異邦人
店仕舞を終え、帰るばかりの聡は、やっかいな拾い物をしてしまう・・・・・
「タスケテ・・・タスケテクダサイ・・・」
その女性はその言葉を最初に口にした。
店仕舞いの途中、階段を通りゴミを出していた時に、大きなゴミ箱の横にしゃがみこんでいた。
言葉使いだけでなく、見た目も日本人のそれとは違う。黒髪に目も黒く、顔も東洋系なのだが・・・肌の色が褐色である。大きく胸元の開いたスカイブルーのドレスを着ていたが、ゴミに埋もれて、両膝を抱えるようにしていた。
「泥だらけじゃないか・・・立てるか?」
怯えきったその女性はびくびくしている風で、なかなか立とうとしない。
「タスケテ・・・タスケテクダサイ・・・」
「助けるって??・・・日本語判るかい?」
「スコシダケ・・・」
親指と人差し指でゼスチャーする。あまり理解力に期待できそうもない。
もし密入国者で、このあたりの暴力団と関係があるとすれば・・・・後々まずい事になるに決まってる。しかし聡はこのまま見過ごすことが出来なかった。
「誰に追われてるんだい?」
店に招き入れ、コーヒーを入れてやり、落ち着かせてからそう尋ねるが・・・何も言わない。
質問を変えてみる。
「どこから来たの?」
「・・・・・・ワタシハ・・・フィリピン・・・・オ、オトウサン二アワセテヤルトヤクソクシタ・・・・」
それから一時間程話をした。身振り手振りで何とか判った事は、この女の子はフィリピン人で、父親が日本人だという。良くある話で、バブルの好景気の頃、向こうで商売を手広くやって、現地妻を持ち子供を作った父親が、日本に戻ってしまい、最初の一年は送金されていたが、その後は音沙汰がなく連絡もつかなくなった。それから母親となんとか生きてきた。学校にも行き、仕事も決まり、普通に生活していたのだが、職場(中華レストラン)の仲良くしていた友達が日本に働きに行くという。その時父親の事が頭をよぎり、何とか自分も連れて行ってはもらえないだろうか?と仲介する人物に頼みこみ、3か月後に日本にきたという・・・・・
しかし、こちらでの仕事はマッサージ店だと聞かされていたが、着てみれば、同じようなフィリピン人がたくさんいて、狭いマンションに押し込められ、食事は一日二回。しかもフィリピンパブのホステスをさせられるという!!
話しが違う!とオーナーに詰め寄るが、仲介の人間にギャラは先渡ししてあり、それが返し終わるまで国には返してもらえないという話。パスポートとビザは取り上げられ、逃げ出す術がないという。
それでも一ヶ月我慢して働いていたが、昨夜オーナーから※「客をとれ!」と言われ、その場で乱暴された。恐ろくなって、一旦返されたマンションから逃げ出してきた。
・・・・・泣きじゃくりながらのカタコトで細部までは理解出来なかったが、概こういう事情だった。
聡がやるべき事はいくつかあったが、とりあえず匿う場所がいる。どんな背景がからんでいるかわからない以上、他人を巻き込むのには気がひけた。自宅に連れ帰る事にして、母にだけ事情を話し留守番に来てもらった。
『さあ・・・忙しくなるなぁ』
さて・・・・やはりというか・・・・
次回よりトラブルに巻き込まれる事請け合いです。