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それぞれの『春』

身の回りの厄介事がひととおり区切りがついた聡・・・

そろそろ自分自身の幸せも考えたいところなのだが・・・

結婚式も何とか無事(?)終わり、店がある聡は二次会を丁重に断って式場を後にした。

智雄からは


「二次会終わったら顔だすよ!」


と声を掛けられたが、恐らく『三次会』も想定すると・・・・かなりの深夜になるのではなかろうか・・・・・

もともと今日の主役である新郎の『誠一』という男は大のお祭り好きで、今までの友人の結婚式でもほとんど自分が中心となって、イベントや盛り上げるサプライズを用意していたのだから、自分の結婚式になにもない・・・・とは考えられない。そう思うと参加したい気持ちもないではなかったが、やはり店が気がかりで楽しめそうもない為、結局断って帰ってきた。











いつもと同じ時間に看板を出し、グラスを念入りに拭いていると、一人目のお客が来た。

そーっとドアを開けて、中を見渡しながら・・・・聡を見つけてほほ笑む。




「いらっしゃい。優香ちゃん。」


「こんばんは♪」


「また、お母さんと一緒に来てるの?」


「ううん♪。今日は一人で!この前は心配掛けちゃって、ごめんなさい」


そう申し訳なさそうに謝る優香だが・・・・先日来た時より幾分明るくなっているようだった。


「気にしないでって、いったでしょ?」


「・・・ありがとう。」


「最近こっちに来る事が多いけど・・・なにか用事かい?」


「うん・・・・もう大丈夫だって、お医者さんが太鼓判押してくれたから、また一人で住もうかなって・・・今日部屋さがしに来てたの。」


「あー・・そうか!、で?仕事はどうするの?」


ありきたりの質問だが、優香は話したそうに見えたので、あえて聞いてみた。


「うん・・・・お父さんの知り合いの設計事務所に紹介して貰って・・・・事務員だけど。」


「そうなんだ!良かったね。」


「うふふ・・・ありがとう。」


他の来客もなく、優香は色々話をした。聡はただ黙ってうなづくだけ・・・・

1時間程たってから他の来客が相次ぎ、忙しそうにしている聡を、優香もただ見つめていた。


何とかピークを過ぎた時に、頃あいを見計らったのであろう・・・・優香は席を立つ。


「じゃあ、聡さん、帰ります。」


「・・・そっか!ご免ね、あんまりかまってあげられなくて・・・」


「ううん!いっぱい話せて良かった。」


「また来てよね!」


そう聡がいうと、少しもじもじして優香は答える。


「・・・・うん。・・・あのね・・・実はこの近所のマンションにしようと思ってるの♪」


「そうなんだ!じゃあしょっちゅう来れるね!」


「うん。くる!じゃあね!」


「ありがとうございます。」


ドアまで見送る聡に柔らかい笑顔で手を振る優香だった。













午前0:00過ぎ・・・また女性客一人の来店。


「なんだ・・・・お前また来たのか」


今朝も顔を合わせたエリカであった。


「またとは何よ?またとは!お客様に向かって!」


日曜なのに仕事だったらしく、タイトなスーツで髪は後で束ねている。スーツの色が地味なだけに、手入れの行き届いた指先(特に爪)が美しく輝いて見えた。


「で?・・・・また相談事か?」


「あのね!あたしは悩める乙女じゃないのよ、毎日毎日そんなに悩んでないわよ。」


「あっそう!・・・じゃ、お客様。何をお飲みになりますか?」


「うふふ・・・・・・いつもの♪」


笑顔で人差し指を出してそう答えるエリカだった。














「・・・・で?、この前から言ってるけど、お前たちどう決着付けるつもり?」


「・・・・・その事で三人で話してたんだけど・・・・あぶれちゃって」


そうふてくされるエリカ。髪の毛をほどいて右手の人差し指でくるくる巻きながら答える。


「あぶれた?・・・何で?三人で話さないと意味ないだろ。」


「そうなんだけど・・・・亜希子さんさぁ・・・昇進が決まっちゃって・・・東京に転勤になったのよね・・・」


「へー・・・・で?」


エリカの困った顔の意味が判らぬ聡である。


「・・で?じゃないでしょう?東京って、そう簡単に行ったり来たりできる距離じゃ無いじゃない?だから・・・・あたしと智君に二人で幸せに♪・・・なんて勝手に決めちゃってるのよ。」


聞いた話だけを額面通りに受け取れば、エリカにとって悪い話ではない筈である。いったい何をふてくされているのか?


「・・・じゃあ、別にいいじゃん!結婚すれば・・・」


「判ってないわね!・・・智君がそう言われてすぐ返事出来るような人なら・・・今こんな関係になってないでしょう?」


「・・・・てことは・・・智雄は反対してるのか?」







後で来る、そう言っていた智雄はまだ来ていない・・・・やっとこれない理由が判った。


「反対してるなら・・・・それはそれで答えなんだろうけど・・・」


エリカの顔が沈む


「反対も賛成もしないんだもの・・・・いったいどうしたらいいのか・・・」






やっぱり悩める乙女じゃねえか・・・聡はそう思ったが、口には出さずにいた。

時の流れは誰にでもあり、また一人一人流れる速度も違っている。その流れが偶然重なった瞬間が『出逢い』であり、お互いまた違う流れに乗っていくのが『別れ』であるそれぞれの登場人物の流れはこれからどう重なりどう離れていくのだろうか・・・・・

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