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融和

黒幕が判ったといってもなにも解決していないのである。どんな方向に進むのか?

ある晴れた朝。

聡はドライブに出ていた。愛車ランドクルーザー80で・・・・・

息子の洋介は平日の為学校に行った。しかし高速で1時間、降りて40分走った熊本の阿蘇、大観望の景色を見て、うまい空気をすいながら、洋介も連れて来てやりたかったな・・・と思う瞬間だった。隣ではジャージー乳のソフトクリームを頬張る可愛らしい口が見える。


「美味しいの?それ?」


聡は甘いものが苦手で、勧められてが断ったのだ。


「うん♪聡さんも食べればよかったのに・・・」


「いやあ・・・結構です。それよりも昼、どうする?夜は宿で食べるとして・・・」


「あたし、あんまり熊本とか来ないから・・・どっかお勧めある?」


「そうだね・・・夜に御馳走食べるから・・・ダゴ汁でも食べようか?」


「いいね♪・・・こっから黒川までどの位?」


「どうかなぁ・・・ま、ゆっくりいこう。温泉も夜中でも入れるみたいだし・・・」


「・・・家族風呂・・・予約してあるんだけど・・・」


真赤になりながらそう説明する様子が可愛らしい。


「・・・・・え?・・・・・いいの?」


「・・・・・・う、ん。・・」


「そっか♪・・・じゃあもう!旅館にいっちゃう?」


「もう・・・・・現金すぎ!!・・・でもせっかくだから、洋介君も一緒に来たかったね。」


聡も少しそれは考えていたところだったが、


「また来ようよ!今度は三人で。」


「・・・うん!そうだね!」


明るく笑う優香だった。


















例の件を画策した木之元興産は、智雄の元妻である優香の父が経営している会社だった。

智雄に聞いてその事実が発覚したが、それにしたって目的が判らない。悶々とする聡の為に、智雄が優香に連絡を取ってくれた。


近所という事もあり、優香はすぐに店に戻ってきた。


「こんばんは♪」


「ごめんね、つまらない事で呼びだしちゃって・・・」


恐縮する聡に


「ううん!・・・お父さんが何かしてそうなのは・・・実は判ってたの。」


「・・・優香ちゃん・・・お父さん、何のために・・・」


「・・・・・」


「まあ・・・俺は何となくわかるけどな。お前もわかるだろ?優香?」


「・・・うん。」


智雄と優香だけが納得しているようだが、肝心の聡にはなにが何だか・・・


「おいおい!俺にもわかるように説明してくれよ。」


「ごめんなさい。・・・今回の事は、元はと言えば、あたしがイケなかったの。」


「なにが?・・・」


聡が怪訝そうな顔をした時に、智雄が助け舟をだした。


「判った。言い辛いんだな?じゃあ・・・おれがある程度想像した事を言うから、違ったら教えてくれ。」


智雄が優香をみてそういうと、優香は黙って頷いた。

そして聡に向かって智雄は喋り出す。


「まず・・・優香はお前の事が気になって・・・いや、好きになった。合ってる?」


優香を振り向くと、赤面しながら頷く。驚く聡。


「・・・で、病気から回復した優香をお養父さんもお養母さんも心配してるけど、最近どうやら優香の様子がおかしい、・・・で?お養母さんが優香に尋ねた。・・・いい?」


優香はまたも黙ったまま頷く。


「お養母さんに聡の事を打ち明ける。そしてこの近所に越して、仕事を見つけて一人で暮したい!・・・でもそうなるとお養父さんにも理由を話さなくちゃならない。そこをお養母さんに任せたところ・・・・・結局今回のようになった。」


