ルナシスーー求婚
道すがら軽く自己紹介を交わした。少女の名はフィーレアというようだ。
吹き渡る風に揺れる麦畑のような長い黄金色の髪に、柔和な顔つきは、まるで天使のようだ。
姿容から鑑みるにお嬢様育ちなのは間違いない。
一体どんなお礼をしてくれるのだろう。考えただけでニヤニヤが止まらない。
「着きました。ここが私の家です」
「おお!! すげえ!!」
なんつー大きな家だ。一言で表すなら"城"。
やはりこの美貌にしてこの家在り、だな。
「ーーいえ、そちらではなく、こっちです」
フィーレアは隣の家を指さした。
「え?」
フィーレアが指差したのは貧相な小屋。どうやらコレがフィーレアの棲息地のようだ。
ま、まあ、そうゆうこともあるよな。大丈夫だ。気にしない。いや、本当に。
中に入ると、それはまあ何とも侘しい部屋だった。
殆ど空っぽである。相当な貧乏人なのかもしれない。
「どうぞ掛けてください」
フィーレアに促され、部屋の中心に置いてある椅子に腰掛ける。
腰掛けたヒズルと向き合うようにして、フィーレアは椅子に座った。
「随分さっぱりした部屋だね」
「うふふ。昔少々ありまして、その際に私財を投げ打ってしまったのですよ」
可憐で優美な微笑みを浮かべるフィーレア。
可愛いな。ほんっと可愛いな。
「そうなんだ。何があったの?」
「うふふ。長くなってしまうので、それは又の機会にお話ししますね。
それよりも私、貴方にお礼がしたくてこの家に御呼びしたのです」
突如、フィーレアは恍惚な表情になり、とろりとした眼つきでヒズルを見つめる。
その仕草にどぎまぎするヒズル。来るか、急展開。ヒズルは期待に胸を高めた。
「お、お礼って、何してくれるのかな」
そう問うと、フィーレアは頬を赤らめ、椅子から立ち上がるとヒズルに一歩近付いた。
その仕草でヒズルは理解した。この女が自分に惚れているということを。
フンッ。俺はどこぞの鈍感主人公とは違うぜ。鋭いんだぜ。
「私、助けていただいた時、貴方とは運命のようなモノを感じました。
先ほどから胸の高鳴りが止まらないのです。
ヒズル様、どうか私をお嫁にしてください」
もじもじと恥かしそうに、それはもう可愛らしい仕草で告げたのです。
ヒズルは間髪入れずに承諾した。当然だ。
こんな美少女に求婚されて無下に断る奴がいたらソイツはホ○だ。
すると、フィーレアは頬に涙を流しながらヒズルの頬にキスをした。
ヒズルは、異世界最高だぜ、と心の中で快哉を叫び、涙した。
「早速婚姻届けを出しましょう!」
フィーレアはどこからか羊皮紙を取り出した。
"自称"賢いヒズルはフィーレアの気持ちをすぐに察した。
恐らく俺を他の女に盗られたくないんだろう。
一刻も早く俺を独占したいが故の焦り。分かる。分かるぞ。その気持ち。
乙女心に理解ある俺だからこそ分かることよ。
「もちろんだとも。マイスイートハニー」
ヒズルはノリノリだった。
そしてフィーレアに言われるがままサインをした。
文面には小難しい事が沢山記載されていたが問題ないだろう。
これで俺とマイスイートハニーは永遠に結ばれるのさ。
「ありがとうございます♪」
フィーレアは満面の笑みを浮かべていた。
相当嬉しいんだろうな。俺も同じ気持ちだよ。
「よし! 今から二人で愛を育もう!」
「あっ、そうだ。私、この後用事があるんだった。ごめんなさい」
「え? そうなの?」
「はい、そうなんですー。ごめんなさい。
続きはまた今度しましょ♪ その時はたっぷりご奉仕させていただきます」
ご奉仕という単語に興奮したヒズルは、わかった、と威勢よく返事をした。
「じゃあまた明日来るね! 俺、街の北にある、わくわく魔道具店って場所に住んでるから」
一瞬フィーレアがニヒルな笑みを浮かべた様に見えたが気のせいのようだ。喜色満面に手を振りながら見送ってくれている。
ヒズルは鼻歌交じりに帰宅した。