を持て余して友達に誘われるままに、続く気がしなかったので、道具代が一番安く、どこでも練習できるドラムを選んだ。


高校の仲間ではじめたバンドは瞬く間に名前が知れ渡り、ちょっとした有名人になってしまった。高校3年で解散するまで福岡中のライブハウスをまわった。


ちょうどその頃、同じように高校生バンドとしてはかなり注目を集めていたバンドがもう一つ。

聡は興味がなかったが、メンバーに誘われて無理やり連れて行かれたライブでそのバンドのギターのレベルに驚愕する。しかしもっと驚いたのは・・・・となりでメイクばっちりベースを弾いていた中学の頃の同級生。智雄の存在であった。


お互いバンドをしていた事は人づてに聞いていたが、もともと交流がある訳でもなく、話をしたのもその日の打ち上げが初めてで、しかし初めてとは思えないほど二人は打ち解け、理解し、その日から親友とよんでもいいほどの存在になった。それからの付き合いである。






その後、智雄のバンドも解散、何度かメンバー同士の交流もあって同じバンドで演奏をしていた事もあったが、結局は『もの』にはならなかった。それから学校に行き始めた智雄と、夜の世界に入っていく聡は道を違えた。






その頃の聡は、すべてにおいて刹那的に生きていた。バンド時代から多少の薬などはやっていたが、水商売を始めてからは加速度的にもっと刺激の強いものを求めていった。



20才になる頃にはシャブに手を染め、本業のバーテンダーの傍ら、さしずめ売人のようなマネまでやっていた。







そんな聡を全うな道に戻す出来事があった。

原因はある『ヤクザ』との出会いである。









その当時は外国人流れの薬など末端ではほとんど出回ってなく、殆どはその地域の暴力団が海外から仕入れ、それを構成員がさばき、聡のような売人に回ってくる。聡はその頃金を稼ぐ事に夢中になっていた。なりすぎていて周りが見えていなかった。



いつも決められたテリトリーの中でさばいていたブツだったが、その週に限り売れ残ってしまった。売掛で仕入れ、さばいてから上納するシステムの商売だったから、売れ残りが発生すると仕入金が払えなくなる。もちろん相手は曲りなりにも「ヤクザ」である。踏み倒したりしたら後で困った事になる。



あせった聡はいつもとは違う街まで売りに出てしまった。もちろん縄張り(シマ)が変わらなければ問題はなかったのだが・・・・・



聡が捌いた場所は仕入れ先のヤクザとは敵対する組織の収めるシマの店だった。


当時はキャバクラなどはなく、ラウンジ、クラブ、スナックそれからディスコなどがファッションビルの中に山程あって、飲みに来た客を装い、それとなくあたりをつけて、女の子を口説く傍ら、シャブを売りつける。このやり方は面白いように売れた・・・・が、売れすぎた。


あっという間にそのシマのヤクザに身元が割れた。

売りつけたソープ嬢にヤクザの女がいたのだ。飲んでいる最中にいきなり二人組にかちこみをかけられ店の外に連れ出されるが・・・・この後がいけない。



腕に覚えがある聡は何故ヤクザに咎められたか考えもせず、瞬く間に二人のチンピラを袋にしてしまう。それも『コテンパン』にだ。



しかもその後同じ店で飲み直すという豪傑ぶりを発揮していたものだから、やられたチンピラが今度は多人数でもう一度踏み込んできた時にはかなり酔っていて抵抗すら出来ずにそのまま事務所に連れ去られ監禁される。






気がついた時は後ろ手に縛られ、頭からバケツで水をかけられていて寒さで震えていた。

まわりを見渡してみてここがどういう場所なのか、自分が何故こんな目に遭っているのかがおぼろげながら理解できた。聡は生まれて初めて『死』を予感した。事務所内には会社のようにデスクが二つ対に置いてありその脇には高そうなソファーセットがある。おそらく10人程の男達が立っている中で、一際身体も大きく、威圧感の塊のような男だけがソファーに座っている。

聡の目の前には背の高い細みのスーツを着た男が覗きこんでいた。          


「おう兄ちゃん!お目覚めか?」


「・・・・」


「お前、何でこんな事になってるか・・・・判ってるか?うん?」


「・・・・ああ。」


「・・・かっこいいな!・・・おらぁっ!」


皮靴で顔をしたたかに踏みつけられる。一発で鼻腔の毛細血管が切れたようだ、鼻血がほとばしる。


「・・・うぐっ!」


「てめえ・・・うちのシマで勝手に商売されたら困るんだよ!売れなくなるだろうが!ああ?」


何度も何度も顔を蹴られ踏みつけられ恐らく前歯と言わず奥歯も何本か逝ったようだ。口の中が小石や砂を噛んだような状態になっていた。それでも聡は何も言わなかった。なにか申し開きをしても自分が助かるとは思えなかったし・・・・何よりヤクザに命ごいをする気にはなれなかった。



「ご、ごろせよ!」(殺せよ)