聡は優香に尋ねる


「そうなの?」


「・・・う・うん・・・多分今ので合ってる・・と思う。」


「でだ!聡が知りたいのは、なんでこんなややこしい事になってるのか?って事だろう?」


「ああ。」


「お養父さんの性格だよ!」


当たり前だと言わんばかりに智雄は続ける。


「性格?!」


「ああ、あの人は自分が目をかけたり、可愛がったりする前に必ずと言って良いほどその本人に試練を与えて、試す癖がある。だから、今回の件は、お前がどれほどの男か見極めようとしてる。なおかつ、こないだの大同組のやり取りを下請けの管理会社に聞いて、どんなコネクションがあるのか?どんな人間と付き合ってるのか?一石二鳥で調べてやろうって腹なんだろうと・・・」


「それが本当なら、少々気分が悪い話だな。」


憤慨した顔でそう漏らす聡。

優香が下を向き、慌てて詫びる。


「聡さんごめんなさい。父ともよく話しますから・・・本当にごめんなさい・・・」


「いや、これは直接お父さんと話合わないと、納得がいかない。」


「待て待て、お前お養父さんと話すって何を?」


そう智雄が尋ねると・・・急に改まって聡は智雄の方を向く。


「智雄!」


「なんだよ?・・・・びっくりするなぁ・・・」


「俺・・優香ちゃんの事が最近気になってる・・・いや、好きだ。」


突然の告白に二人とも固まるが・・・・


「お前さぁ・・・・それって元旦那にする告白じゃないだろ?なんで俺に向かって・・・っぷぷぷ」


「あ、・・・・そういえばそうだ。優香ちゃん。俺の事どう思ってる?」


慌てて優香の方を向きなおして聡は聞いた。


「・・・・・好き。です。でも・・・あたしなんか・・・」


「そんな言い方するな!」「そんな言い方!!」


智雄と聡が同時に怒鳴る。そしてお互い顔を見て笑いだす。


「智雄、俺が優香ちゃんと・・・・いいのか?」


「お前さぁ・・・俺の嫁さん元々だれの嫁さんだよ?俺が文句言えた義理じゃねえって。」


「ありがとう。」「ありがとう智・・・」


「・・・で?お養父さん、いや木之元さんと何を話すつもりだよ・・・」


「待ってくれ、その前に優香ちゃん。俺と付き合ってくれるかい?出来ればずうーっと。」


パァっと花が咲くような笑顔で涙を流しながら、優香は答える。


「・・・・ハイ・・・ふつつか者ですが、よろしくお願いします。」


「よかった・・・・お父さんとは、俺が直接会って全部話す。」


「・・・って言うと?若い頃の・・・組に出入りしてた話もするのか?」


「ああ、そこで偽ったってどうせわかっちゃうよ。その上で認めてもらう。」


「ありがとう。聡君・・・・ありがとう。」


「・・・ま、そこまで覚悟してるんなら・・・いいんじゃね?」














こうして、聡は木之元興産の社長である優香の父と話す事になった。次の日に優香の方からアポを取ってもらい、日を改めて優香の実家に行く。という事になった。










当日・・・・・・・

約束の時間よりも30分早く聡は着いた。時間を潰してから丁度にこようか、とも思ったが、結局なにをするでもなく、居間に通されて30分以上経過していた。優香の母がお茶を取りかえに来て申し訳なさそうに言う。


「すみません・・・お約束の時間は過ぎているのに。」


「いえ・・・時間より早く来たのは僕の方ですから。気を使わないで下さい。」


聡はお茶にも菓子にも手をつけず、背筋を伸ばしてひたすら待った。








「どうも、お待たせしました。」


「いえ、お忙しいのにお時間を割いていただきましてありがとうございます。」


結局、木之元は約束の時間より30分遅れて顔を見せた。従って聡は計1時間待っていた計算になる。(油断ならない相手だ。)聡はそう感じていた。



「ところで・・・あの話は、どうなりました?」


木之元は突然そう聞いてくるが・・・・聡には分からない。


「は?・・・あの話というと」


「あなたの事だ。もう黒幕が私だというのは判ってるんでしょう?」


まさに、今回の事の発端である問題だとその時に判った。


「ああ、あれは・・・やはりお断りしようと思っています。」


悪びれもせずに単刀直入に話して来てもらって、聡としては望むところである。


「ほー・・・・なぜですか?あなたは以前もヤクザ絡みのトラブルを解決なさったと伺っておりますが・・・あなたが受ける事で、あの界隈で商売されている方達も安心されんじゃないですか?」


