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旅路

 時刻は昼。空には燦々と光る太陽が、ヒズルとルーズィを容赦なく照らしていた。

 二人はルナシスという街を目指していた。

 オークの森を抜けた二人は今、森と街の中間地点に位置する丘陵地帯にて休憩している。


 「ほい。はい。えい。ほいさ」


 ヒズルは喜びの舞をしていた。喜びの舞とは、簡単に云えば、馬鹿っぽい踊りである。

 そんなヒズルを凝視していたルーズィは、「可哀想だわ。暑さでやられたのね」と呟いた。

 

 「おい。勝手な勘違いで侮辱するような事をいうな。

 俺は至って正常だ。オークでも何か魔法のようなモノが使えないか確かめてたんだ」


 バレリーナのように軽快に立ち回るヒズルの姿は、

 他の者に嘔吐感を催すのに余裕で事足りるほどだ。


 「その動き普通に気持ち悪いんですけど。見せられるコッチが不快だわ。

 それに無理じゃないの?魔法って、使用したい魔法の原理を理解出来てはじめて扱えるのよ。

 ヒズルは見た目からして頭が悪そーーイタッ。なにすんのよ」

 

 むかっ腹を立てた様子のヒズルは、容赦ない拳骨をルーズィにお見舞いした。

 殴られたルーズィは、涙目で殴られた箇所を撫でている。


 「この外見は本来の俺じゃねえ。ああ。くそ。人間に戻りたい」


 ヒズルは自分の肢体を眺めると、暗澹たる表情を浮かべた。

 

 ルーズィは何かを思い出した様に、「あっそういえば」と言い、そのまま黙る。

 その様子を不自然に思ったようで、「どうした」とヒズルが訊ねるも、

 ルーズィは、ぷいっと拗ねた様子で、「なんでもない」と答えた。

 

 「なんだよ。どうしたんだよ」


 ヒズルは再度問い詰めた。


 「謝って。そしたら教える」


 頬を膨らせながら、拗ねる素振りをするルーズィ。


 「はいはい。ごめんごめん」


 ヒズルは投げ槍に謝罪した。


 「全然誠意を感じないわ。だめ。やり直し」


 仕方なさそうにヒズルは、申し訳ございませんでした、と謝罪した。

 ルーズィは、「そこまで言うなら許してあげるわ。感謝しなさい」と満足気に頷いた。

 

 「で、なんなの?」


 「コレよコレ」


 ルーズィは右の掌を上に向けると、「チェスト・首飾り」と唱えた。

 すると、ルーズィの掌の上にピエロの首飾りが現れた。

 そしてその首飾りをヒズルに手渡した。

 

 「なに、この悪趣味な首飾りは」


 「素敵でしょ。私が作ったのよ。私、魔道具を作るのが趣味なのよ」


 「魔道具? 魔法が使える道具ってこと?」


 「ええ。そうよ。その首飾りには私の魔力が込められているのよ。着けてみなさいよ」


 ヒズルは言われるがままに首飾りを装着する。

 すると首飾りのピエロから、ケケケケ、と不気味な音が鳴る。

 そして、ポンッ! と音が鳴り、多量の煙が噴き出した。


 「ごほっ。な、なんだよこれ」

 

 大量の煙を吸い込んだヒズルは咽る。少し経つと煙が晴れる。

 すると霧散した煙の中から、特にこれといった特徴のない黒髪の少年が現れた。

 それはヒズルであった。因みに服装は相変わらずの腰布一枚だけである。

 

 「自分の手足を見てみなさい」


 ルーズィに言われるがまま、身体中を見回した。


 「うお。人間に戻ってる。ど、どうゆうこと!!」


 吃驚した顔をするヒズルに、優越感を感じたようなルーズィは、自ら作成した魔道具について語りだした。


 「それはね、変装の首飾りというのよ。一定時間、人間に変装出来る代物なの。

 特別に貴方に貸してあげるわ。絶対に失くさないでよ。私の最高傑作の一つなんだから」


 「おお!! サンキュー。こんなもの作れるなんてお前もしかして凄い奴だったのか?」


 感心した面持ちになるヒズルは、珍しくルーズィは褒めた。


 「ようやく私の凄さに気付いたようね。今度からはルーズィ様と呼んでもいいわよ」


 ルーズィは調子に乗った様子で踏ん反り返る。

 ヒズルは、踏ん反り返っているルーズィを、えいっ、という掛け声と共に軽く押した。

 すると、ごふっ、と呻き声を上げ、ルーズィはそこそこの距離を吹き飛んだ。


 「おお。人間の姿だけど腕力はオークのままだ。

 しかも身体が異様に軽いぞ。なんか超人になったみたいだぞ、これ」


 ヒズルは、普通の人間では到底不可能な速度で素振りを始めた。


 「力が湧き上がるぞ」


 しばらく続けると満足したのか、ふう、と額に流れる汗を吹いた。


 「あっ。そういえばアイツどこいった」


 ヒズルは周囲を見回した。


 「げっ!! なんだあれ」


 ルーズィは目をクルクル回して気を失っていた。

 気絶しているルーズィに向かって、一体の茶色い液体モンスターが接近してきていた。

 

 「おいルーズィ。目を覚めせ。なんかヤバそうなのが来てる。おい。起きろ」


 20mほど先にいるルーズィに呼びかける為、ヒズルは大きな声で叫ぶ。

 そしてルーズィは目を覚ました。


 「うーん。あれ、ここはーーってそうよ。いきなり何すんのよーーってきゃあああああ」


 目前のモンスターに気付いたルーズィは悲鳴を上げた。


 「納豆スライムじゃない!! 自分の体臭を他人にも伝播させようとする極悪卑劣なモンスターよ。

 助けて。早く助けて。穢されちゃうわ」


 悲痛な叫び声をあげるルーズィ。


 「待ってろ!! 今助ける」


 ヒズルは、空手家独自の呼吸法である息吹を行う様に呼吸をする。


 「血沸き肉躍るぜ」


 しかしその間も納豆スライムはルーズィに這いずりよる。


 「行くぜ!!」


 ヒズルは叫んだ。そして片足に力を入れ、地面を蹴りあげる。

 地面には凹みができる。相当な圧力が掛かった証拠である。

 ヒズルは、目にも止まらない速さで移動すると納豆スライムの背後に回り込んだ。


 納豆スライムは、今にもルーズィに襲い掛かろうとグジョグジョと移動する。

 その距離わずか一メートル。

 

 「オラァ!!」


 ヒズルは、前方にいる納豆スライムに右ストレートを叩き込む。

 納豆スライムは、中身をぶちまけグチョグチョになった。

 丁度ヒズルと納豆スライムの直線状にいたルーズィは、その残骸をモロに浴びた。

 

 「あっ」


 それから暫くの間、ルーズィとヒズルが会話を交えることはなかった。


 そんな二人のやりとりを、ひっそりと岩陰に隠れながら観察している少女がいた。

 二人は気付く様子もなく、街を目指すのだった。

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