日常
何とかメカジメの件は片付いたものの・・・・
何か忘れてる気がする。そんな聡の日常です。
それからしばらくは平穏な日常が続いていた。
まぁ・・・・変わった事といえば、大同組の大野が常連になった事ぐらいだろうか。
大野は本当にこの店が気にいったようで、周りに気を使わせないように、店内には一人で来ていた。(おそらく、近所で暇を潰している護衛が一人か二人はいると思うのだが・・・)
他の常連も、この一見ヤクザ風の男(いや、間違いなくヤクザなのだが)
が怖い存在ではない事に慣れ、別段気にもしなくなっていった。
しかし、毎日の仕事に追われ、すっかり聡の頭から無くなっていた約束をあるメールが気付かせてくれた。
ある日の昼過ぎ・・・・・
『いよいよ来週の日曜からスタジオにはいるよ!もう全部覚えた?』
智雄からのメールだった。
もうじき結婚する友人の誠一の為にみんなでバンドをやる・・・・・
そう決めた事を完全に忘れていた。覚えたどころか、音源すらもっていない。
すぐに返信。
『すまん!音源くれ!今日!!』
そして返信。
『・・・・まじで!・・・・まだ聞いてもないって事?』
ちょっと怒りの空気が感じられるが、あえて気づかぬふりを決め込んだ。
『最近忙しくて!ごめんな。今日頼む!』
そして空気は呆れムードに
『はいはい・・・了解。』
今日は金曜日、明日まで稼ぎ時で時間などない。すなわち・・・・・
土曜日に貫徹でスタジオに行く!という事が決定してしまった。
智雄は仕事が終わって直接店まで音源を持ってきてくれた。
「助かった!ありがとう。」
「いいえ!どう致しまして!日曜の14:00からだから、大丈夫?」
「まかせろ!なんとかそれまでに覚えるから!全部で何回入れるの?」
「えっと・・・式が再来週だから2回?」
「OK!がんばろうな!」
結果からいうと、聡はスタジオに行かなかった。客足がなかなか引かず、土曜の夜の営業は朝8:00まで!そのあと音源を聞き、店内で練習。仮眠のつもりでソファーに横になり・・・
気がつけば夕方の5:00!!!!
携帯を見ると、智雄から2回、誠一から1回それぞれ着信があった様子。
なんとも締まらない欠席である。
そして・・・・・同じような経緯で次の週も欠席してしまった。
いよいよ後がない。あとは本番前のリハーサルのみである。
さすがに今回は遅れてしまう訳にはいかない。聡は、式の前日。いつもより早く店じまいをして6:00には片づけてしまった。
そこで改めて音源を流してスティックとイスでリズムと途中のブレイクを中心に練習をくりかえしていた。
7:30になった時、携帯が鳴る。
エリカだった。
「まだ飲める?」
「はい残念!今日はもう締めた。」
「うそーっ!意地悪しないで入れてよ!」
「本当だって!今日友達の結婚式なんだよ。」
「はいはい、判りました。いいから!いつものつくっててね!」
そこまで言い終わると一方的に電話を切るエリカ。どうやら信用していない様子だった。
「はーい♪お待たせ!」
能天気にエリカは入ってきた。かなり酔っているようだ。
「おまえなぁ・・・こんな時間までどこで飲んでたんだ!」
「いいでしょ!別にどこでだって・・・」
「一応心配でてるんだけどなぁ・・・」
「・・・あれ?作ってないの?言っといたでしょ!」
「判ったよ・・・」
片付けが終わった在り様を見れば、エリカもあきらめるのでは?と淡い期待を寄せていたのだが・・・・これだけ酔っていれば、期待するだけ無駄だったかもしれない。
聡はあきらめてカウンターに入りエリカのお気に入りを作り始めた。
「あのなぁ・・・毎回言うけど、キール・ロワイヤル頼む時は何人かで来た時にしてくれよ。」
「え〜・・・だって他のお客さんにはそんな事いわないじゃない!」
「そりゃ言わないけど・・・毎回シャンパン開けてるんだからな。商売にならないよ。」
「いいわよ!シャンパンが終わるまで飲んであげるから。」
ますます能天気な事を言い出すエリカである。
「今何時だと思ってるんだ?」
そう言われて腕時計を確認するエリカ
「え〜・・・・っと7:55!うふふ。」
「うふふ、じゃねえ!まったく・・・・今日は?なにかあったのか?」
聡がそう聞いた途端・・・・・エリカはその美しい顔を歪めた。
これはおお泣きする前のエリカの癖である。
『あちゃー・・・・地雷踏んだ。』
激しく嗚咽しながら泣くエリカの肩を抱いて話を聞いてみる聡だが・・・・・
結局のところ、智雄がらみである。最近週末になるとどこかに出かけて夜まで帰ってこない。
なんだか疲れてるみたいで、抱いてもくれずに寝てしまう・・・・・という内容だった。
聡は可笑しくって笑いをこらえながら説明する。
「いや・・・だからさ、今日結婚式なんだよ!さっきも言ったけど・・・」
そういいながらドラムのスティックを見せる。
「本当に?!」
「ウソついてどうする!」
そこまで聞いて、エリカはやっと納得してくれたようだ・・・・急にうつ伏せてすやすやと・・・
「・・・て、おい!寝られると困るんだよ!おい!エリカ!」
どうしても起きそうにない。困り果てるものの、風邪を引かせる訳にもいかず・・・
聡は上着をエリカにかけて、ソファーにドッカと腰を下ろした。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
ガバッ!!!
起きた!・・・という事は今まで寝ていた!という事である。
慌てて時計を確認する。リハが11:00からだったのだが・・・
『13:30』!!!!!!!!
確か式は14:00からだったはず。もう家に帰って着替える時間などない。
携帯にはおびただしい数の着信が!
エリカを叩きだし、店の戸じまりをして急いでタクシーを拾う。
式場につくと、みんなスーツ姿の中で、聡は一人蝶ネクタイとベスト
かなりのミスマッチだが、そんな事を気にしている暇すらない。
慌てて会場に入ると、智雄ら友人のホットした顔。
「・・・・おまえねぇ・・・」
「すまん!!すまんみんな!!何とかぶっつけ本番でよろしく!」
よろしくも何もあったもんではない。仕方なくメンバー全員食事はあきらめて、待ち合い室に移動して、曲の確認と音無でのリハ・・・・・
本番では6割程度の出来であった。
奇跡的に!と言っておこう。
さてさて・・・・何とかなった結婚式でしたが、エリカと智雄、亜希子の問題はいまだ解決せず・・・・
主役の聡にも色恋沙汰がそろそろあっても良いのでは?