「確かに、あの時は私を助けてくれる人達のお陰でなんとか解決する事ができました。でも・・・元々我々一般人が助けてもらってはならない世界の人からの援助を受けてしまいました。向こう流に言えば『借り』を作ってしまった事になります。ですから私一人で解決した訳でもありませんし、次に同じような事が起きた場合、簡単に事は済まないかも知れません・・・ですから、みんなのまとめ役には年長で、世間の事が解る方に受けて頂きたいと思っています。」


言葉を選びながら慎重に説明した。木之元は目を瞑って黙って聞いていた。


「お聞きしてもいいですか?」


「はい。僕に答えられる事でしたら・・・・」


「その、さっきのヤクザ絡みの時に助けてもらった人、というのは?」


「何人もいますが・・・大元で言えば、四矢組五代目の山本さんです。」


「あなたはなぜそんなヤクザに知り合いがおられるんですか?」


淡々と聡に向かって質問する木之元である。聡はすべて話さなければならない事を悟る。

そして、若い頃からのいきさつを全て話した。


「もともとは、不徳の致すところです。悪い事に手を染めて転がり落ちた底で手を差し伸べてくれた人達の情けで今、曲りなりにもまっとうに生きる事が出来ています。」


「それは・・・・あなたの人徳でしょう。あなたが一生懸命だったから出来た事だと思いますよ。」


「・・・そうでしょうか・・・自分では、よく判りません。」


そう答える聡に、木之元は言った。


「判りました。今回は色々と不愉快な思いをさせてしまいました。申し訳ありませんでした。」


そういうとその場で両手をついて頭をさげている木之元がいた。


「そんな?お顔を上げて下さい。」


「いえ、あなたを試すような事をしましたから。」


その言葉で、やっと今回のすべてがわかったような気がする。すべては優香を心配する親ごころからの行動だったのだろう。


「お願いですから頭を上げて下さい。優香さんの事思えば・・・僕がどんな人間か調べたくなるのも判ります。」


「ありがとうございます。そう言って頂けると・・・・」


そう言ってやっと頭を上げる木之元である。


「あの・・・・」


聡は改まって木之元を見る。


「こんな・・・ついでに言う事じゃあないんですが・・・・」


「・・・・はい、なんでしょうか」


「優香さんと・・・・・結婚を前提にお付き合いさせて頂きたいのですが。」














結婚という言葉には多少反応が過敏になっているようだったが、優香の両親は聡に対して悪い印象は持っていなかったようだ。先の事はおいおい考えるとして、交際の許可はその日に貰えた。実際、退院して日が浅い事もあり、一人暮らし事態賛成していなかった父親は聡の店の目と鼻の先という事で安心しているという。











「美味しかったね!」


優香がさっき食べた『ダゴ汁』を満足げに評価していた。


「ああ、思ったよりぜんぜんいけた。」


「夜ごはんはカモ鍋って書いてあったけど・・・楽しみだねぇ♪」


「もう晩飯の事考えてるの?」


はっとして赤面する優香・・・・


「別に・・・・お腹がすいてる訳じゃあないよ!!」


「ま、いいさ。俺は・・・さっきからずうーっと家族風呂の事考えてるし・・・」


「イヤらしい!そんな事ばっかり考えてたのね!」


「ちょっと待って!家族風呂で予約したの優香ちゃんじゃなかった??」


「・・・・・・・・」


ふてくされてもじもじする優香である。













とにもかくにも聡にもやっと春が来たようだ。
























一区切り付きました。まだまだ本編は続く予定です。『Bar』という出会いの場で次にどんな物語があるのでしょうか・・・・

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