口から吐血し、歯を吐きだしながら聡は強がった。


「この野郎・・・まだお仕置きが足りねえみてえだな!おら!おら!!」


「うぐぅ・・おえっ!」


さらに胸と言わず腹と言わず、皮靴のつま先で蹴りたてられさらに血反吐を吐く。


その時、ソファーにかけた男が口を開く。


「兄ちゃん・・・痛ぇだろ?・・・痛ぇのが嫌なら、誰に言われてこんな事したか、教えてもらえねぇかな?」


「・・・・・」


「おいっ!!山本のオジキが聞いてるだろうがぁ!!」


「おいおい・・・待て!なあ兄ちゃん、喋るよな?」


「・・・誰にも・・ゴホッゴホッ・・誰にも言われてない。」


「・・・んん?どういう事だ?そりゃ。」


「・・・俺は、確かにあんた達から物は買ってないが・・・ただ売りたかったから場所を変えただけで・・・まずかったのか?ここいらで売ったら・・・」


「そりゃあまずいだろ・・・ところで、お前どこの組から仕入れた?」


「・・・・・」


「なんだ・・・口のかてえ奴だな。なら質問をかえるか、なんでうちの若いのを袋にしたんだ?火種(抗争の)じゃねえのか?」


「・・・い、いや、そんな訳じゃ・・・ただ因縁吹っ掛けられたのかと・・・」


「ハァ?・・・くっくっくっく、そうか!ただそれだけか?兄ちゃん、お前本職の売人か?」


「・・・いや、違う」


「じゃあ、どっか組で杯貰う約束でもあるのか?」


「・・・お、俺はヤクザじゃない!バーテンダーだ。」


「・・・・傑作だ。近頃のバーテンはシャブ売って、ヤクザを締めたりするのか?ハッハッハ・・・まあけじめはつけねえとな。」


山本というヤクザの顔の質が急に凶悪なものになる。


「・・・けじめ?指でも腕でも勝手に取れよ!!」


「・・だと?てめえ?!さっきからオジキに舐めた口聞きやがって!!なら指落としてやるよ!!」


「おいおい・・・落ち着け!・・・兄ちゃん。素人の指なんざ貰ったってケジメにはなんねえよ。」


「じゃあ・・・どうすれば?」


「そうだな・・・うちの若いのもやられてるしな、普通なら慰謝料で100万ってとこだな一筆書いて貰って・・・お前、持ってるのか?」


「今は・・・ない。」


「そうか・・・そうだよな、シマ破りしてシャブ裁くほどヤバいんだもんな・・・」


「・・・・・ああ。」


「・・・で?仕入れ先からいくら摘まんでるんだ?」


「・・・50万。」


「なら話は簡単だ。おい!樫村、おれの財布持ってこい。」


「ハイ!!」


近くにいた若い衆のひとりが奥の部屋にいって財布を持って出てきた。

山本は財布から束を取り出し聡にポンと投げた。手が使えないので確認は出来ないが、恐らく100万はあるようだ。


「なんだ、この金、ヤクザに施し受ける覚えもいわれもない!!」


「覚えがなくても受け取るんだよ!!いいか?その金もって仕入れ先の借金返済してこい!それからお前はその金受け取った分うちの事務所で働いて返せ!その間にお前もシャブが抜けるだろ。じゃないとお前そのうち仕入れ先からもカチコミかけられて・・・下手したら埋められるぞ!」


「いやだ!ヤクザなんかになりたくない!」


「まったくもの判りが悪い奴だなぁ・・・別にヤクザになれとはいってねぇ!今日から一番下っ端で雑用こなせ!夜は仕事に行きゃあいい。ただし朝は8:00に事務所に来て掃除だ。判ったか?兄ちゃん。」


「オジキ?!甘すぎますよ!それにこいつ逃げるかも・・・」


「お前は馬鹿か?これくらいで逃げるならだいたいヤクザ袋にするかよ!こいつは来るよ。なあ兄ちゃん。」


判るもなにも今の聡には選択権はないようだった。








聡はその場で金を持たされ解放された。

まるで狐に化かされたような気分だった。ヤクザに追い込み掛けられたのに金まで渡されて・・・


まあ、あの山本というヤクザを全面的に信用した訳ではないし、この金を借りたおかげで余計にまずい事になる可能性だってある。判ってはいたが、その時の聡には他に打つべき手はなかった。そのあしで仕入れ先の事務所までいって支払いを済ませた。もちろん顔はボコボコ、服は血まみれなのだから警官にでも止められたらちょっとややこしい事になりそうだったが、夜も更け開いている店自体少ない事も手伝って、スムーズに移動する事が出来た。(本人が思っている程スムーズには歩けていないのだが・・・)



もちろんその姿をみた仕入れ元のヤクザは不審に思い色々と詮索してきたが、ちょっと怖い筋からつまんで追い込みをかけられたが、こちらの払いを優先したのでこんな目に遭った。と説明すると黙って金を受け取った。そして金の都合をつけてもらった条件で薬から足を洗う旨を伝えたが、あっさり承諾されて逆に気味が悪い程だったが、その理由も次の日には判る事になる。





そして這うようにして家路についた後、死んだように眠りについた。



























この物語の主人公である聡。その過去の一部が語られましたが、どう現在と繋がるのか・・・

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